荷物の中身
北嶋から生乃達に届いた荷物。それを代表して俺が開けた。
「………何だこれは?札?」
それは神社や寺などで扱っている、御札みたいな物だった。
『関係者以外立ち入り禁止』と、手書きで書かれている。更にその数、数十枚はある。
「これは…北嶋君に教えた札?」
「石橋さん、北嶋に一体何を教えたんですか?」
「い、いえ、本来は札に字を入れる時に念を込めて、その札の特性を決めるんです。私達が使っているのはコレです」
宝条さんがテーブルに『爆』と『斬』と書かれた札を置いた。
「『爆』の札は炸裂符と言って、爆弾変わりになります。『斬』の札は、鎌鼬の札。乱斬撃を起こす効果があります」
石橋氏の言う通りなら、北嶋の札は、関係者以外は侵入できない効果がある?
激しく首を捻る。俺だけじゃない、みんなも。
「あ、あれ?封筒も入っている?」
段ボールの中身を調べていた生乃。立ち入り禁止の札以外に、生乃宛、宝条さん宛、石橋氏宛に、三つの封筒を発見する。
それを開ける生乃達。
「…2万円?」
「私の封筒にも2万円入っています」
「私の方にもだ。何の意味があるんだ?」
それぞれの封筒の中身は2万円の現金か…
北嶋の行動が、より一層に首を捻る口実を俺達に与えた。
「…もしかしたら!」
生乃が何か勘付いた。宝条さんもそれに続く。
「!多分そうです!印南刑事、立ち入り禁止の札を、特殊部隊の皆さんにお願いして、警察署の境界全てに貼って下さい!!今直ぐに!!」
生乃と宝条さんは慌てながら、待機室に札を抱えながら飛び込んだ。
「な、何か解らないが、総監、生乃達の言う通りにしましょう」
「そ、そうだな。では命令を出すか…」
総監も激しく首を捻りながら、待機室に入って行った。
兎沢隊20名が立ち入り禁止の札を境界に貼っていき、羅東隊20名がその警護に付く。
皆、怪訝な顔をしながらも作業していく。
「洵さん」
呼ばれて振り返ると、生乃が北嶋が送った札を握り締めていた。
「どうした生乃?」
「これ…」
握り締めていた札を俺に差し出す。
「『侵入禁止』の札?立ち入り禁止と何が違うんだ?」
「石橋さんや宝条さんが言うには、敵が侵入して来ないようにらしいんだけど…」
なら立ち入り禁止の札の意味は何だ?
「印南刑事、立ち入り禁止の御札、全て貼り終わりました。」
兎沢隊長と羅東隊長が、敬礼しながら作業が終わった事を告げに来た。
「あ、ああ、ご苦労さん…」
コオオ………
「……今何か聞こえなかったか?」
「確かに…何か警戒音のような…」
両隊長に同意を促すも、二人は首を捻るばかり。
オオオオオオオオオオオオ……
「ほら、聞こえるだろう?徐々に大きくなっているぞ!!」
「も、申し訳ありません。私の耳には聞こえません。羅東は?」
「私も同じです…」
もしかしたら、この警戒音が聞こえるか否かは、霊力に比例しているのか?
そう思ったその時、コォォン!と響いた音と共に、警察署を中心としただだっ広い空間が周りに広がった!!
「な、何だこれは!?」
流石に驚く。隊員達も、唖然として立ち竦んだ。
「!!洵さん!あれを!!」
生乃が指を差し、其方を見る。
「な、何だあれは……」
俺の目の錯覚か、霞みが掛かっているように、うっすらと見る先には、この世の物では断じて無い、異形の姿をした人の形をした獣共の姿が!!
「あ、あれは悪魔です!私はクリスチャンだから解ります!!しかし、なんて数!!!」
羅東隊長が真っ青になって絶叫した。
悪魔…それにしても、数が多過ぎる…
ざっと見ただけでも、100は越える数!!
その時、署内の窓を開けて、宝条さんが叫んだ。
「印南刑事!桐生さん!建物の壁に侵入禁止の札を貼って下さい!早く!」
「よ、よし、解った!隊員は侵入禁止の札を建物に貼…」
指示を出す暇も無く、喚きながら署内に逃げるように入って行く隊員達。
「み、みんな壁に貼って!!」
兎沢隊長が促すが、既に姿は無い。敵前逃亡もいいとこだ!!
「ちっ、生乃!兎沢隊長、羅東隊長!あれは俺が食い止める!その隙に建物に札を貼れ!!」
生乃が止めるも、俺は目の前の悪魔共に向かって駆け出した。
群れの中からゆっくりと此方に向かって歩いてくる2つの人影がある。
それは俺の前で立ち止まった。
「はぁ、はぁ…お、お前等は一体?」
人影は本当に人間の姿をしていた。探ったが霊力も人間の物。こいつ等は悪魔じゃない?
