第34話

「それはそうと! こうなった以上、私達二人で戦わなきゃいけないわ!」

「でもどーするよ! こんな人数だ! せめて頭数だけでも減らさねえと……」

「策があるわ。フレキ、ゲリ。来なさい」


 魔力で作られたオオカミが二頭召喚される。それらに片足ずつを乗せ、SSR子は仁王立ちをする。


「何をする気だSSR姉貴!」

「織田信長を一気に収容するわ!」


 そう言うと、SSR子は息を吸い込んだ。

 そして――


「敵は本能寺にありーーーーー!」


 叫んだ。

 瞬間。反応する織田信長達。暴れまわっていた織田信長は一瞬だけだが動きを止め、そして、SSR子の方を向く。

 しかし、反応しない個体もいた。それこそが「本能寺前」設定の個体である。

 だが、この時反応した織田信長の数・実に170人。

 全方位から、怒号が響き渡って、雪崩のように押し寄せる織田信長。


『『『『『ミツヒデーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!』』』』』

「作戦成功! 全力でサークルまで駆けなさい! フレキ、ゲリ!」

 オーディンはオオカミを走らせた。

「お、おい! SSR姉貴! アタシは置いてけぼりか!」

「サークルに叩き込んだらまた戻って来るわよ! その間、本物を探し出す策でも考えててーー!」

『ミツヒデーーーーーーー!』

『ミツヒデーーーーーーー!』

「光秀ええええええええええええええええええええ!」

「光秀―――――――――!」


 170の織田信長はSSR子を追う。その中には超大型も含まれていて、二人の狂戦士を相手にしつつSSR子を追い始めた。

 一人残されたN子は、考える。

 織田信長。この超萌え萌え戦記の織田信長一人を見つけ出せば勝敗は決する。

 だがこれだけの数の織田信長の中からどうやって本物の織田信長を見つけ出す? とりあえず男はハブるとしても、女体化された織田信長の数だけでも膨大だ。しかも織田信長は苛烈な性格で描かれることが殆ど。放っておけば人々が――光秀も危ない。

 何か無いのか。何か――


『えーーー。お集りの織田信長の皆さまに、お伝えしますわー!』


 と。滅多に使われることの無かった、このボックス村のスピーカーが声を運んできた。

 その声の主は、声と話し方だけで分かる。


「ジャンヌ!?」


 ジャンヌ・ダルク。N子達のお隣さんズの一人だ。

 ジャンヌの声は続けた。


『えー、突然ですが、今から中央広場にて! 皆さんの歓迎クイズ大会を開きますわ! 優勝賞品は、南蛮渡来のものアレコレたっくさん! 参加資格は名前に「おだのぶなが」が入っている方!』


 全ての織田信長が動きを止めた。

 SSR子がひきつけた織田信長達は光秀を追いかけるのに夢中で聞いてすらいないのだろう、向こうからは地響きと光秀コールが聞こえる。


『中央広場! 中央広場にお集まりくださいな! 南蛮渡来のアレコレですわよ! カステイラも種子島も思いのままですわよーー!』

『種子島――――!』

「うおお!?」


 N子の後ろから、大量の織田信長が殺到してきた。街道の脇に回避が間に合うが、間に合わなかったら間違いなく織田信長の下敷きになっていただろう。

 過ぎ去った織田信長の濁流を遠目に、N子は呟いた。


「クイズ大会……一体何する気なんだ」





 中央広場は織田信長で埋め尽くされていた。

 ざっと見て、男女比は4対6といったところ。まだまだ判別がつかないレベルである。南蛮渡来のものが貰えると知ったためかさっきまでの暴走っぷりはなりを潜め、静かにその時を待っている。


「お前らのとこにも来たのか、村長」

「ああ」


 主催者――お隣さんズは、このボックス村で一番高い村長の家の屋根にいた。玉藻前、ジャンヌ・ダルクの二人である。

 残りの三人は小型のホワイトボードを織田信長達に配布している最中であり、これで正解不正解を見極めるというわけだ。


「この中から、穏やかに本物を見つけだす方法はこれしかない。超萌え萌え戦記の織田信長は史実にかなり忠実だという。だから織田信長っぽい問題を出していくことで魔改造された織田信長を振るい落としていって、残った奴の中からなんとか探し出す。少なくとも村の混乱は抑えられるしな。探し出す方法は後回しだが……」

「なるほどな。少なくとも頭数は減らせっからな……だけどよ。見たか?」

「ああ。見た……」


 玉藻前とN子。宿敵同士は今、同じ一点を見つめていた。

 100を優に上回る織田信長の軍勢。その中に綺羅星のように輝く顔が――5つ。

 のぼーーーっとした、ナマズっぽい顔。

 教科書で見るような模範的な織田信長の肖像をそのまんま抜き出したような、織田信長・オブ・織田信長。誰にも文句は言わせないレベルの忠実過ぎる織田信長が、5人も混ざっているのである。


「アイツラはやべえだろ……っていうかこの時点でもう優勝じゃね? あの顔もう既に優勝だろ。誰も文句言えないレベルに織田信長じゃねーか」

「間違いなくアイツラが台風の目になるだろう。っていうか何であんな顔でソシャゲに入っちゃったんだアイツラ? Nですら危ういぞ。SSRだったらどんな広告打ってアピールしてやればいいのか見当もつかない」

「そうは言っても、もう退けませんわ! 私の用意した、秀逸な問題達で見事、にわか織田信長を振るい落としてみせますわ!」

「日本人ゼロのお前らが作った問題って不安しかねえぞ」

「えー、お集りの皆さん、ごちゅーもくーーー! これからクイズ大会を始めたいと思いまーす!」


 ジャンヌ・ダルクは声を張り上げた。かつて誰もが恐れた眼光が何百と向けられてもなお毅然としているのは、その元ネタ故の胆力のなせる業だろう。


「アナウンスにもありましたように、これから出題するクイズで優勝すると南蛮渡来の貴重品ががっぽがっぽ手に入ります! もしも負けてしまっても、あちらの受取所で参加賞のカステイラとコンペイトウだけはもらえますわ! 皆さん奮って頑張って下さいませ!」

『是非もなしーーーー!』


 是非も無しコールで全員が大喜びである。

 なお、参加賞受け取りの受付所はサークルの上であり、そのまま送還出来るようになっている。


「流石だジャンヌ! 乗せるのはうめーな!」

「元ネタ的に当然ですわ! 民衆を煽るスキルは生まれつきですの」

「流石洋物フリー素材だぜ!」

「人をフリー素材と言わないでくださいな! 何はともあれ、やりますわよ!」


 ジャンヌは問題を手に、屋根の淵へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る