17:街へ出よう
17:街へ出よう
『いいんじゃない?』
『賛成』
『その方がいいな』
『俺も俺も』
口々に同意の声を上げるコボルド達。
そこに
『良い訳無いじゃろーが!』
と、『否』を叩きつけたのは、他でもない長老であった。
一同の視線が、その老人へと集中する。
彼等が今集まっているのは、予備住宅兼集会所となっている、大きめの竪穴式建築物だ。
ガイウスという強力な労働力が加わったことにより村の住宅事情は急激に改善しつつあり。おかげで、このような建物まで用意することが出来たのである。
ただ、やはり主だった家長達が一同に詰め込まれると全員が座るには難儀するらしく、何人かはガイウスの膝や、肩に乗るなどしていた。
大きくて無害な動物が居れば登ってみたくなるというのは、大人子供に関わらず感じるものらしい。
『この男を奴等の所になんか戻してみろ! 絶対、他のヒューマン共にこの村の場所を明かして仲間を連れ襲い来るに決まっておる! それが分からんのか!?』
ガイウスを時々睨みながら、興奮した様子でまくし立てる。
だがそんな長老に対し、ある中年コボルドは
『ガイウスなら大丈夫だろう。大体このことに関して言えば、俺達よりも長老のほうが鼻が利くはずだ。俺達でも分かるんだから、爺さんが理解できないはずがないだろう』
と、諭すように言った。
彼の名はレッドアイ。以前ガイウスが倒壊した家の下から助け出した子供、フィッシュボーンの父親である。
『フン! 信用できるものか! 森から出した途端、逃げられるのがオチじゃ!』
『じゃ、見張りを付ければ大丈夫だな』
『そういう問題じゃな……』
レッドアイは長老の言葉を途中で遮ると。
『ホワイトフォグ! お前、ガイウスの見張りに付いていけ。コイツがヒューマン共に俺達の村を教えようとしたら、すぐに殺せ! 出来るな?』
フォグは一瞬『はぁ?』という声とともに怪訝な表情を浮かべたが、すぐにレッドアイの意図を察し。
『勿論さ』
にやりとほくそ笑む。
『何じゃお前達、その茶番は!』
長老は騒ぎ立てるが、回りのコボルド達が『まあまあ』と言って老人の怒りをなだめ始めた。
『ガイウス、何日位かかりそうだい?』
「マイリー号が引けば、馬車に休憩も食事も要らないからな。枯れ川を含め、目的の街まで三日も見ておけば十分だろう」
『結構かかるね』
「まあ森を出てからもそれなりに距離はもあるが、その前に枯れ川があるからな」
ガイウスは顎を擦りながら、「通常の行軍距離なら、一日では足りんかもなあ」と誰に言うでもなく、小さく呟く。
どうやら昔を少し思い出しているらしい。
「……あれが曲がりくねっているせいで、結構な距離があるのだ。君達は森を自由に走り回れるから良いが、馬車は森の中を進めない。どうしてもあの川に沿って移動する必要がある。単騎ならフォグに案内してもらえば森の中を抜けられるだろうが、荷台が無いと荷物をあまり持って帰れない」
『そんなに沢山運ぶのかい』
「そのつもりだ」
ふーん、と相槌を打ったフォグは、レッドアイの方へ向き直り。
『じゃあレッドアイ、その間うちの子達を頼んでもいいかい』
『いいとも。フィッシュボーンも喜ぶだろうよ』
レッドアイが頷く。
『じゃ、決まりだな』
『よし、解散解散』
『いやー、俺ずっと便所行きたかったんだよ』
『俺も俺も』
やや年配のコボルドが締めに入り、他の者達もそれに同意する。
こうして、ガイウスはフォグと共に街へ買い出しに行くことに決まったのであった。
◆
『おかーさんだけずっこいー! ぼくもいきたーいー!』
『おばさまずるいです!』
こういう時だけ連携を取り、抗議の横転運動を繰り広げるアンバーブロッサムとフラッフを尻目に、フォグは旅支度をしていた。
『遊びじゃないんだよ! 村の仕事で行くんだから!』
『『ずーるーいー!』』
ごろごろごろ。
「はっはっは。お土産を買ってくるから、楽しみに待っていなさい」
『え? おじちゃんホント? ヤッター!』
勢い良く飛び起きたフラッフが、尻尾を振って答える。
「何が良いかな」
『えーとねー、なんかカッコイイもの!』
「そうか、カッコイイものか。よしよし。ブロッサムは何か欲しいものはあるか?」
『わたしがほしいのは、お・じ・さ・ま・で・す。うっふぅーん』
しなを作ってガイウスの膝にもたれ掛かるブロッサム。
「はっはっは」
『この子、何処でそんなの覚えてくるんだい……止めときな』
『? はーい、おばさま』
『さ、今日はもうそろそろ寝て。アタシ達は朝一番で出発するからね』
『「『はーい』」』
ぱんぱん、と拍子を取りながら就寝を促すフォグの声に。
二人の子供と一人の中年が、元気よく返事をするのであった。
◆
翌日村を発った二人であったが。
森を出るまでの間、魔獣に襲われることもなく。
街道までの道のりも、支障はなく。
道に乗った後は、危なげなく。
無事、ノースプレイン侯爵領内にある中規模都市、ライボローへと辿り着いたのである。
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