「これは驚いたな…亜空間転移結界か?」
体躯のよい、初老に手が届くかどうかと言う男が、辺りを見渡しながら驚いている。
「亜空間転移結界?そんな事より、貴様等は何者だ!!」
「これは失礼。私はグリゴリー・ラスプーチン。北嶋の大事な物、全てを壊しに来た者だ」
「同じくジル・ド・レ…しかし流石だな。一般人に被害が行かぬように我々を此方に呼び寄せた訳か」
北嶋が送ってきた札の効果か!?
その時初めて合点がいった。
関係者以外立ち入り禁止とは、『北嶋の関係者以外は此方に来る事はできない』と言う意味か!!
ならば侵入禁止は、北嶋の敵は侵入できない、と言った所か。
宝条さんが建物に貼れと言ったのは、それに気付いたからか。
つまり、署内には悪魔共は入って来られない。
漸く安堵する。
「ちゃんと説明しろよ北嶋…」
何故か笑みが口元から零れた。
「しかし、向かって来る愚か者がいたとは…」
嘆息するラスプーチン。この数を前に出てきたのだ。正気を疑っているんだろう。
「ふ、北嶋のメッセージだ。お前等はこの空間でのみしか動けない。建物に入れもしない。つまり、北嶋は俺にお前等を倒せ、と言っているんだ」
俺は二人に向かって構えを取った。絶対に退かないとの意思表示で。
「ふん。我々が相手をしたいのは山々だが、貴様の相手は当面はあの悪魔共だ」
ジル・ド・レが、クイッと親指を悪魔共に向けた。
「たかが100ほどの悪魔!!」
「100?いや、1000だが」
一瞬構えを解きそうになる。
1000…それは流石にキツ過ぎる…
「此度の戦争はお嬢様が契約した悪魔の殆どが出陣している。まだ貴様は幸運な方だ」
「幸運?」
「北嶋には7万の悪魔と、魔界の五王が向かったからな」
7万と五王だと!?いくら北嶋でも全てを相手にするのは不可能だ!!
助太刀に向かいたいが、眼前の敵も捨て置く事はできない…
「絶望したか?ならば死ね!」
ラスプーチンが手を翳した瞬間、空間に居た悪魔全てが俺に向かって飛び込んできた。
「くっ!!」
北嶋も気に掛かるが、今は此方が優先か。
「天昇!!」
俺は天昇を喚んだ。
北嶋の関係者以外は来られない結界だが、天昇は俺に仕える神獣。
上部の空間がヒビ割れて、天昇が飛び込んで来た。
悪魔共を薙ぎ倒して俺の前に立つ天昇。
――洵、随分と難儀な事になっとるのぅ…
天昇は1000も居ると言う悪魔共を睨み付けながら呟いた。流石にキツイと思っているのだろうが…
「俺はマシな方らしいぜ。北嶋は7万匹相手にしているらしい」
――7万!?そりゃあ…間違い無く死ぬのぅ…
「だから早く片付けて応援に行かなきゃならない。少しキツいだろうが、頑張ってくれ」
――少し、か…簡単に言ってくれるのぅ!!
天昇は悪魔共に向かって突っ込んで行った。そして俺も後に続く。
1000対2…
絶望的な数字だが、それでも俺達は戦わなければならない!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
負傷し、気を失っているレオノアを客間に寝かせながら、有馬が呟いた。
「ヴァチカンの騎士…か」
「レオノアはヴァチカン三銃士の一人。簡単にくたばりはしないだろうが、何故空から降ってきたんだろうな?」
「敵と戦った事は想像できますけどね…」
ヴァチカンの敵は悪魔。つまりはリリスって女の仕業か。
「北嶋もいずれ悪魔共とやり合う筈だ。ヴァチカンは以前から戦っているらしいがな」
丁度見習いが俺達にお茶を持って来た。それを一口啜る。
「そうだ!北嶋さんからの荷物!」
有馬が思い出したようにパンと手を叩き、見習いに指示を出し、荷物を持って来させた。
「一応皆さん宛に封筒も入っています」
荷物の中身は、『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた札と、『侵入禁止』と書かれた札。それに、俺とソフィア、ジジィ宛の封筒が入っていた。
「汚ったねぇ字だな?」
「キョウも似たようなもんでしょう?」
ソフィアに突っ込まれて黙る。全くその通りで、ぐうの音も出ねえ。
「札もそうじゃが、ワシ等宛の封筒を見せて貰おうかの。北嶋のガキの指示が入っておるやもしれん」
ジジィの言う通り、確かに、北嶋は水谷に行け、と言っただけで、内容は全く話していない。
有馬が何か知っていると思ったが、全く聞いていないようだしな。
俺達は宛られた封筒を取り、中身を確認した。
「…2万円?」
「ワシのも2万円じゃな。手紙の類は入っておらんな…」
ソフィアとジジィに2万円?意味が解らずも、俺も封筒を開く。
チャリン
「……………………………………200円………?」
何故か困った。ソフィアとジジィに2万なのに、俺には200円?
