第15話 緋色のシンデレラ
放課後、文化祭に向けてめいのクラスメートはそれぞれ衣装を作ったり劇の練習をしていた。
「私の国の女王になってくれませんか?」
王子役の瞬がシンデレラ役のヨミの前で跪いて手を差し伸べた。
「あら、私でよければ。」
(これは仕留めるチャンス。)
ヨミは高笑いしながら足を上げ、瞬の顔を蹴り上げようとしたが見事にかわされた。
「おや、ガラスの靴に汚れが。」
瞬は負けじとにっこりと足払いをした。
足払いの反動で宙返りをしたヨミは舌打ちをして隙を見て殴りかかった。
乱闘はヒートアップして二人とも笑いながら殴りあっていた。
「なぜか喧嘩になってない?てか二人とも身が軽い。」
万智はめいを採寸しながらこの乱闘を眺めた。
「知らないわよ。ヨミが仲悪いのに役を引き受けるから。」
めいはツンとすました。
「やっちまえっ」
周りのクラスメートは二人の鮮やかな乱闘に煽り立てた。
調子に乗った二人はさらに激しく殴りあった。
「こぉらぁぁぁああお前らっ」
騒ぎに気が付いた天原先生は教室に飛び込み、すぐさま二人の首根っこを捕まえた。
頭に大きなたんこぶができた二人は廊下で立っていた。
たんこぶをさすりながらヨミはきっと瞬の方を睨み付けた。
「隙を見せたお前のせいだからな。」
「最初に僕に蹴りをいれたのは誰でしたっけ。」
天原先生はがらっと廊下側の窓を開けた。
「だから喧嘩するなって言っただろ。」
それから二人は険悪ながらも練習をこなした。
そして文化祭当日、ステージの袖では緊張の空気が走っていた。
「春野さん大丈夫?かちこちだよ。」
あがり症のめいはステッキを握って緊張していた。
「だっ…だいじょうぶ。心配しなくて…ひひよ。」
舞台のカーテンをめくり、クラスの女子が言った。
「春野さん、出番ですよ。」
「は…はいっ」
めいはロボットのようにぎこちなく舞台に立つヨミのほうに歩いた。
「これはかわいそうな…よ…いやいやシンデレラじゃないの。」
顔面蒼白で向かってくるめいにヨミは驚いた。
(げっ、あがってる。それにめちゃくちゃ棒読みだし。)
「あっ…あなたを」
(どうしよう視界がゆがむ。)
めいはふらふらとよろめき、そのままべたんとこけた。
「あちゃ~これはやばい。」
万智が袖で、失神しているめいを心配していると隣にいた瞬が金色の大きな布を頭にかぶせ、めいのほうに走って行った。
瞬は布の中でヨミに手招きし、めいを抱き上げた。
「しかたねぇな。」
不愉快に思ったヨミは舌打ちし、瞬の言うとおり布に隠れ、舞台の袖までついて行った。
観客席がどよめいたところで急にひとりの姫が現れた。
テルはヨミが再びステージに上がると興奮して叫んだ。
「かっ…かわいいっヨルミア~!」
「ボスっ、まずいわよ。」
ルルは迷惑そうにテルを抑えた。
ヨミ扮するドレス姿のシンデレラは本物の一国の王女に見えた。
脚が埋もれるくらいのリボンだらけのピンクのドレスに金色スプレーで塗ったティアラもちろん靴は水色に塗った上履きだった。
「おぉ、美しい姫君がいるのではないか。」
王子姿の瞬はシンデレラを見るなり目を輝かせた。
「王子様、私でよければ一緒に踊ってくださいな。」
瞬は微笑んでヨミの手を取り優雅な音楽に合わせて踊り始めた。
「もちろんです。さぁ、今宵は共に楽しみましょう。」
二人はまるで絵画のように美しく輝いていた。
観客から黄色い歓声が沸いた。
すると、急に音楽が止まり照明が一斉に消えた。
暗闇の中、辺りを見回すヨミの耳元で悪魔の形相で瞬が囁いた。
「愚かな十字架族よ、血を血で洗え。」
「おい、あれはなんだ。」
ヨミが観客の声の方を向くと照明の上にどす黒い巨大な蝦蟇のような怪物が2、3匹掴まり、不快な金切り声を発していた。
「琺狼鬼か…!」
振り向けば瞬の姿はなく、ヨミはステージ裏まで駆けつけパニックになっている生徒の中からめいを探した。
異変にざわめく観客席の中、テルは焦った顔でララに言った。
「お願いだ。例の力を使ってくれ。」
ララは驚いた。
「失敗したらみんな帰ってこれなくなりますよ。」
