第11話 重なる影
真夜中の寝静まった頃、近所の公園でヨミとテルは琺狼鬼と闘っていた。
「もう逃げられないぜ。」
敵を追い込んだヨミは余裕の表情で留めの一発をお見舞いしようとした。
風を切って紅月剣を構えて敵に向かって走った。
「…えっ?」
琺狼鬼はにやりと笑い、攻撃をかわしヨミはそのまま池に落ちた。
「助けてぇ…」
金槌で泳げないヨミは氷のように冷たい水しぶきをあげて溺れた。
「ヨルミアっ」
テルは足が余裕で着く浅い池で溺れているヨミの腕を引っ張り、助けた。
ヨミは十月の夜風に震えながら、街灯に八つ当たりした。
「…ったく、なんでこんなところに池が…ふぁっくしょっ」
「風邪ね。」
琺狼鬼を切り倒したルルは呆れた顔で言った。
…次の日。
「ヨミちゃん休みなんだ。遅刻はよくするのに珍しいね。」
エリカはヨミの机の上に座って購買部で買った昼食のあんパンを食べた。
「今頃、布団にもぐって鼻水垂らしてるわよ。まったく、めんどくさいんだから。」
めいは不機嫌そうにサンドイッチを頬張った。
「でも、好きなんでしょ。」
その様子を見ていた万智はからかった。
「ちっ…ちがうわよ。なんであいつのこと…」
めいは焦った勢いで牛乳をこぼした。
放課後、めいはテルに本を返すよう頼まれていたので図書館に立ち寄った。
(ついでにこの前読みたかった本でも借りようかしら。)
受付のカウンターでテルの借りていた本を返し、日本文学コーナーの脚立に上り本を探していると背後から声がした。
「…春野さん。」
ふと振り向くと、瞬がゲーテの詩集を数冊持って立っていた。
「くっ…黒羽君!?なんで?」
めいはひどく驚いて脚立から足を踏み外した。
「うわっ」
「あぶないっ」
危うく落ちそうになったところを瞬は本を放り投げ、とっさにめいに抱き着き庇った。
気が付くと瞬がめいを押し倒した形になっていた。
触っただけで折れそうな貧弱な瞬の体がめいを覆いかぶさっていた。
瞬は何が起こったのかわからず呆然としていた。
「ふっ…きゃあっ」
めいは恥ずかしさのあまり奇声をあげた。
金切り声は図書館中に響き渡った。
「ちょっと、まずいですよ。」
瞬はとりあえずめいを図書館の裏まで連れ出した。
「黒羽君、ごめんね。」
暫くして落ち着いためいは瞬に頭を深々と下げた。
瞬は苦笑いしてめいを慰めた。
「大丈夫ですよ、僕も春野さんを守ろうと思って…」
めいは恥ずかしさのあまり俯いたままになっていた。
この状況をどうしたもんかと思った瞬は口から出まかせにこう言った。
「とりあえず、ベンチに座りませんか?」
本当に出任せで言ったものの、改めてベンチに座った二人は暫く沈黙した。
(うわぁ…どうしよ…傍から見ればカップルじゃん。)
「きっ…今日はいい天気ね。」
上擦った声でめいは瞬に話しかけた。
「そっ…そうですね。」
二人ともそろって空を見上げたが曇っていた。
すると瞬が失笑し、めいもつられて顔を見合わせて笑った。
緊張が解けた二人は学校であったなんでもないことを話した。
話が盛り上がったところで、瞬が急に話題を変えた。
「あの子とはあまり関わらない方がいいですよ。」
「もしかして、ヨミのこと?」
瞬はいつもの穏やかな雰囲気からまるで別人かのように冷たい表情に変わった。
「僕、春野さんがこれ以上、夜宮さんのことで巻き込まれて欲しくないから…」
その冷たい横顔が一瞬、黒天狗の顔と重なった。
「黒羽君、何でヨミのこと知ってるの…?」
瞬は我に返ったのか急に立ち上がり、焦った表情でこう言った。
「ごめん、僕…帰らなきゃ…また明日学校で会いましょ。」
めいを置き去りにしてどこかへ走って行った。
家に帰ると、洋間でヨミがピンクのパジャマを着て爆睡していた。
めいは枕元に座り、ヨミの額で剥がれかけている冷感シートを貼りなおした。
(…ヨミったら瞬君に何したのよ。)
再び瞬の顔が黒天狗と重なった時のことを思い出した。
「まさか…ね…。」
めいは横に首を振った。
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