その外に何か(2万円ほど)入っていないか確かめる為、封筒を逆さまにして振るも、何にも出て来なかった。
200円の他、なぁんにも!!
「に、200円の意図は兎も角、先ずはこの札の意味よね、キョウ」
「そ、そうですね!札の意味を考えましょう!」
何故か慰めている感じのソフィアと有馬。
何故か益々悲しくなった俺は、俯きながらも頷いた。
「う、うぅん…」
レオノアが唸りながら目覚める。
「気付かれましたか!!」
有馬もソフィアもジジィも、レオノアを取り囲んだ。
俺も項垂れながらも、レオノアの枕元に移動した。
「こ、ここは…」
辺りをキョロキョロ見回す。
「ここは水谷総本山です。あなたはグリフォンと一瞬に空から落ちて来たんです」
「水谷…そうか、あの時に!!いや、それよりも、グリフォンは!?」
レオノアが慌てながら立ち上がった。
「グリフォンは残念だが死んでいた。テメェが助かったのは奇跡に近いかもな」
宥めながら、布団に座らせて説明をした。
「…クミアイチョー?クミアイチョーじゃないか!何故此処に?」
俺の手を握り、懐かしいと笑うレオノア。
「クミアイチョー?」
有馬が反応した。ヤベェ。
「ま、まぁ、そんな事よりだ。テメェ何故降って来た?その傷は悪魔にやられた物か?」
クミアイチョー………
それは俺の恥ずべき過去の出来事。
できる事なら、その時の話は避けたい訳で、力付くで話題を変えた。
「カトリックの本丸でもある、ヴァチカン市国が悪魔共に襲われたんだ…」
「悪魔共がヴァチカン市国そのものを襲ったって言うのか!?そんな馬鹿な!!」
カトリックの総本山でもあるヴァチカンには、俗に言う『聖なる気』とやらが満ち溢れている。
天使達に護られていると言う訳だ。
そんな場所に悪魔共が襲ってくる筈も無い。
「俺も、まさか攻め込んで来るとは思ってもみなかった…リリスなら襲うようなリスクは犯さないだろう。手駒が激減する事は必至だろうしな…」
俯き、包帯が巻かれた腕をさすりながら続けた。
「俺は教皇の命令で、グリフォンに乗って北嶋の家に向かう途中だった。そこを狙われてこの様さ…」
「ちょっと待て…リリスじゃないなら誰だって言うんだ?何故北嶋の家に向かったんだ?」
北嶋絡みなら尚更リリスの仕業だろう?
いや、リリスの他にヴァチカンに喧嘩売るような奴が居るのか?
「クリスティアーノ・スカルラッティ…名前からしてイタリア系の男だ。そいつがリリスが契約した悪魔を引き連れて襲撃して来た!!」
真剣な表情のレオノア。
クリスティアーノ・スカルラッティ…
聞いた事の無い名前だが、リリスが契約した悪魔を引き連れて、って所が気になる。
「クリスティアーノ・スカルラッティには絶対に勝てない。それが北嶋でもだ。だが、奴等の狙いは北嶋でもある。適わないまでも、北嶋に伝えなければならなかったんだ」
「ハッ!!そりゃ大層な奴だな!!北嶋が勝てないなら、俺がぶっ倒してやるよ!!」
北嶋を倒せるのは俺だけだ。
いきなり現れた訳の解んねぇ野郎に、北嶋の首を取らせてたまるか。
「違う!!北嶋でも適わないと言う意味は、人間では奴を倒す事が出来ない、と言う意味だ!!」
俺を止めるように肩を掴むレオノア。
「落ち着けよ。で、人間では勝てないってのは何だ?」
何故がワクワクしてたまらねぇ。自然に笑みが口元から零れる。
「クリスティアーノ・スカルラッティ…その正体は、最初の人類、アダム…全ての人間の祖である奴の威厳って言うのか…兎に角、人間は奴の前に立つと、身体が硬直して動けなくなるんだ…」
流石にたまげた!!まさか敵が人類の祖、アダムとは思ってもいなかった!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
他お姉さま方にあてがわれた部屋で考える。
梓から渡された札、勇さんが送って来た、関係者以外立ち入り禁止と侵入禁止の札の意味を、三人で考えている最中だ。
「関係者以外…やはり水谷の関係者の事かな…」
「侵入禁止…敵の侵入を禁止?」
お姉様方が仰る通りだとは思う。勇さんの事務所で働いていた時、似たような札を貰った事があるから。
「立ち入り禁止…侵入禁止…」
しかし私はそこから更に意味を考えた。
葛西さんまで呼ばれた緊急招集。
葛西さんに並ぶ人材は、残念ながら水谷には居ない。
葛西さんでもキツい敵……数?
