天国への道

西崎 劉

序幕

神様、僕は告白します。

僕は、彼女を失う事が罪を冒す事よりも恐ろしくて、彼女の友達である一人の少女をこの手で殺しました。学校の裏にある小さな森の中で首を締めて殺したのです。

その行為は大胆にも昼間でした。

切っ掛けは僕が昔、何をしていたか知っていると言って彼女と別れろと少女が詰め寄った事でした。

僕は、少女のいう事柄に身に覚えがある分、少女に対し怯えていました。

少女は純粋に友達である彼女が心配だったのだという事は痛いほど判っていました。

…はじめは少女を殺そうなどという、そんな気は、ほんの少しも無かったのです。

何しろ、学校の裏の森に呼び出したのは、少女を殺してしまった僕ではなく、殺された当人の少女だったのですから。

僕にとって彼女は心の安らぎでした。

全てと言っても言い過ぎでは無い存在でした。

 彼女に対して僕は臆病になっていました。

 …昔の出来事を知られて自分から離れていく姿を想像するだけで身体中の血液が凍りつくのではないかと思うほど寒けを覚え、失う事に対し怯えきっていたのです。

 …とても臆病だった。

 ああ、神様。

 彼女に自分の全てを語る事が出来なかった事が全ての始まりでした。

 彼女の自分に対する気持ちがそんな薄っぺらな物ではないという事に早く気付いていたら、少女は死ななくて良かったし、僕もこんな所には居なかったでしょう。

 僕に関わった全ての人がこんなにも不幸には成らなかったでしょう。

僕は自分の罪を知っています。

 自分の弱さで人生を狂わされた三人の人物を知っています。

 一人は自分が殺してしまった少女。

 一人は自分の彼女。

 そして、もう一人は少女の父親……僕を、少女が殺された森で殺した四十代半ばの男。

 憔悴しきって青白い顔色をしていても尚、僕を見つけだし、追い詰めた時のあの瞳の色が忘れられない。

 僕は三人を不幸にしてしまった。

 ああ、神様。

 僕より先に地獄へ落ちた少女の魂を浄化させる力を僕にお与え下さい。

 僕への憎しみで魂を濁らせてしまった少女をその御手でお救い下さい。

 そのためになら、どんな困難も厭いません。

 少女の汚れは全て僕が負わなければならない物なのです。どうか、僕を少女の落ちた地獄へお導き下さい…

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