君に会いに行くほどの積極性を僕は持っていない

月村はるな

プロローグ、またはある街の片隅


 春の遅いこの町でも、桜の蕾はピンク色を帯びてきた。


 四月、十一日。

 今日は中学校の入学式の日。

 と、言っても、別に僕が出席するわけではない。僕は今年二年生。僕が入学式に出たのは去年のことだ。



 住宅街の端っこ、中川なかがわの堤防。――僕の通学路だ。


 その道に面した家々の中に、一つ、桜の木の植えられた家がある。

 淡いピンク色の蕾をつけた、若々しい桜の木。


 去年の入学式の頃と、あまりに似通ったその様子を見て、僕はそのまま通学路を歩いて行った。止まった時間はほんの数秒。あとはそのまま、何事もなく歩く。あの桜の木の家なんて、目に入っていなかったかのように。





 そう、それが僕の日常。


 僕が草野結花くさのゆかの家に気を留めていることなんて、誰も知らない。



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