全てに決着を

 北嶋さんの亜空間が砕け、水谷邸の周りの風景が、見慣れたいつもの風景になった。

――終わったか!!

「やったかガキ!!」

 松尾先生がガッツポーズを作りながら笑う。

「地の王!!北嶋さんの所に行ったみんなは!?みんなは無事ですか!?」

 松尾先生は確信をしているようだが、私は結奈とレオノアさんを看病していたので、北嶋さん達の戦闘を視てはいない。

――安心しろ。誰一人として死んでいない

 安堵し、地べたにヘナヘナと座り込む。

「なんじゃ嬢ちゃん?水谷代表代行ともあろう者が、随分心配症じゃなあ」

 ケラケラ笑う松尾先生。いやいや、代表代行とか関係ないと思うけど。

「信じていましたが、やはり心配と不安が………」

 今の私は、正に腰が抜けた状態だ。緊張が一気に解けたのも原因の一つでもある。

――ふ、無理も無い。この様な戦争は滅多に経験する事は無いだろうからな

 いや、もう二度と経験したくない。こんな事はもう御免だ。

 ともあれ、地の王は呪を唱え、冥い穴を喚び出した。

「帰られるんですか?」

――俺の役目は終わった。尤も、暴れ足りぬと言うのが本音ではあるがな

 ニヤリと笑い、私と松尾先生を一瞬見て冥い穴に入って行く地の王。

 私と松尾先生は、地の王の御姿が消えるまで、ずっとお辞儀をして見送った。

 御姿が完全に消え、冥い穴が閉じて無くなったと同時に結奈が駆け付けた。

「お、終わったの!?」

 ゆっくり頷く。

「そっか…梓や松尾先生の表情を見る限り、誰も死んでいないようね…」

 結奈もヘナヘナと座り込む。

「おいおい、大丈夫か?」

 松尾先生が心配して、結奈に手を伸ばす。

「は、はい…何か力が抜けちゃって…」

 そう言って手を取り、立ち上がろうとするも、上手く立ち上がれない。

 安堵からの脱力。

 結奈もかなり心配していたから、私と同じ状態になったのだ。

「ふーむ、祝いに一杯貰おうと思ったんじゃがなぁ」

 笑いながらコップを煽る動作をする松尾先生。

「はい、勿論です!私も戴こうかと思います!」

 負けずに結奈もニカリと笑い、頑張ってプルプルしながら立ち上がった。

「あ、私がやるわ」

 私もプルプルしながら立ち上がる。

「梓はレオノアさんに知らせなきゃ。レオノアさんも凄く心配していたんだから」

 レオノアさんは今、薬が効いて眠っている状態だが、確かに早く知らせた方がいい。

「解ったわ。結奈、お姉様方にも知らせてくれない?今日は沢山呑むわよ!」

 頷き、松尾先生と屋敷に入って行く結奈。

 それを見届けてから、私はレオノアさんの休んでいる部屋へと急いだ。

 襖をそっと開けると、レオノアさんは魘されていた。

「ぁあぁあ…ああ~!はあ!はあ!はあ!うっぐぐ……」

 時には胸を押さえ、苦悶の表情すら浮かべ、汗でびっしょり濡れている。

 極度の不安、極度の緊張。

 そして、役に立てなかった悔しさからだろう。

 このまま寝かせようかとも思ったが、一刻も早く安心させてあげたい。

 私はレオノアさんの身体を揺さぶった。

「レオノアさん、レオノアさん!!終わりました!全て終わったんですよ!」

「ぁあぁぁあああ!!………は、はっ…あ、有馬さん………」

 真っ青な顔で上半身のみ起こす。

 焦点が合っていない瞳を向けながら、聞き返してくるレオノアさん。

「お、終わった…?」

「誰一人死んでいないそうです。北嶋さん達が勝ったんですよ」

 笑顔を浮かべ、レオノアさんのシャツを脱がす。

「汗びっしょりですよ。拭いて着替えましょう…え?」

 触れて初めて解ったレオノアさんの身体の震え。

 顔を覗き込むと、固く目を閉じ、涙を堪えていた。

「ど、どうしましたかレオノアさん?」

「俺は…俺は何も出来なかった…ヴァチカン三銃士と言われても、全く力が及ばなかった……」

 …レオノアさん『も』悔しいんだ。

 あの戦闘の中、何も出来ず、いや、『させて貰えなかった』力の無さに、悔しくて情けなくて震えているんだ。

 私も良く解る。

 水谷代表代行と言う肩書きは、師匠が亡くなる寸前までお世話をしていた結果だ。

