ローファーとハイヒール

カゲトモ

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 チッ、チッ、チッ、カリカリカリ、コツ、コツ、コツ。

 誰も一言も話さない静まり返った教室で、その音達だけが耳につく。テスト中の、このピンと張りつめたような空気が、昔から嫌いではなかった。

 容姿にはそんなに恵まれなかったけれど、頭の方は出来がいいようで何でもそれなりに理解することが出来た。だからテストも大体一番に終わることが出来る。まぁ、実際には一番に終わっているかは分からないけど、なんとなくそんな気がする。なんて、自意識過剰か。

「ふぅ」

 見直しを二回もした答案用紙を裏向けると、シャーペンを置いて肘をついた手に顎を乗せる。

 前から四番目の真ん中の列。すなわちこの教室の真ん真ん中の席がいつもの試験席だ。この学校では採点がしやすいよう必ず試験時は出席番号順に机を動かす。正直面倒だけど仕方ない。

 360°、全方位からシャーペンを答案用紙に書き込む音が聞こえる。この教室で正面を向いているのは、自分と、監視官でありこのクラスの副担任の佐藤先生だけだ。

 先生は教壇に置かれたイスに腰掛けて、持参した本を膝の上に乗せながら教室を見渡している。

あ。

 一瞬、先生と目があう。笑ったらいいのか、それとも無表情の方が良いのか。逸らせない視線で結局曖昧な表情を浮かべた。それを見た先生は仕方なさそうに小さく息を吐くと、身振り手振りで顔を上げないように指示する。カンニングを防ぐためだ。

 はいはい。とでも言うように小さく首を振って肘をついたまま顔を下に向ける。視線が裏向けた答案用紙に落とされる。

 もちろんカンニングなんてしないし、っていうか必要ないし。きっとそれは先生も知っているだろうけど、カンニング疑惑があがらないようにするためで。

 仕方なしに、ぼうっとシャーペンのグリップ部分のデコボコなんかを数えてみる。こうなってしまうと退屈で。まぁそれでも時間は過ぎるわけで。

 チッチッチッ。

 黒板に書かれたテストの時間が残り十分になった時。先生が読んでいた本を閉じ、席を立った。コツン、とヒールの音が響く。

 先生は漫画で見るような巨乳でメガネで、スカートが短くてちょっとエッチな女教師、では全然ない。むしろ素朴で、純粋って感じの。

 肩で切りそろえられた黒髪、控えめなメイク、淡いピンクのストライプシャツ、膝丈のスカート。ごく普通のどこにでもいるような、ありきたりな年若い先生と言った感じ。

 でもひとつだけ、普通の先生とは違うところがある。それは、靴。

 佐藤先生はハイヒールを履いている。

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