例えば、敵が沢山水谷に攻め込んで来たとしたら、水谷では無い、近隣の方々にも被害が及ぶだろう。
そして、勇さんは『葛西さんをわざわざ呼んだ』。
霊能集団の水谷にわざわざ………
テーブルを叩き、立ち上がる。
「何か解った?」
「千堂さん、解ったなら指示を出しなさい。その言葉に従って私達は動きます」
「ありがとうございます!梓から札を全部貰って来て下さい!立ち入り禁止の札は水谷の土地の境界に、侵入禁止は屋敷の壁に隈無く貼るんです!」
言うや否や、私は梓から札を貰う為に駆け出していた。
梓から札を貰い、屋敷と境界に札を貼った私達。その数100以上だったと思う。
「終わったわ!」
「屋敷も完了です」
一息つく暇も無く、これからの事を告げる。
「そうですか、ご苦労様です。そしてここからは注意事項です」
私はお姉様方や見習いの前に立った。そしてみんなを見渡しながら話した。
「恐らくもう直ぐに水谷に大量の敵がやって来るでしょう。立ち入り禁止の札は亜空間転送の札。大量の敵が水谷じゃない、近隣の人達を襲うのを防ぐ為。そして皆さんは敵が現れたら屋敷に入って出て来ないようにして下さい。侵入禁止は敵の侵入を防ぐ札です」
「あ?敵が来るなら迎え撃てばいいだろうよ?何故隠れる必要がある?」
黒刀姉さまの言う通り、水谷の門下生として、敵に背を向けられないのは理解する。
だが、葛西さんが呼ばれた理由がある。
「多分、葛西さんじゃないと防ぎきれない。いざ戦闘となった時、足手纏いになる可能性があるからです」
「言ってくれるなぁ結奈?足手纏いだと?どの口が…」
私に詰め寄って来た黒刀姉さまが踏みとどまった。
キィィィィィィ………
「な、なんだこの音?」
「来る!早く避難を!早くっ!!」
私の切羽詰まった迫力に押し切られたか、お姉様方も同門も見習いも、戸惑いながらも屋敷に戻って行った。
「なんだ!?このヤバそうな音は!?」
客間から葛西さん、ソフィアさん、松尾先生と梓が庭に飛び出して来た。
「来ます!!敵が!!」
「敵だと?」
葛西さんが辺りをキョロキョロ見回す。
「敵なんて何処にも……うおっ!?」
言い終える前に、キィン!!と、ひときわ大きく響いた警戒音!!と、同時に、水谷の屋敷を中心とした、広い空間が広がった!!
「あ、亜空間?地平線が見える程広い亜空間なの?」
「ええ。勇さんの札の効果よ」
「あのガキは何ちゅう転送結界を作ったんじゃ…」
呆れて笑うしか無い松尾先生。
亜空間転送は高位の術者なら使えるが、此程の何もない、ただの広すぎる空間は誰も見た事は無いだろう。
勇さんはその結界を、札に念を込めただけで創り上げ、そこに転送した事になる。
「改めて北嶋さんの凄さを感じるわ…」
ソフィアさんも讃嘆するしかない様子だが…
「ん?誰かこっちに向かって来るな?」
葛西さんが地平線の遥か先を凝視する。それに釣られて、私達もじっと見た。
「来た!!敵だ!!あれがヴァチカンを襲った奴等だ!!」
満身創痍ながらも、敵の気配を察したヴァチカンの騎士が、庭に来て叫んだ。
案の定よろけて倒れ込む騎士。それを梓がしっかりと受け止める。
「レオノアさん!まだ動いては駄目です!」
「クミアイチョー達の力になる為に、俺も戦う!!」
梓に支えられながらも、何とか立ち上がり敵に闘志を向ける。
「はっきり言います。足手纏いです。大人しく寝ていて下さい」
ギョッとして私を見る皆さん。
「結奈っ!!アンタ…」
注意しようと身を乗り出す梓を、葛西さんが手を翳して制した。
「千堂に同感だ。テメェはすっこんでろ。ロゥ!!」
呼ばれて客間に居たフェンリル狼が庭に飛び出した。
「選別しろ。奴等と戦っても死なねぇ連中を。万が一死んじまったら、北嶋が打った手が無駄になる」
――そのつもりで屋敷の人間を全て視たが…庭に出ている人間しか戦力になる人間は居ない。無論、怪我人の騎士は論外だがな
騎士をギロッと睨み付けるフェンリル狼。
「…そうか…俺は戦力外か…くそっ!!」
傷を負った自分が恨めしいと言った感じで、地面を叩き付ける騎士。
「梓、ヴァチカンの騎士をお願い。此処は私達に任せて」
「…解ったわ…気を付けて!」
梓は騎士に肩を貸し、屋敷内に入って行った。
「テメェも隠れていいんだぜ」
「ヤバそうなら尻尾を巻きますから、ご心配無く」
「ハッ!なかなか素直じゃねぇか。俺のお楽しみを邪魔すんなよな」
葛西さんは笑いながら向かって来る敵を見ている。今から始まる殺し合いが楽しみで仕方ないように。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「…ワシも尻尾を巻いて隠れてもええかの?」