 決して人間的に慕われていた訳でも、戦闘力にも特化していた訳でも無い。

 言わば流れで置かれた立場。

 ギュッとレオノアさんの手を握る。

 それでも俯いて涙するレオノアさん。

「では、『弱いから仕方ない』で諦めますか?それでも誰もあなたを責めません」

 ブンブンと首を横に振る。

「ですよね。私も諦めません。いつか本当に『代表』と認められるまで、ただ精進するだけです。レオノアさんもそうでしょう?」

「…あなたは立派に代表です…それは誇っていい!!」

 顔を上げ、涙を拭かずに私の手を握り返すレオノアさん。だから私も言い返した。

「あなたも立派なヴァチカンの騎士ですよ」

 一瞬固まったレオノアさんだが、ここで漸く笑みが零れた。

「さあ、身体を拭いて、着替えしましょう」

 クスリと笑い合う私達。

 レオノアさんも頷いた。

 濡らしたタオルで背中を拭く。

 改めて見ると、凄い傷だらけだ。そして鋼のような筋肉。

「かなり鍛えていたのは容易に解るなぁ…」

「俺は全身傷だらけだが、アーサーは背中に傷がありません。北嶋に精神的な弱さを指摘される前から、あいつの強さは飛び抜けていた。だからあの戦闘に参加できたのだろうけど」

「いずれ必ず参加出来るようになりますよ」

 それはお世辞では無い。

 彼はまだまだ伸びるだろう。

「あなたも必ず上に立てる。その素質はある。それは強さからじゃない。思いやれる心だ」

 私は戦闘力では尚美には絶対に勝てないから、サポート専門に修行している最中。

 レオノアさんが言ってくれた『思いやれる心』が必要不可欠だ。

 だからレオノアさんの言葉は単純に嬉しい。

「はい、終わりました。着替えは浴衣しかありませんが、大丈夫ですか?」

「ありがとう。北嶋の所で仕事した時、ケンコーランドに連れて行って貰ってね。その時浴衣を初めて着たんだ。それからプライベートでもたまに着るようになったんだ。だから大丈夫さ」

 レオノアさんは実に慣れたように、ちゃんと着てみせた。

 それを見た私は、笑いながら頷いた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 硝子が割れたような感じで空間にヒビが入って砕けた亜空間。

 瞬間、警視庁は普段の景色に戻った。

「むっ?北嶋君の亜空間が?」

――勇殿が勝ったのだ。お主の娘も無事。いや、見事な働きをした。誠に天晴れ!

 最硬の神が満足気に頷く。

「可憐が…私は場に集中していました故、視る事は出来なかったのですが、可憐は一体何をしたのでしょう?」

――魔王の一人と戦い、見事勝利したのだ。確かに素質は充分にあったが、まさかあの局面で開花するとは思わなかったな

 可憐が魔王と戦った!?

 確かに素質は葛西君にも勝るとは思っていたが、其処までとは!!

 驚きながらも単純に嬉しく思い、笑う。

――子が親を超えた時は素直に嬉しいものだ。お主は誇っても良い。あれだけの者に育てたのだから

 そう言って御姿を徐々に消していく最硬の神。

「またお会いできますか?」

――某は裏山に居る。会いたくなったら来るが良い。茶は勇殿か奥方様が出そう

 神崎君は兎も角、北嶋君は無いな。

 そう思いながらも口には出せる訳でも無く、最硬の神を、礼をしながら見送った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 北嶋本家を覆っていた亜空間の壁が砕け、消えた。

 見渡すと、元の風景の儘。

 ウチが長年守って来た風景そのままになった。

 全てを悟った海神様が歓喜する。

――勝ったか勇!!

 勇!アンタって子は…本当に頼もしくなった。感激して涙が溜まる。

 魔界の七王、銀髪銀眼の魔女、七万の悪魔、そして人類の祖。

 勇と尚美さん、そして仲間達は、その全てを倒し、そして誰一人欠ける事無く、見事成し遂げたのだ。

 これを感動せず、どうしろと言うのだ。

――バステト神よ、ご苦労だったな。結局我は殆ど役に立たなかったが…

――何を仰いますか。貴方様のおかげで勇の大切な人達は全て守られたんですえ!

