第三話・カワイイ・ビューティー・デュエル
第18話
ボックス村1の破壊神。
ボックス村1のサイコパス。
ボックス村1の苦労人。
ボックス村1のアホ。
ボックス村1の丸型。
この五人が同居する家は常に騒がしく、ボックス村の震源地とも言われていた。それほどの災厄と騒音をまき散らすこの家は周りに厄介扱いされ、同時に妙な方向で愛されても来た。
だからこそ、ボックス村のキャラ達は今日のこの家に眉をひそめる。
「何も聞こえない……?」
家の前を通りかかったクトゥルフ神話の住人――ダゴンが、ぽつりと呟いた。いつでも騒ぎを巻き起こすこの家が、水を打ったように静かなのである。
周りを見ればこの静寂を訝しんでいる者達がそこかしこに集まっていて、この家の中の様子を伺おうとしている。しかし全ての窓が完全に締め切られ、中の様子を誰一人として伺えないようだ。
何かあったのか?
強硬突撃するべきか?
耳に壁を押し当てている者はしかし、微かな話し声を聞いていた。
「……ええ。……そうよ……シンギュラリティ……エントロピー……方程式……」
SSR子の声だった。普段の彼女を知る者からすれば信じられないほどに知的な単語が飛び出していることに衝撃を受ける。
果たしてこの家では何が起こっているのか!?
部屋の中は、机の上に置いたロウソクのみが灯りだった。
四人掛けのテーブルを囲むのはいつもの四人。そして、中央に佇むのは「スーパーバイザー」の張り紙を付けた覚醒の宝玉(R以下)。
全員が全員深刻な顔をして談義を行っていた。N子さえ感情の無い眼でロウソクの炎を見つめ、R子さえ真っすぐな面持ち。SR子は渋い表情を浮かべ、SSR子は両手を組んでサングラスをかけ、どこぞのマフィアのボスのような出で立ちだ。
この集会の目的は、壁に大々的に張り出されている。
それは――『オーバー・ザ・シンレアリティ・ポイント』。
それこそがこの集まりの目的であり、議題であった。
「……というわけ。理解は出来たわね? まだ分からない子はいるかしら」
「はい。SSR子」
SR子が手を上げた。
「どうぞ。SR子。発言を許すわ」
「ごめん。まったく分からない。何一つ分からないんだけど、さっきの説明。シンレアリティ・ポイントって何?」
「……?」
ちらと、SSR子はN子を見た。こくん、と頷く末の者。
R子を見る。R子はそうするのが義務かのように、自然に中指を立てた。
ロウソクの焔が揺れ、時は進む。
「SR子。悪いけどこのシンレアリティ・ポイントを理解してもらわなきゃ、この先のアカデミックかつダイナニズム溢れるエモーショナルな話題には到底ついてこれないわよ?」
「そうだぜSR姉貴。こっから先は悪いが、アカデミックでダイナミックかつアダルティックなアジェンダに対してスロウリイ・ステップを踏んじまうことになるぜ」
「そうだよSR子。このアカデミックかつアダルティックなアジテーションに対してインプレッシヴするには、それなりにハイクオリティなノウレッジがマストだよ? そうでなければこのアジェンダごとペンディングとして、モチベーションがダウナー」
「そう。メニーメニー・ダウナーになっちゃうわ。モチベーションをアグリーとするには、モアプロダクトでファニーめいたホイップをモアモアし、尚且つチームが真のトウエンノチカイを打ち立てるくらいのキックミー・ペーパーセナカニハリツケジケンしなければいけないわ」
「ああ。ここでコンセンサスを構築出来なきゃどこで合意形成をしようってんだ。チームがゴールするには、どんな落ち度も許しちゃならねえ。風通しの良い空間を作るために一人一人のステイタスも重要なんだ」
「そうだよ。だし味のラーメン、具無しのラーメン、高菜食べちゃったんですか?
スープから飲まなきゃもう二度と入れないお店。それこそがこの空間であり、今のSR子は海苔に油たっぷりの家系ラーメンそのものだよ」
「そうよ、SR子。ダイダブルニンニクヤサイチョモランマカラメアブラカタメ。ショウダブルニンニクスクナメアブラカタマリ、ゴチューモンハイリマシタハイヨロコンデ、イチマンエンハイリマーーースアリャーーーッシターー」
「SSR子」
コン。机に軽く拳を突き立てた。
「もうボキャブラリー尽きたんだろ? 意識の高そうな言葉。もう無理しなくていいからな?」
「……SR子」
すす、と椅子ごとSSR子はSR子の隣に移動する。
「じゃあ貴女、シンレアリティ・ポイントって知ってた? シンレアリティ・ポイント」
「……だから知らないってさっき言ったじゃないか。それの説明がわけわかんないから言ったんだよ」
「シンレアリティ・ポイントの何たるかも分からないのにこのシンレアリティ・ポイントは何を言ってるのかしら? まったくこれだから空気の読めないシンレアリティ・ポイントはシンレアリティ・ポイントなのよね。困りシンレアリティ・ポイント」
「うん。あのさ。やたらと私に勝てた数少ない部分だけごり押ししないでくれる? 分かったから、シンレアリティ・ポイントは。だからそのシンレアリティ・ポイントが何なのかを教えてって私は素直に訊いてるのに、何でそんな見下してくんの? 教える気あんの?」
「だって、SR子。考えてもみなさい?」
SSR子は蠱惑的な表情で、口の端から吐息を漏らす。
耳に寄せた濡れた唇は、淫靡に煌いていた。
「……シンレアリティ・ポイントって言葉、カッコいいじゃない。言いたくなるじゃない」
「あっそ。じゃあさっさと説明をしてくれ」
「もう、せっかちな困ったちゃんね」
椅子を元に戻し、話は続く。
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