ジジィが引き攣りながら呟く。無理もねえ話だ。眼前には1000匹はいる悪魔。だが、俺は寧ろワクワクしていた。
「悪魔共か。ざっと1000匹。羅刹、腹いっぱい喰えるぜ!!」
背中の羅刹が暴れ出す。この頃、餌をあんまり喰わせてねぇから喜んでいやがるんだ。
――進行が止まったが、一人だけ此方に歩いて来るな
ロゥも毛を逆立てながら、臨戦態勢を取っている。
やがて一人で歩いて来たそいつは、俺達の前で立ち止まった。
「亜空間転送結界とは…此方の動きを察知したか?」
「テメェは確か…松山とか言ったか?」
松山 主水。以前やり合いそうになった、リリスの配下の超能力者だ。
「あの時の鬼を飼っていた奴か。久しいな」
「で、何の用だ?まさか話し合いしたい訳じゃねぇだろうな?」
ビンビンに発している殺気。羅刹も滅茶苦茶反応し、暴れ捲っている。
「話し合いか。それで回避できるなら…お嬢が自由になれるなら…」
フッと暗い表情を浮かべる松山。それは絶望感に近い表情かもしれない。
だが、そんなモン関係ねえ。
「テメェ等から売って来た喧嘩だ。後ろの悪魔共をぶち殺した後なら、話くらいは聞いてやるぜ」
「1000を越える悪魔の群を目の前にしても、そう言うか……俺はお前みたいな男は嫌いじゃない。だが、最早仕方ない事だ」
松山が手を上に翳した。
それと同時に、悪魔共が俺達に向かって襲い掛かって来た。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
おばあちゃんがお願いしたと言う荷物を届ける為に、爆走して超満足状態。普通に顔がにやけている。
「よっし!思ったよりも早く着いた!」
――妾の妖術で高速を走っている車全てを右車線に移動させた結果だろうが?幻術で警察の目もくらませたしな…
北嶋さんに力の解放の許しを得たタマに頼んで、私の障害に成り得る物全ての目を眩ませたのも、早く到着した要因の一つ。
「おかげで久々に楽しいドライブができたわ!後で油揚げ作ってあげる!」
タマを抱き上げ、北嶋さんの実家の門を潜る。
――尚美さん、お久しぶりですなぁ
一番先に出迎えてくれたのは、北嶋本家の守護神、バステトのクロ。
「お久しぶりです黒猫様。今日は頼まれた荷物を持って参りました」
御挨拶をして、トランクから梱包された段ボールを取り出す。
――猛か銀子が何かお願いしたのでっしゃろか?
「おばあちゃんが早く欲しいと言われたようなので」
――そうどすかぁ。銀子は中に居ります故、どうぞ入って休んで下さいな
黒猫様はニコニコしながら、私達を家の中へと誘う。
「あらー!!尚美さん!!あらあらまあまあ!!よう来てくれたの!!」
おばあちゃんが驚きながらも笑いながら出迎えてくれる。相変わらず声でっかい。
「お久しぶりですおばあちゃん」
深くお辞儀をする。
「挨拶なんかどうでもいいから、早よ上がりんしゃい!!おいジジィ、尚美さんが来たぞぇ…ジジィは農協の会合で居らなんだか…」
おじいちゃんは不在か。会合なら、そんなに時間は掛からないかな?ちゃんとお顔を見てご挨拶したいしね。
「あ、これお土産です。あと、これが頼まれた荷物です」
途中で買ってきたお土産と一緒に、北嶋さんから預かった荷物を渡した。
「頼まれた荷物?はて?」
おばあちゃんは不思議そうに首を捻った。
「北嶋さんがおばあちゃんに頼まれたそうですが…」
「勇に?ワシャあ何も頼んどらせんが…ジジィかな?そう言えばあのバカガキはどこじゃ?」
「北嶋さんはちょっと用事があって、来られないそうでして」
まさか私の運転が怖いから来ないとは言えない。騙したようで、少し罪悪感が……
「バカガキは来んか。尚美さんが来てくれたから勇なんかいらんがの!!カハハハハハハ!!!」
笑いながら荷物を開けるおばあちゃん。やはり笑い声もでっかかった。
「ん?何じゃこりゃ?」
荷物の中身を見ながら不思議そうな表情を浮かべた。
「何が入っていたんですか?」
「ほれ」
荷物を私の前に置き、中身を見せる。
「………関係者以外立ち入り禁止?侵入禁止の札も?」
確かにおばあちゃんが頼んだ荷物では無い。無論、おじいちゃんも頼む筈も無い。
「間違えて梱包したのかしら…」
そう呟きながら、確認の電話を入れた。
しかし、何度もコールしたが、応じない。
「出ないわ。どうしたのかな…」
諦めて電話を切る。
「こりゃ勇の字かぇ?自分の孫ながら、汚い字じゃのう」
おばあちゃんが侵入禁止の札を取り、じっくり見ながらそれをテーブルに置いた。
フォン
「え!?」
今、結界が張られたような?