 途中参戦と言う形ながら、龍の海神様の御活躍で新手の悪魔達を殲滅できた。

 素直に感謝し、礼をする。

 それに首を振り、否定する。

――我は何も出来なかった。悪魔王が尚美に危害を加えるつもりだったなら、我の敗北、即ち勇の敗北となっていた

 押し黙るウチ。それを言うなら、ウチは眼前でお嫁さんを浚われている。

 立場も誇りも、全て打ち砕かれた瞬間だった。

――悪魔王の真意は不明だが、勇と戦うつもりは無かったが故、結果我等は無事だった、と言うべきよな…

 そう。この戦争で勇に守られたのは、勝や銀子達だけでは無い。

 結果、ウチも勇に守られたのだ。

 尚美さんが乗って来た車に手を掛ける龍の海神様。

――我は帰るとしよう。ついでに尚美の車を回収して行く故

――ウチもお邪魔して宜しいですか?是非皆様に御礼を言いたいんどす

 以前会った事のある柱に加えて、新たに増えた三柱にもご挨拶しておきたい。いい機会故にお願いした。

 構わないと頷く龍の海神様。そして続ける。

――最硬は我も知っているが、神となった黄金のナーガと、元悪神の憤怒と破壊が新たに加わり、北嶋の柱は六柱となった。貴様が加われば、更に心強いのだがな

 突然の申し出に嬉しく思うも、首を横に振る。

――ウチの護るべき所は此処どす。今回のように、勇の敵が間接的に仕掛けてくるやもしれません。何より、勇の大切な場所を護る事こそウチの誇りですわ

 頷く龍の海神様。

――貴様が此処を守る事こそ、我等には有り難い事よ。おかしな申し出をし、すまなかった

 逆に恐縮され、困るウチ。

――さ、さぁ、そんな事より、案内をお願いしますわ

 ウチは無理やり話題を変える。

 龍の海神様も頷き、ウチを案内するように前に立って飛んだ。

 無論、ウチはその後を追って飛び立った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ヴァチカンを覆っていた霞み掛かった空が消え、空気が清々しく変わった。

「勝ったかアーサー!!親方!!」

 信じていた。信じていたが、やはり嬉しいものだ。

――君の騎士も見事。魔王の一人を倒したようだね

 視ていたから知っていたが、改めて言われると嬉しいものだ。

 素直に何度も頷く。

――さて、私の役目は終わった。私は帰るが、君にはまだ仕事がある。今のうちに騎士を集めておいてくれ

「戦争が終わった事を伝えるのですね!」

 望む所、と早速準備しようと駆けようとする。

――それもあるが、直ぐに来客がある筈だ。くれぐれも粗相が無いようにしてくれたまえ

「来客?誰が来ると言うんですか?」

 戦争が終わった直後に来る客とは一体?心当たりが無く、首を捻る。

――私もまさかとは思ったが、どうやら約束したらしい。まぁ、会ったら直ぐに理解できるよ

 そう言って羽ばたき始めた親方の柱。

「解りました。では騎士を待機させておきます」

――頼んだよ。では

 宙に浮いたかと思った瞬間、空に飛び、小さくなった親方の柱。

「お、お待ち下さい!!まだ御礼を申し上げ……」

 呼び止めるが、既に気配は無くなっている。

 無礼を働いたと後悔するが、言われた通り、私は騎士を大聖堂に集める事にした。

 騎士を大聖堂に集め、戦争が終わった旨を告げる。

「アーサーは傲慢のルシファーを撃破した。レオノアは日本の水谷にて治療中。つまり、あれから誰も死ななかった、と言う事だ!!」

 歓喜する騎士達。泣き崩れる者も居た。私も目頭が熱くなる。

 親方が『誰も死なせない』と決め、ヴァチカンに自らの柱を遣わせてくれた時から、この結果は運命付けられた。

 素直に感謝をしたい。

 勿論、騎士達にも促す。

 その時、騎士の一人が私に質問をしてきた。

「教皇、勿論、親方には感謝します。あの人類の祖を倒したのは紛れもなく親方。恐らく親方以外では勝てなかったでしょう。ですが、リリスはどうなりました?」

 静寂に包まれる大聖堂………

 人類の祖、アダムは確かにヴァチカンを襲撃し、ロンギヌスを奪い、大勢の騎士を悪魔に殺させた。

 だが、それ以前から、リリスとは戦争状態にあった。

 リリスも騎士を殺した魔女。

 リチャード殺害から始まったヴァチカンの敵なのだ。

 視ていた私には解る。

 神崎君がリリスを『許し、助けた』事を。

 リリスも被害者。それは理解できる。

 だが、感情が許してはくれない。

 だから言葉に出すのを躊躇っていたが…

 痺れを切らせた別の騎士が、口を開いた。

「私は霊視に特化しています。だから知っています。私は許せそうも無い…仲間を殺した魔女を!」

 ざわめく大聖堂。

 許せそうも無い。その一言がリリスは生きている事を裏付けたのだ。つまり、リリスを誰も殺していない。

 親方も、アーサーも。

「…少しばかり精神的に強くなったが、甘ちゃんの儘か……」

「いや、許した事こそ強さ!!だが、しかし…」

 それぞれ言いたい事は多々あろうが、なかなか口に出せない。

 私もそうだ。

 本当は許したアーサーを誉めてやりたい。強くなったな、と。

 だが、仲間を殺した魔女を何故生かしておくのだ、と怒りの気持ちもある事は否定できない。

 集まっている騎士達も同じ気持ちだ。

 だから私は騎士達に何も言えないでいた。

 やり切れ無い感情が大聖堂を支配しつつあった。

 それを打開する術は、私は知らない。

 眉根を寄せ、黙るしか無い。

 せめて許せる切っ掛けがあれば、私も騎士達もきっと…

 そう考えていたその時、私の背後に有る十字架が光輝き、大聖堂を照らした。

「な、何事だ?」

 驚き、身を躱す。騎士達も光を見て、ただ驚く。

 不快な光では無い。

 それどころか、闇が洗われるような、そんな暖かい光…

 その光は徐々に人型に変わって行く………

 同時に凄まじい神気が大聖堂を覆った。

「は、ははっっっ!!!」

 咄嗟に跪く。騎士達も『自主的に』跪いた。

 何だこの神気?

