カナブンの夢

杉本アトランティス

カナブンの夢


中学一年の頃に嫌な夢を見た。

その朝は曇り空で窓が灰色だったのをはっきり覚えている。

目を覚まして最初に私の目に飛び込んできたのは、天井にびっしり群がる何百匹ものカナブン。

最初はなんだか天井が緑になってるなぁと思ったが、それが全てカナブンだと気がつき「うわっ」と声を出しそうになった瞬間。

その緑の塊がドドドと布団の私に向かっていっせいに落ちてきた。

あっという間に視界がカナブンで暗くなる。

意外に痛い。

カナブンの足が鉤爪のようになっていて、それが皮膚にくい込んで痛い。

次から次へとカナブンは私の身体にまとわりついてくる。

口の中に入ってきそうなので悲鳴も上げれなかった。

たまらず布団を跳ね除け、カナブンを振り払いつつ、家族に助けを求めようと自室から飛び出した。

そしてまた私は自分の布団で目が覚めた。

天井は緑。

「あれ?」と思ったらやっぱりそれはカナブンで、私に向かってドドドと落ちてくる。

再び逃げようと自室のドアを開けるが、気がつくとまた布団の中にいる。

これが何回も続いた。

何回も何回も目覚めてカナブンまみれにされた。

目が覚めた瞬間に布団でガードしようとしても、何故かカナブンは布団をすり抜けて私の身体に張り付いてくる。

何度目覚めても天井には何百匹ものカナブン。

思い切って自室のタンスや襖に隠れようとしても、そこを開けた奥にもカナブンが飛び出て私にまとわりつく。

「このままじゃ学校に遅刻するー!」

全く覚めない夢に半分慣れてきたのかそんな事を思いながらも、ありとあらゆる手立ては全て尽くした。

それでも何回も繰り返す。

どうすれば逃げられるのか?

なんでこんな夢を見ているんだ?

なんでカナブンなんだ?

あっ…

思い出した。

昨晩、英語の塾から帰ってきたとき。

いつも自転車を置く場所に、カナブンが一匹いた。

近くに来ても逃げないので、死んでいるものかと思って蹴り飛ばした。

ズザーとカナブンは逆さまになって地面を滑っていった。

その足が僅かに動いていた。

死にかけだったのかもしれない。

羽を広げて身体を起こそうと必死になっていたがすぐに動かなくなってしまった。

何となく嫌だったので、私はそれを見えないところに脚で蹴り飛ばした。

「ごめんなさい!」

再び布団で目が覚めた私にカナブンがいっせいに襲いかかる。

「ごめんなさい!ごめんなさい!」とカナブンまみれになりながら、自室を出ていく。

布団で目が覚める。

外は曇っている。

天井はいつもの茶色だ。

やっと悪夢から抜け出たんだなぁと、私はしばらくその天井をぼんやりと見つめていた。

果たしてあれはカナブンのたたりだったのか、ただの夢だったのかわからないが…

それ以来、私はカナブンには近づかないようになった。

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カナブンの夢 杉本アトランティス @novelatrantis

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