辺りを見回して確認する。
侵入禁止の札を置かれたテーブル一面だけに、何かを退ける結界が張られたのを確認できた。
――尚美…今の結界は…?
タマに聞かれるも、解らない、と首を振るしか無い。
――九尾狐さんやウチが何も無い所を見ると、妖や神に対する結界では無さそうどすが…
それに対して頷く。
間違えて梱包した荷物だとしても、何故こんなに大量に札を作ったのだろうか?
何故か不安を感じて、その札を手に取った。
「そんな札なんかどうでもええがな。ほら、尚美さん、これ食べんしゃい」
おばあちゃんがクッキーを大量に持って来て、テーブルにドン!と置く。
いや、違った。ドン!じゃなく、ドガン!!!だった。
「あ、ありがとうございます。す、凄い量ですね…」
クッキーを置いた瞬間、軋んだテーブル。どれだけの量があるのだろうか?
「だぁれも食わんが、作るのは楽しいでな」
食べる人が居ないなら勿体無い。
「タマ、食べて」
――ええ!?いや、食えるには食えるが、こんなに沢山は無理だ!!
「黒猫様、どうぞお召し上がり下さい」
――ええ!!正直飽きましたわ!!お刺身ならどれだけでも食べられるんどすが!!
タマも黒猫様も、大量のクッキーを敬遠している。それは勿論、私もだ。
「今お茶を煎れるで、少し待っててなぁ」
そう言って台所に引っ込む。
「うーん…北嶋さんに持って帰ろうかしら…」
クッキーを取ろうとした瞬間、荷物が肘に当たり、中身が床に散乱してしまった。
「わ!いけない!」
慌てて拾い集める。
その時、何かの脅威を感じた。
タマも黒猫様も一斉に玄関の方を見た。
「………来る!!」
敵意は何故か感じない。
だが、来る!!
私を殺しに、あの女が此処に来る!!
――尚美!!後ろに居ろ!!
タマが私の前に立つ。
「それは駄目。気配は単騎。話し合いに来た訳じゃ無いでしょうが、一人ならば私に何か言いたい事があると思うから」
立ちあがり、玄関を見据える。
――魔女ですえ!?たった一人でやって来る訳あらへん!!
黒猫様も殺気を玄関に放つ。中に一歩も入れないように。
「それも解ります。ですが、やはり私がやらなきゃならないんです」
私以外に誰が出迎えると言うのだろう。
私の生涯最大の敵を。
同じ男を愛したあの人を。
全員が玄関に気を向ける最中……
ピンポーン…
普通に呼び鈴が鳴った!!
「ありゃあ?誰か来たんかな?」
おばあちゃんが奥から出迎えに小走りでやって来る。
「あ、私が出ます」
敵意を感じないとは言え、おばあちゃんを危険に晒す訳にはいかない。
黒猫様がおばあちゃんの足元に絡み付いている隙に、私が玄関扉を開けた。
「…やはりあなたなのね、リリス………」
「こんにちは神崎。少しお婆様にご挨拶をさせて貰う」
リリスはいつも浮かべる微笑を出さずに、真剣な表情を真っ直ぐに私に向けた。
「どちらさんかいの?」
私に阻まれた形になっているおばあちゃんが、隙間からリリスを見ようと頑張って屈んだり、跳ねたりしていた。
リリスはお辞儀をし、話し出す。
「幼き日…困っていた私を助けてくれた、此方のお家の男の子に、是非お礼をと思い、伺わせて頂きました」
私を押しのけて前に出るおばあちゃん。さりげなく黒猫様が前に出て庇っている。
「男の子?勇のボケの事かいな?随分と綺麗なお嬢さんですな。異国の人ですか?」
「はい。ガイジンです」
リリスは裏表無い微笑を浮かべて顔を上げた。
それはいつもの含みのある微笑とは全く違う、心からの微笑み。
「長旅でしたな。どうぞ中へ入って休んで下され」
おばあちゃんもニッコリ笑ってリリスの手を取り、中へ入れた。
「シャーッ!!」
黒猫様が本気で威嚇している。
リリスは屈み、黒猫様と顔を見合わせた。
「誰にも被害を与えるつもりは無いよ。今の所はね。純粋に、あの時のお礼をご家族にしたいだけなんだ」
――信じられますか!!