 親方の柱を遥かに超える、圧倒的神気は!?

 恐れと敬いが同時に沸き起こった。

 その時、人型の光が声を発した。

――人よ…試練を越え、一つ高みに登ったヴァチカンの人々よ…私の存在を感じよ…私はミカエル。数多の天使の長である…

「て、天使長ミカエル様!?」

 心臓が口から飛び出そうな程驚いた。

 最早光を直視できる訳も無く、ただただ頭を下げ、跪いていた。

――悪しき魔女や悪魔に挑み、殺された人々は、天にてその功績を讃えられ、神と共に常に在る存在へとなった。そして悪しき魔女は死した。生きているのは、神がお許しになられた心弱き魔女。故に誰をも憎む必要は無い

 私は、いや、騎士達全ては、黙った儘、跪くのを止めはしない。

 ただ御言葉を聞くのみ。

 その御言葉に異を唱える者など居ようか。

 神に最も近き存在、大天使ミカエル様が、神の御言葉を代弁する為に、わざわざ我等の前に御姿を現したのだ。

 我々はその御言葉を素直に受け止めるのみ。

――許しなさい。人を許しなさい。魔女を許しなさい

 無論だが、全ての騎士達は頭を垂れた。

 リリスを許す。

 神が、天使長が言われたのだから。

――全ての人々が許すと決め、神も喜んでおられる。人よ。その慈愛の心を忘れるな。許す事により、全てが救われるのだ…

 やがて光が消え、大聖堂がいつもの風景に戻る。

 我々は緊張していた筈だったが、どこか清々しい気持ちだった。

「魔女を……リリスを許そう」

 顔を上げ、十字架を見ながら発した私の言葉に、騎士達は頷き、それに同意した…


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――ご苦労だったな、ミカエル殿

 神崎との約束を果たしにヴァチカンに出向いたミカエル殿がエデンに帰って来た。

 落胆した表情だが、仕方無しと頷くミカエル殿。

――神が、私が『許せ』と言わなくとも、許すのが理想なんですがね

 妖精が淹れた紅茶を口にし、少し不満気に口を開く。

――だから神崎が貴殿と『取引』したのだろう。完全勝利したらば説得してくれ、とな

 神崎は知っていた。人間の気持ちは、簡単には切り替えが出来ぬ事を。

 リリスを救った後の事を考えての『取引』だ。

 あのままならば、リリスはヴァチカンに報復され、命を奪われる危険性があったのだから。

――そうですね。人間が神に頼る事が無く、自立する事を目論見にし、創られたのが彼。人間が、その彼の領域に達する事は、まだまだ先の話です

――あんな狂犬は今のところは一人で充分だ

 俺は頬の傷を触りながら、苛立ちを露わにした。

――恐れぬ事はいいとしても、我が強すぎるのは考え物ですねぇ

――神崎は全てにおいて、奴に必要だな。縁と言う物は恐ろしいものだ

 あの狂犬を押さえる事の出来る者。

 嫁と言う『家族』が居て、奴も止まる事ができる、か…

 それは創造主が全ての生物に与えた力、『愛』。

 奴は家族に飢えていた。

 赤子の時に、両親の死別を運命付けられたのだから無理は無い。

 奴は『家族』の『愛』には素直に従う。

 それが理不尽な攻撃でも、甘んじて受ける。

 それが奴なりの『家族愛』なのだろう。

――彼には妹のように思っている娘も居りましたね

 ミカエル殿が思い出したように呟いた。

 あの娘も若くして『死』が運命付けられていた。

 奴は『家族』に多少縁が無い。

――偶然だがな。いや、必然か…

 神崎が現れ、奴は望みを全て叶える事が可能になった。

 家族。

 ずっと欲していた筈だ。

 願えば叶う奴の能力だが、家族は簡単に手に入らない、と既に思っていたのだ。

 足りない物を全て補ってくれる伴侶を、奴は偶然にも手に入れた。

 地球上に居る無数の女の中で唯一、自分に足りない物を補ってくれる女を。

 創造主の御力でも、奴の能力でも無い、ただの縁でだ。

 縁は巡る。

 良縁でも悪縁でも。

 それも創造主が贈った、全ての生物に対する『愛』なのだ。

――本当に恐ろしい男ですねぇ…新人類としてのサンプル程度にはなりますか…

――影口を叩いたら斬られるぞミカエル殿。奴は我々を何とも思っていないからな

