第17話

 後日。

 ゼウスは黒服たちと生活を共にし、クエスト参加の時も黒服の監視付きというガチガチの縛り生活を強いられ、入手時の威厳など欠片も残ってはいなかった。そのしぼみ様は、同じデッキメンバーに差し入れをしてもらったり励ましてもらったりするレベルであると村には広まっていた。

 確かにボックスこそ圧迫されたものの、村には平和が戻ったのである。


「R子……いいか。もう一度言うぞ。あの黒服には絶対に勝てないんだ」

「うん、知ってるよ?」

「じゃあ何でトラップの数を10倍にしてるんだテメー―――!」


 N子がR子のビキニを思い切り引っ張った。それでずれるビキニを軽い動作で抑えるR子は、頭上のピアノ線を上手くくぐって回避する。

 あの事件以降、黒服という絶対者の存在は村全体に広まった。そしてR子も諦めるかと思ったのだが、R子は逆に相手を殺しつくせるだけの方法を考えたのである。

 それこそが、家の中のトラップ激増。落とし穴、吊り天井、ピアノ線からのマシンガンや爆弾、地雷、振り子の斧、ブービートラップ、エトセトラエトセトラの罠地獄。

 SSR子は既に息絶えるように横たわり、覚醒の宝玉(R以下)も撃沈。SR子とN子は生き残り、R子に食って掛かっていた。


「だって、罠って意志の無い殺人鬼だし、通じるんじゃないの? キャラクターの攻撃は効かないってだけじゃない? 私は諦めたくない、戦うよ」

「怖いんだよお前の戦い方は! 嫌にリアルな戦い方なんだよ! 手に血がつかない人殺しってタイプだろお前!」

「歩兵なんか時代遅れだし」

「戦国時代が元ネタとは思えない奴だな……とにかく全部解除しろ! 全部! 今すぐだ!」

「えー、だって軽く3桁は超えてるんだけど?」

「どうやって一晩でそんなの仕掛けた!?」

「藻の人達と一緒にやったの」

「アイツラブッ飛ばす!」

「アイツラ呼んで来い! 全部解除させたるーーー!」


 意気盛んな二人とサイコな一人を横目に、SSR子は電子音で目を覚ます。


「あ……ごはんあげなきゃ」

「SSR子、それにはちゃんと反応するんだな」


 欠片の状態の覚醒の宝玉(R以下)が声をかける。


「ええ、そうですわね。何せ、大切な子ですもの。今回は、きちんとしっかり育て上げてみせますわ」


 でも、こういう育成系のゲームをやっていると、たまに思うことがありますわ。

 SSR子は丸いたまご型のゲーム機をいじりながら、遠い眼をする。


「今回の黒服といい、私達ってやっぱり、ゲームの中の存在なんだなって思うことがわりとありますの。そしてゲームって、飽きられるものですわ。知ってます? 兄さま。このたままっちってゲームの中の子は、放っておくと死んじゃうんですの」

「……」

「私達のゲームも飽きられたら、私達ってどうなるのでしょうね?」

「SSR子」


 撫でる手も、受け止める胸も無かった。

 しかしそれでも、SSR子は確かな「兄」の温度を感じる。


「俺なんか、人型ですらないんだぞ? それでも俺は、お前達の兄として暮らせて、幸せだ」

「……やっぱり、兄さまはカイザーの器じゃないですわね」

「ああ。ただの、ブラザーだ。イケメンのな」

「ブラザー・ポインツ・10」

「シスター・ポインツ・10」


 騒がしくてバカバカしい、ボックス内の日常は続く。

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