「今この力を使わないと他の人まで巻き添えになってしまう。お前しかできないんだ。」
「…仕方ないですね。」
ララは不安そうな顔で手を合わせた。
「創聖器アレキサンドライトの扉の名の元に次元よ歪め。」
すると観客や生徒たち全員が光と共に消えた。
実はララには忠霊だった頃に前の主人から受け継いだ力が不安定ながらもあるのだ。
その一つ、次元を一時的に歪ませる能力を使った。
「やったじゃん。」
テルはララの頭を撫で、そのまま双星剣に変身させた。
「…ボス。」
背後で置いてけぼりにされたルルは拗ねた表情で立っていた。
「ごめんごめん。」
ルルも双星剣にしたところでテルは敵に切りかかった。
「おい、いつまで伸びてるんだよ。」
やっと見つけたヨミは椅子の上で横たわっているめいを叩き起こした。
「ヨミ、私はどうしたの?」
「平和な奴め。琺狼鬼だ。やっぱりあいつは危険だった。」
めいは何のことかわからないままヨミに無理やりキスをされ紅月剣になった。
「とうとう学校にまで現れやがったな。」
舞台に立ち、照明に照らされる紅月剣を琺狼鬼に向けた。
「きゃあ、やっぱりこのヨルミアのほうがかっこいい。」
テルは瞳をハートにした。
「…十字架の女。」
二人は暗闇のほうに目を遣ると、闇より漆黒の羽を散らした紅い光が二つ浮かんでいた。
「黒天狗、なぜ俺らを狙う。しつこいぞ。」
黒天狗は翼をはばたかせ琺狼鬼の背中に乗った。
そして光陰槍を取出しそれに突き刺した。
「貴様等を殺すに十分な力をこの化け物に与えた。苦しむながら死ぬがいい。」
琺狼鬼は奇声をあげながら巨大化していった。
「なんで私だけ…」
アヤカシ界にいるはずのめいはなぜか漆黒の鎖に手足を繋がれて鳥籠の中にいた。
その空は陰鬱なタールに染まり、今にも滴り堕ちそうになっていた。
「あなたはどうしてこんなことばかりするの?」
めいは力いっぱい目に見えない何かに向かって叫んだ。
肌を突き刺すような寒気が全身を巡らせた。
今までいなかった黒ずくめの少年が背後に立ち、めいの耳元でささやいた。
「僕じゃない、君の仲間がしたことなんだよ。」
十字架の形の無数の槍がめい目がけて飛んできた。
「やめてぇぇっ」
その頃、紅月剣が黒い煙をあげていた。
「どうした、めいの様子がおかしい。」
「ヨミっ後ろ。」
敵の攻撃でぼろぼろになったテルが叫ぶと琺狼鬼がヨミを投げ飛ばした。
(この感覚…なんだこの罪悪感は。)
宙高く飛ばされている間、ヨミは目からぼろぼろと涙を流した。
そして無抵抗に壁にぶつかった。
異変に気付いたテルは無表情で泣き続けているヨミの体を揺すった。
「これはわたしたちのせいじゃない。アイツも悪くない。」
何度も繰り返したが涙を止めないのでテルはそっと青い双星剣を額に当てた。
「お願いだ、力を貸してくれ。」
テルはそれをヨミの胸に刺した。
すると眩い碧色の光が二人を包んだ。
「ありがとな。」
二人は手を繋ぎ立ち上がり、それぞれの武器を天に向けた。
碧の光は大きな剣の形になった。
琺狼鬼は光に洗い流されるように消えた。
「やった…」
ヨミとテルが敵を倒して喜んでいる間、めいはあたりをきょろきょろ見回した。
(さっき黒天狗がいた気がしたけど…)
テルとヨミは十字架族の改ざん能力で体育館にいた人たち全員に催眠をかけ、自分のクラスの劇が終わったことにした。
ステージ裏でクラスメートが劇の道具の片づけをしていた。
「劇、よかったね。」
「あれ?肝心の二人がいない…」
「いまごろ校庭で告白でもしてるんじゃない?」
「教室に帰ったらからかってやろうぜ。」
一方、ヨミはというと…
「まぢ疲れたもぉん…」
「超強くなった琺狼鬼と闘った後に千人相手に記憶改ざんだもんな。」
テルと一緒になって、体育館の裏でへとへとになっていた。
「二人ともおつかれさん。」
めいは食堂で買ったスポーツドリンクを二人に渡した。
「…次はこの手で殺す。」
黒天狗が電柱の上から憎悪の目でその様子を見下ろしていた。
その握りしめた拳にはどす黒い炎が燃えていた。
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