 慌てて周囲をキョロキョロと見回すミカエル殿。

 気に入らないなら奴はやる。

 今後は我々も注意が必要になった。

 狂犬に咬み付かれないように、常に用心しなければならなくなったのだ。

 ウンザリするが、これも創造主の意志。

 我々はそれに従うだけなのだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 裏山の結界が解ける。

 敵はもう居ない。

 だから結界は必要ない。

「あー疲れた。腹減った」

 首をコキコキ鳴らして、大袈裟に疲労をアピールしている。

「確かに腹は減ったな。寿司か何か出前取れよ北嶋」

「いや、疲労回復にはケンコーランドだ。あの広い風呂で心身ともにリフレッシュするんだよ」

「それより喉が渇いたな。取り敢えず一杯いきたい所だ」

 それぞれ自分の希望を述べる。

「私達はリリスに洋服を支度するわ。その間どうするか決めて」

「おー。服は神崎の貸すのか?ちょっと胸がキッツキツになりそう…う!?」

 慌てて口を手で塞ぐ北嶋さん。私の殺気を感じ取ったようだ。

「い、いや、大丈夫だろう。そんなに大差無い筈だよ」

 何か悲しくなるフォローをありがとうリリス…

「大丈夫ですって!私が以前泊まりに来た時の服、あれがあります!」

 何かのイヤミにしか聞こえ無いけど、お気遣いありがとうソフィアさん…

 そして私に同情的な生乃と宝条さんが、私の肩を支えるよう、家の中へと誘ってくれた…


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 神崎達が家に入った瞬間、各地に広がっていた柱がワラワラと帰って来た。

――勇、やったな!!

――まぁ、君ならばあれ位は出来ると信じていたがね

――それより、新たに柱になった者を紹介しろ北嶋

――むぅ、勇殿の本家の守護神殿がお越しになられたか。某は…

――あらあら、これは御丁寧に。ウチは…

――自分は末席に加わらせて頂いた、元裏山に住んでいた蛇…

 それぞれ勝手に談笑しやがっている。

「改めて揃うと………圧巻だな………」

 天パが微妙にテンパりながら、額から浮き出た汗を袖で拭い去った。

「あの黒い…猫?ありゃ誰だよ?あれは知らねぇぞ?」

 いちいち答えなきゃならんのか。面倒で暑苦しい奴め。

 とか思いながらも、実家の守護神だと説明してやる超優しい俺。

「おい北嶋…憤怒と破壊が此方を睨んでいるが………」

 無表情がビビりながら俺に伝える。

 んー?とそっちを見てみると、黒蛇が苛立ったように俺を睨み付けていた。

「おい黒蛇。なにか不満があるのか?」

 超優しい俺は、自ら歩み寄るスタイルをわざわざ取ってやるも、黒蛇は超好戦的な赤い瞳を以て、俺にめっさ接近してきた。

 それに緊張する暑苦しい葛西達。

 黒蛇は俺に顔を近付け、怒鳴るように言い放った。

――おいオメェ!!約束のモン出せよ!!オメェが戦争ぶん投げてまで欲して止まなかったモンだ!!

 鼓膜が破れそうになる程のデカい声。

――貴様!我等の主に何を!

 海神が俺を庇うよう身を乗り出すのを制し、握り固めた拳を、黒蛇の眉間にガンとぶつける俺。

――いってええええ!!!

 黒蛇はグニャグニャのた打ち回る。

「デッカイ声を出すな!!鼓膜破る気かお前!!」

 涙目になりながら、俺を睨み付ける黒蛇。

――終わったらくれるっつったのはオメェだろが!!騙しやがったのか!!悪魔を騙すなんざ、どこまで外道なんだオメェは!!

 ちょっと遅れたくらいで、外道の極み呼ばわりされるとは。

 何を約束したのかと、葛西達も興味を覚えた。

 その視線が痛いと感じた俺は、携帯を出し、家の中の神崎に電話を掛ける。

『どうしたのよ北嶋さん?』

「ちょっと冷蔵庫見てくれ。ポカリあるか。あ、ある?おにぎり作れるか?二個くらいのご飯ならある?んじゃ悪いが作ってくれ」

 電話を終え、黒蛇を安心させてやる俺。

「五分くらい待て。直ぐ持ってくるから」

――そうかあ!!最初からそう言ってくれりゃあ、俺様だってよぉ!!いやあ、楽しみだ! おにぎりとポカリ!!