「信じるか否かは貴女の自由。そして招かれた私が中に入るか否かは、私の自由さ」
リリスはおばあちゃんに招かれる儘、中へと入って来た。
「えぇと、リリスさんだったかいの?あのバカガキは家に居らんのじゃ。折角来て貰って申し訳無いのぅ。せめて休んでいってたもれ」
クッキーを山積みにしたテーブルに通し、座るように椅子を引くおばあちゃん。
「はい。此方に居られない事は承知ですが、一度ご家族の方々にもお礼をと思い、寄らせて戴いた次第です」
素直に引かれた椅子に腰を掛けるリリス。
「そうですか、わざわざどうも。クッキー食べなされ。紅茶でええかな?」
「お構いなく」
頭を下げるリリス。おばあちゃんは勿論、お茶を煎れに台所へ引っ込んで行く。
「………流石ねリリス…あっさりと懐に入るなんて」
「今は本当に戦う気は無いよ。証拠に、敵を拒絶する結界が働いて無いだろう?」
リリスはテーブルに置かれた侵入禁止の札をトントンと指で叩いた。そこで初めて気が付く。
「侵入禁止の札は敵の侵入を拒む札ね!!立ち入り禁止は飛び火を防ぐ為の亜空間転送結界!!」
「もしかして、今気が付いたのかい?やれやれだ。本当に君は良人の伴侶に相応しく無い女だね」
屈辱を覚える。それに呆れながら、クッキーを一口食べるリリス。
「美味しいクッキーだね。お婆様が作った物か。本当はこのクッキーは私の為に作る筈だったのだがね」
一転、寂しそうな表情を見せる。
何だろう…今回のリリスの意図が掴めない…
戦う意思があるのか、戦いを避けたいのか、さっぱり読み取れない…
「仕方ない。待ってやるから、急ぎたまえ」
浅く腰掛けた儘、荷物の中身に指を差す。
「何を待つと言うの?」
「札を貼るまで待つ、と言う意味さ。少しばかりは手伝うがね」
ちょうどその時、おばあちゃんがお茶を煎れてテーブルに置きに来た。
「ほれ。みんな仲良くオレンジペコじゃ」
「ありがとうございますお婆様」
そっとおばあちゃんの瞳に目を合わせる。
瞬間、ガクッとおばあちゃんが気を失ったように倒れ込んだ!!
「おばあちゃん!!」
リリスに抱き止められるおばあちゃんはピクリとも動いていない!!
「リリス!!あなた!!!」
私もだが、タマも黒猫様もリリスに向かって敵意を浴びせた。
「邪眼で眠らせただけだ。少し落ち着きたまえ。良人の大切な友人達も、私が術で家に呼び出そう。神崎、その間に君は札を貼るんだ」
奥の部屋におばあちゃんを寝かせながら私に指示を出すリリス。
「あなた、本当に何を企んでいるの!?」
背中越しに怒鳴った。
リリスはゆっくり振り向く。
そのリリスを見て、ぎょっとして目を見開く。
「本当は戦いたくは無い…いや、君とはやはり戦いたかったが、こんな状況は望んでいなかった…だが、仕方ないんだ神崎…せめて良人が想定した条件で、君と殺し合おう……」
振り向いたリリスの瞳からは、一滴の涙が滴っていた。
――そんな面倒な手順など必要ありませんえ!!
黒猫様が真の姿へと変わる。神気も小さな黒猫とは全く違う程巨大となった。
「バステト女神。本当にそれで良いのかい?君が今、私を襲うと言うのなら、待機させている悪魔共を直ぐに呼び寄せる事になる。結界も張っていない今の状況…全く関係の無い近所の人間も巻き添えになり、この場所は阿鼻叫喚の地獄絵図となる。それでも良いならば牙を剥くが良い」
リリスは涙を流しながらも凛とし、黒猫様を見据えた。
――くっ、何と卑怯な!!
「卑怯…此程譲歩しても卑怯と呼ばれるか…嫌われた物だな」
戻って来たリリスは、椅子に再び腰を掛け、目を瞑る。集中しているのだろう。手伝うとは本当の事だなんだ…
「…タマ、黒猫様、急いで札を貼りましょう。リリスが鳴海さんやおじいちゃんを呼び寄せるまでに」
――信じると言うのか尚美!?
――尚美さん!!
