後日談

翌日、午後二時四〇分頃。慶一は門真市内にある電子部品製造の町工場にて、中途採用面接試験を受けていた。

「えー、ほな、まず初めに瓦谷さんが今までの人生で一番自慢出来ることをアピールしてみてや」

「えー、その、わたくしは、意外にも、リーダーシップも発揮したことがあり、その、つい先日、旅行で、後輩達を、引率」

「それ、面接のマニュアル本に書いてあった内容のように思えるねんけど。いやぁ、もうずいぶん前からやけどね、うちに受けに来る若い子ぉはこういうマニュアル通りの受け答えする子がほんま多いんですわ~。まあそういう子は真面目でええ子なんやけどねぇ。まあどこの会社も似たようなもんやろけど。ハッハッハ」

「いえ、これ、本当、でして」

 あれ? 思うように話せない。冒険前と同じじゃないか。

 気さくなおっさんタイプの面接官に圧倒されてしまい、結局、今までと同様、面接は予定よりも早く終わって帰らされたのだった。

同じ頃、豊中丘高校。

「あれあれ? おかしいな。もっと軽快に動けると思ったのに」

「私も思うように動けないよ。今までと同じだよ」

「こらっ、利川さん、播本さん、私語禁止やっ!」

 千景と舞衣はダンスの授業で前回までと同様、見苦しい動きをしてしまった。教科担任に注意もされてしまう。


      ☆


午後四時半頃。慶一は帰宅後。

「佐桜里ちゃん、俺、コミュ力大幅に上がった気がしたんだけど、旅の前と全然変わってないような気もするんだ」

 佐桜里をゲーム内から飛び出させて不満を呟く。

「そりゃ変わってへんよ。あれはゲームの世界やから。リアルの日常生活には何の影響も及ぼさへんで」

 佐桜里はにこにこ顔で伝える。

「そんなっ! 普段よりも上手く話すことが出来てたのが実感出来たのに」

「それについてもゲーム内敵モンスター退治の旅の最中っていう特殊な状況下でのみ有効やったんよ」

「それもファンタジー要素だな」

 慶一はがっかり気分。

ともあれ午後五時頃、ゲームを返しに待ち合わせ場所の公園へ。

「佐桜里ちゃん、稼いだお金が突然全部消えちゃったよ。なんでなん?」

「学力も全然上がってなかったよ。今日あった算数のテストもいつも通り悪かった。お守り持ってったのに。ママと舞衣お姉ちゃんに叱られちゃう」

 桃絵と羽音は先に待っていて不満を呟いてくる。

「リアル大阪府内に散らばった敵モンスターがゲーム内に全て戻されたから、得たお金も学力も旅開始前にリセットされてん」

「そこは現実に準拠して欲しかったわ~。もうすぐ出る今期アニメのブルーレイとか買いまくる計画がぁ」

「あたしも新作ゲームとおもちゃいっぱい買おうと思ってたのにぃ」

「俺もものすごーく損した気分だ。収入が得られたのに」

「ゲームと現実との区別が付かなくならないようにと、製作者が配慮してくれたんじゃないかなぁ、っと思うで」

 佐桜里は楽しそうにこう意見した。

 同じ頃、

「よかった見つかって♪ 家に帰ったらやりまくるよ」

「千景ちゃんもきっとのめり込んじゃうよ」

 千景は舞衣といっしょに学校近くの家電量販店を訪れて、あのゲームを手に入れたのだった。

           ☆

「民博もリアルにそっくり。あら、ここにも敵モンスターさんがいたのね。これ、民博の展示品だよね? あっ! 主人公さんトーテムポールに突進されて大ダメージ食らっちゃった。まずいわ。あら、アンクルンっぽい楽器の音で主人公さん癒し状態に。体力全快してるわ。こんなありがたい敵もいるのね」

それ以来、千景は観光地巡りをメインに毎日二時間以上は楽しんでいる。試しに液晶画面に麦茶をかけてみたが、こちらの佐桜里も飛び出てくることはなかった。それが極めて普通のことだろうけど。


       ※


あの冒険の次の土曜日、午前七時頃。播本宅。

「リアルUSJ、めっちゃ楽しみや~」

「ワタシもすっごい楽しみよ。ほな行ってくるね」

「桃絵、それから、佐桜里ちゃんも、最近遊んでばかりだけど、期末テストの勉強も怠らないようにしなきゃダメだよ」

「舞衣お姉さん、分かっとるよ。否応なくやってくる現実思い出させんといてーな。まだ二週間以上あるし」

「ゲーム内時間では今夏休みやで。というより慶一様が旅日記更新せん限り永久に夏休みや」

「ええなあ佐桜里ちゃん。ワタシ、今度の期末マジやばいねんよ。特に数学と理科と英語」

「桃絵様、うちはその科目得意やで。いっしょにテスト勉強頑張ろな」

佐桜里はあれ以降も頻繁にゲーム内から現実世界に飛び出して来て、三姉妹や千景、慶一と交流している。

「桃絵、佐桜里ちゃんと仲良くやれてるみたいね」

「うん」

 ちなみに三姉妹の母には、桃絵が佐桜里が同じクラスの東京からの転校生で、大阪の名所をいろいろ案内して欲しいと頼まれたからという風に偽って伝え、外泊許可を得たという。


 ちなみに慶一はというと、相変わらず不採用続きだそうだ。

「うちの店やったら慶一様は大歓迎なんやけど、ゲーム内での稼ぎは現実世界には全く反映されへんからね。そもそも慶一様はゲーム内には入れんし」

「現実はやはり厳しいな」

(ほな、おおきに)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無職無能俺、大阪で就活帰りに巨大たこ焼きに襲われたのち女子小中高生達にリアルRPGの勇者をお願いされた!? 明石竜  @Akashiryu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