 楽しみで楽しみで仕方ないと言った感じの黒蛇。

 対して葛西達が叫んだ。

「「「おにぎりとポカリ!?」」」

 俺と黒蛇は、その叫びに頷いて応えた。

 そして五分後。神崎が皿におにぎり二個とポカリを持って参上した。

「ご苦労神崎」

 それを受け取り、労いの言葉をかける常識人の俺。

「何があるか解らないし、怖いから、リリスの着替えを手伝いに戻るわ」

 黒蛇に対価として支払うおにぎりとポカリに若干引き気味の神崎は、それ以上何も言わずに足早に立ち去って行った。

 どれどれと覗き込む葛西。

「本気で握り飯とポカリだな…」

「そうだけど?」

「…確かカールで柱になった奴も居たしな……」

 そう言って顔を死と再生に向ける葛西。

――解っていないね君は。あれは口実だろう?

「ああ…解っているが、一応な…」

 何か二人(?)で納得しているようだが、口実って何だ?

 まぁいい。

 約束約束うるせー黒蛇におにぎりとポカリをヌーンと差し出す。

 黒蛇は超!首を傾げ捲って困っていた。

――おいオメェ。これがオメェが欲して止まなかったモンか?

 それは正に、嘘だろう?と暗に言っているような顔だった。

 心外な俺!だから胸を張って言ってやった。

「本気も本気!あの時は超喉が渇いていたから、ポカリが欲しくて欲しくて堪らなかったし、腹も減っていたから、おにぎりが食いたくて食いたくてたまらなかったのだ!!」

 それは紛れも無い事実。

 超自信満々な俺の態度に対しても、激しく首を捻り捲って困惑している黒蛇。

――確かにオメェは嘘偽りを発して無ぇ…無ぇが、こんなモンが、俺様が仕える対価だってのかよ…

「んな事グチグチ言われても困るのは俺の方だ。お前はそれで引き受けた。ただそれだけの事だ」

 面倒になり、ポカリのプルトップを開けて黒蛇に向ける。

「おら、飲んでみろ」

――俺様がこんなモンに………

 嘆きながらも、渋々とポカリを口に入れる。

――………気のせいか?涙の味がするな…?

「汗かいた時に最適だからな。汗も涙も似たようなもんだろ」

 解らんけど、適当に言ってみる。

――ほぉ…悪魔の俺様に涙を飲ませるとは…オメェなかなか解っているなぁ…

 だから涙じゃねーっつってんだが、取り敢えずは気にいったのか、残りのポカリをゴブゴブと飲み干した。

――んで……こっちがおにぎりってヤツか?

 神崎が握った三角形の海苔を巻いたおにぎりを一個まるまる口に入れる黒蛇。

 モグモグと食っている途中、いきなり絶叫した。

――ぎゃあああああ!!酸っぺえええええ!!

 ゴロゴロ転がって苦しむ黒蛇。

 中身は梅干しだったようだ。

 梅干しは食欲増進、殺菌効果に優れているから、おにぎりには最適な具だな。ウンウン。

 一人満足に頷く俺に喰って掛かって来やがる黒蛇。

――オメェ!あれは何だ!?この俺様におかしなモン食わせやがって!!

 おかしなモンとは超心外!だから黒蛇に言ってやる。

「本当に解って無いなお前は。おにぎりは日本人のソウルフード。その中身も日本人のソウルフード。因みにその海苔も日本人のソウルフードだ。つまり、その三角形には、日本人の魂が入っているんだよ」

――魂…だと?悪魔の俺様に魂を食わせた、って訳か…オメェ…本当に恐ろしい奴だな…だが、やはり解っているじゃねぇか!!

 一転機嫌が良くなり、もう一個のおにぎりも一気に食う黒蛇。

 なんか超幸せそうに魂魂言っている。

 何か激しく誤解しているようだが、ここは互いの平和の為、口を閉ざし頷くのみに徹する事にした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――おどれの主は魔物か?魔王を握り飯と飲み物で懐柔するとはのぅ…

 八咫烏が呆れ返った表情をしながら、勇のやり取りを見ている。

――魔物と言うより、恐れを知らぬ馬鹿野郎だ。この俺をポメラニアンと抜かしたんだからな…

 項垂れてトラウマを思い出す灰色狼。

――俺なんか雉とか言われたぞ!!聖獣グリフォンの中でも最強最速と敬われている、この俺がっっっ!!

 今にも飛び掛かりそうな勢いをみせるグリフォン。

――貴様等、言いたい放題言っているが…勇の一番の被害者は妾だと言う事を忘れるな!!貴様等など まだまだまだまだまだまだまだまだマシだ!!妾など毎日毎日毎日毎日………

 甘え捲って愚痴や陰口を抜かす奴等に、妾が毎日受けている仕打ちを淡々と語る。

――解っとるわ。おどれが一番辛いのはのぅ

――知っているからもう言うな。可哀想過ぎて聞いていられん

――ま、まぁ、なんだ。思う事も多々あるだろうが、それ以上自らの傷を広げる事もあるまい?