非難と言うか抗議と言うか…その種の意味が込められた言葉が私に向けられる。
「北嶋さんが想定した事柄…リリスが違えるとは思えない」
リリスは本当にお礼を言いたかったに違いない。
北嶋さんに初めて会った場所を作ってくれたおじいちゃん、おばあちゃんに。
リリスは本当にこの状況を望んでいないだろう。
北嶋さんの大事な人達を巻き添えにし、死なす可能性がある状況を。
昔は兎も角、今はちゃんと人の気持ちが解るのだから。
「おじいちゃん達にも邪眼で眠らせてくれるんでしょうね?」
「勿論さ。『今の私』に可能な『自由』は此処までだがね」
私は力強く頷きながら、札を抱えて外に飛び出した。
家に侵入禁止の札を、境界に立ち入り禁止の札を貼り終え、家の中に戻る。
「終わったわ」
「此方もだ」
リリスの術で家に呼び寄せられたおじいちゃん達は、居間や客間で布団を掛けられて眠っていた。
「今外に出るよ」
立ち上がり、外に出ようと玄関先まで歩く。私はリリスの手を掴み、外に出る所を止めた。
「……何のつもりだ神崎?」
「…リリス、確かにあなたとは決着を着けなければならない。だけど、これはあなたの意思じゃない。一体何があったの?」
「……答える代わりに一つ、教えてやろう。今、良人は7万の悪魔と魔界の五王を相手に戦っている。此処でグズグズしている暇など無いよ神崎」
「7万の悪魔ですって!?」
掴まれた手を叩き、リリスが再び歩いた。
「待ちなさいリリス!!」
追う私だが、脚が止まった。あの瞬間、リリスが踵を返して私の耳元で囁いたから。
「………え!?」
「…私が外に出たら開戦だ」
リリスは私に軽く微笑みながら、外に出た。
「リリス、あなたは!!」
リリスを追って外に出た。
コォオンン
「く!!」
一際大きく響く警戒音と共に、何も無い、ただの広い、いや、広過ぎる空間が広がる。
――い、勇は此程の亜空間結界を創れるんどすか………
「北嶋さんなら創れます。それを思い浮かべたなら」
――そんな事よりも、魔女の周りを固めている悪魔共だ
タマが本来の姿、国滅ぼしの大妖の姿になり、私を護るように立ちながら身構える。
「神崎、『取り敢えず』私が契約した1000の悪魔を此処に連れて来た。この数は警視庁と水谷本山と同じ数の悪魔だ」
パキンと指を鳴らし、椅子が出現すると、リリスはそれに座りながら話した。
「やはり北嶋さんの関係者の所に出向いた訳ね」
冷静に事態を受け止める。
「意外だな?もう少し慌てるかと思ったんだが?」
「北嶋さんの事だから手は打ったんでしょう。私を札と共に実家に送ったように」
恐らくは警視庁には印南さん、水谷本山には葛西を送っただろう。
北嶋さんが頼りにする人物と言えば、その二人以外にいない。
「ご名答だ神崎。良人は確かにそのように布陣を組んだ」
拍手するリリス。嫌味を見せない、普通の拍手だ。
「たかが1000。見た所、下級悪魔しか居ないようだし、それで私達を倒せると思っていないでしょうね?」
「中級以上の悪魔はヴァチカンを襲撃しているからね。数頼みしか出来ない状況なんだ。だが、君だけは特別だ。例え望まない状況とは言え、君は私が倒さなければならない、最強最後の敵………」
リリスに同感だ。リリスは私が倒さなければならない。
最強にして最大の魔女としてでは無く、男を取り合うだけの為に。
「全力で来い神崎!!私も今の全力を君に見せよう!!」
リリスが呪文を詠唱する!!
――魔王を喚ぶ呪文どすか!!
――尚美、妾の後ろに居ろ!!
しかし、そんなタマと黒猫様を押しのけて前に出る。
――尚美!!意地を張っている場合では無いぞ!!
「意地?そうね。そうかもね。タマと黒猫様は集まった悪魔達をお願い。魔王と魔女は私が倒す」
互いに意地を通して戦う私とリリス。
魔王召還がリリスの技の一つなら、私はそれを受け入れるだけ。
私はリリスの詠唱が終えるまで、リリスから目を離さずに、ただ備えていた。
「煉獄の第二冠を総べる嫉みの王よ!! 我が敵の瞼を縫い止められ、盲人の如くせよ!!二度とその者が見られぬように!!!出でよぉ!!嫉妬を司る魔王ぉおおおお!!!」
地鳴りと共に、リリスの背後から影が吹き上がるように立ち上った。
「嫉妬を司る魔王、レヴィアタン……」
顕現したその姿は、漆黒に染まった深淵の黒い犬。
狂犬病を発症しているように、真っ赤に充血した瞳と、涎を流しながらゆっくりと此方に歩を進めて来る。
「今の私に相応しい魔王さ」
「…嫉妬に狂っている訳でも無いでしょう」
私も歩きながら印を組む。
「神崎、さっき言った事…頼むよ」
「なら加減してよね」
先程私に囁いた言葉を確認したリリスに対して笑いながら応える。
――神崎、だったか?リリスが倒したいと欲した女だな。貴様を嫉妬するリリスの心が、私を喚びだせたのだ。貴様には取り敢えず感謝しよう
「感謝なんか要らないわ。どうせ地獄に逆戻りする事になるんだから…」
印の効果で雨雲が立ち込め、雷鳴が響き、鼻に硫黄の臭いが付いた。
――メギドの火か…それ程の大技を苦もなく扱えるとはな…
「相手は魔王。それに魔女。出し惜しみする気は無いわ」
天空に手のひらを翳して叫んだ。
「堕落した者、重罪の者!!滅びを呼ぶ者を焼き尽くせ!!天から来たれ炎の矢!!天の雷柱あ!!!」
凄まじい轟音と共に、粉塵が巻き起こる。
「さあ!!開戦よ!!」
それを合図に、タマと黒猫様は1000の悪魔達に向かって突っ込んで行った!!
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