 一気に同情的になる八咫烏達。

 自らが仕えている者が、如何に勇より遥かにマシだと言う事に、ある種の安堵感を感じ、妾の不遇な境遇に心底同情してくれた。

――し、しかし、大したもんじゃあ。あれほどの力のある神々を従えておるんじゃからのぅ

 一応妾の顔を立て、勇を褒める八咫烏。

――そ、そうだな。キョウも貴様の主に勝つ事を目標にしているようだしな

 …まぁ、勇は最強だしな。目標は高い方が励みにはなるであろう。

 何だか気分が良くなってきた妾。

――そ、そう言えば、アーサーもお前の主に感謝をしているしな。人間性も申し分ないと思うぞ

 まぁな!勇は情に厚い!

 特に困っている者には、なんやかんや言いながらも力を貸すし、結果も出す!

 ムッフー!と鼻息を荒くする妾。だが、こやつらの認識でもまだ足りぬ!!

――そうであろう!!勇は実に優れた人間なのだ!!そりゃ散歩はサボるし、妾を虐待するし、神体の掃除を疎かにし、よく柱に怒られておるが、それを補って余りある行動を常に行っておる!!妾が仕えるに相応しい者よ!!クワックワックワッ!!

 上機嫌になり、高笑いする。

 最初はウンウン聞いていた奴等だが、徐々に苦笑いに変わっていっているのを、妾は知る必要も無いので無視をする。

 ハッ!!

 なにか妾は勇に似てきたな…

 と思ったが、何故か高笑いが止まらなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 リリスの着替えが終わり、居間で談笑する私達。北嶋さんがパチンコで取ってきたお菓子を開けて珈琲を啜る。

「服キツくない?大丈夫?」

「ああ。気を遣って貰い、すまない。特に不具合は無いよ」

 リリスの方が大きいと思った胸は、実は私と同サイズだった。少し救われた感がある。

「…ソフィアさん、何カップですか?」

 宝条さんがソフィアさんの胸をじーっと見ながら質問をする。

「えーっと…」

「えーっ!?梓と同じ!?」

 風が吹き荒れ、髪が舞い上がるような感覚に陥った生乃。

「へぇ?意外と大きいね?」

 リリスはソフィアさんの胸をペタペタ触りながら感心する。

「でも、女の価値は胸だけじゃないから」

 涼しい顔で珈琲を啜るソフィアさん。

「…胸『だけ』じゃないですよね……」

 宝条さんが私達の言葉を代弁してくれた。

 つまりソフィアさんは胸『も』女の価値と暗に言っているのだ。

 多分ソフィアさんはそんなつもりで言ってはいないし、気にし過ぎだろうが、それを拭えない私達が確かに居た。


「………ん~」

 パカッと目を開ける。

「……朝か…」

 ワシャワシャと髪を掻く。

 ふっと目を向けると、隣にはリリスと生乃が未だに寝息を立てている。

 結構な時間になっているのにだ。

「無理無いわ。昨夜はすんごく盛り上ったからね」

 あの後、アーサーがどうしてもと言うので、みんなで健康ランドに行ったのだ。

 以前働きに来た時に、あの広いお風呂が気に入ったらしい。

 それじゃそうしましょうと同意した私だが、信じられない一言が北嶋さんの口から発せられた。

 守護柱とタマ達も健康ランドに連れて行く、と宣言したのだ。

 流石にそれはちょっと、と反対する私達に、

「こいつ等も頑張っただろうが!!労って何が悪い!!」

 と、また無茶苦茶な事を言い出し、これは決定だからと勝手にタクシーまで手配してしまった。

 御姿を消せる守護柱様方は兎も角、肉体を持っているタマ達は流石に…と思ったのだが、北嶋さんは何とかなるの一点張りで聞きはしなかった。

 タマに幻術を仕掛けるよう言い付けてタマ達の姿を晒す事無く、宴会までする始末。

 ハラハラしたが、普段は留守番を言い渡されるであろう神獣や聖獣達も、それとなく嬉しそうだった。

 八咫烏の天昇が、任侠者みたいなイメージだったが、お酒に凄い弱くて直ぐに寝てしまったのには驚いた。

 タマはお寿司のいなり寿司を沢山食べて、終始ご機嫌だったし、結果みんな楽しめた訳だからいいかな?と思ったが!

 いざお会計になった時、伝票を見てひっくり返りそうになった。

 そりゃそうだ。人間以外の分のお寿司もおつまみもお酒も沢山頼んだ訳だから。

 一気に私のお財布が経済破綻の危機に陥る。

 そんなピンチを打開したのがリリスだ。

「ここは私が持とう」

 と、カードをシュタッと取り出したリリスの格好良かった事と言ったら!!

「女の価値はお金だけじゃないさ」

 と、ソフィアさんに続き、暗にお金も価値じゃない?と言われた感があったが、そこは思い切りスルーした。

 そして家に帰宅した後も、大宴会に突入した。

 北嶋さん達は、眠たい奴は勝手に寝てろ、と、最硬の神様の社にブルーシートを敷いて、藤を見ながら騒いでいた。

 私達は早々に家に引き上げたが、北嶋さん達は多分明け方まで呑んでいたと思う。

 まぁ、私達も家でちょっとだけワインなんか飲んだりしていたけど。

「…早いね神崎」

 微かに上半身を起こしたリリス。

「おはよ。まだ寝てていいのよ?」

「いや、目が覚めてしまったからね」

 完全に上半身を起こしたリリスが笑った。

「昨日は楽しかった」

「殆どお金を出して貰って、心苦しいけどね」

 裏山の二次会でも、自ら進んでお金を出したリリス。

「いいんだ。初めて充実したお金の使い方をした、と思ったよ」

 友達が居なかったリリス。

 遊びに出掛ける事も無く、魔道を極める為、ただ精進する日々だった。

 あのような、ただの馬鹿騒ぎは本当に初めての経験だったのだろう。

 本当に楽しそうに、ずっと笑っていた。

「これからも、まだまだ騒げる機会は沢山あるわ」

『友達』と面白可笑しく騒ぐのは当たり前。

 北嶋さんは兎も角、他のみんなも、特にリリスが加わる事に違和感は覚えず、普通に接していたのは、健康ランドの宴会の時に既に立証された。

 受け入れられたリリス。

 アダムの支配からの同情からか、自らが罪を意識したからかは解らないが、兎に角、みんなに受け入れられたのは間違い無い。

 だがリリスは一瞬寂しそうな表情を浮かべる。

「そうか。『これからも』か…」

「…大丈夫よ」

「…何がだい?」

「あなた、殺されるつもりなんでしょ?」

 押し黙るリリス。

 アダムの件以前にも、ヴァチカンの騎士を殺した事に対する罪の精算を、自らの 命を以て償おう、と言うのだろう。

 単身ヴァチカンに出向いて、そのまま殺されるつもりだったようだ。

「…ヴァチカンの騎士もそうだが、私に仕えていた彼等の為にも、私は生きる資格は無いんだよ」

 アダムの件で、無責任に戦場に送り出し、散っていった転生した有名人への責任。

 全ての罪への決着の為に、自らの命で精算する。

 リリスはそう考えているのだ。

「ヴァチカンはあなたを許したわ」

「だが、私自らが私を許してはくれないんだ」

 例えヴァチカンが殺さなくとも、自ら命を断つ事も選択内だと笑うリリス。

「自殺は犯罪よ」

「元より犯罪者だよ、私は」

 言葉で諭す事の難しさ、もどかしさに捕らわれる。

 自我をしっかり持っている『覚悟』の前に、説得は難しい。

「死ぬ事が責任を取る事だと誤認している時点で、まだ改心していないね」

 いきなり生乃が起き上がる。

「起きたのね」

「そりゃ、隣で物騒な事をゴニョゴニョ話をされたら目が覚めるって」

 不機嫌な表情の生乃。リリスの手をグッと握る。

「死ぬ事を選んだのは逃げたって事。生きている間、ずっと償う事こそが、責任を取るって事だわ。楽をしないで頑張って償いなさい」

「楽………」

 頷く生乃。そして続ける。

「生きて償い続ける事こそ、一番過酷な道。辛いし、投げ出したくなる時もきっとある。そんな時こそ私達を、『友達』を頼って。再び頑張れる力になれる筈だから」

『友達』を強調する生乃。

 同意し、頷く私も、リリスの手を握った。

「私を…友達と呼んでくれるのか…敵だった私を…」

「それは今更よ?」

「敵『だった』から友達になれない、って訳じゃないんだから」

 俯き、震えるリリスだが、生乃は意外にも呆れ顔だった。つまらない事を言うな。と言った感じで。

「『友達』が死んだら悲しいものよ。解るわね?」

 そのまま何度も頷くリリス。微かに『ありがとう』と呟きながら。

 笑って、立ち上がる生乃。

「さって、朝ご飯の支度をしなきゃね。手伝ってくれるわよね?」

「料理はした事が無いんだ。教えてくれるかい?」

「もちろん!」

 私も立ち上がり、ドアを開けた。

「うわっっっ!!」

「きゃっ!!」

 開けたドアからなだれ込んだソフィアさんと宝条さん。聞き耳を立てていたようだ。

 私は満面な笑みを浮かべながら挨拶する。

「おはよう」

「お、おはようございます~…」

「そ、そろそろ起きたかなぁ~、なんて思いまして~…」

 愛想笑い全開な二人。

「今丁度起きた所よ。顔洗って朝ご飯作らなきゃね」

「ですよね~!私達もお手伝いします!」

 慌てながらパタパタと台所へ向かうソフィアさんと宝条さん。

「心配していたみたいね」

「ああ。本当に有り難い事だ」

 私達は顔を見せ合いながら、笑った。

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