時の放浪者覚書き

水心 白夜

第1部 序章 時の放浪者覚書き

其ノ壱

 俺は俺の本当の誕生日を知らない。


 こう言えば、平和の中に生きている輩は皆、大雨の中を傘無しに歩く者を見た時のような目をする。それでも、俺は幸せ者だ。


 宇宙暦 6023年4月8日、両親を知らない赤子の俺はナイトメア・サタンに拾われべルガという名前を貰った。この日こそが俺にとっての誕生日。


 ナイトメアは細かいことを気にする性質だから、俺がそう言う度に

「誕生日じゃない。名付けの日だ」

と、訂正した。


 そんなナイトメアとの付き合いも、来月でもう七年になる。ナイトメアは仕事をしながら、血の繋がりの無い俺を実の子のように育ててくれた。


 ナイトメアはどうやら俗に言う天才というやつで、知らないことは何一つ無いようだった。そんなナイトメアに教育された俺は、しばしば貴族の出身だろうと勘違いされる程度の教養を身につけていた。


 俺はナイトメアを尊敬しているし、育ててくれた事に感謝している。だからこそ、いつかは恩返しがしたかった。


 それでも、ナイトメアはいつもそれを不要だと言い

「見返りを求めて育てたわけじゃないから勘違いするな」

と、疑ったことすら無いのにわざわざ釘を刺して、パソコンの画面を見つめた。


 ナイトメアは大抵無表情だった。これを格好良く表現すると、ポーカーフェイスと言うらしい。ポーカーフェイスはナイトメアにぴったりの言葉だった。無表情なのにナイトメアはいつも静かに何かについて闘志を燃やしているようだったから。


 もちろん、俺にはそれが何かを理解することはできなかったし、ナイトメアもけしてそれを語ろうとはしなかった。

 そんなナイトメアの態度は、俺が時を司る神だとわかってから少し変わった。ナイトメアが俺のことを見て時折ため息をつくようになったのだ。


 最初は俺が何か悪い事でもしたのかと考えたが、その場合ナイトメアの性質上口にするはずだったから、俺は遂に自信を持って聞くに至った

「俺に何か出来る事は?」

と。


 すると、ナイトメアは呆れたようにため息をついて

「お前は余計な事に首を突っ込もうとしてる。それでも、実に頼り甲斐がある能力を持ってる。だから、飽きるまででいいから…俺の我儘に付き合ってくれないか?」

と、遂に観念した様子だった。


 俺の答えは

「もちろん…!喜んで」

に決まっていた。



 ナイトメアは長年連れ添った友神ゆうじんの居所を探していたのだ。

 ナイトメアは全知とされる〝天帝の書〟を所持していたが、その友神は特殊な性質の持ち主らしく、天帝の書にすらその行動が載らないらしい。そのせいで簡単には見つからず、ナイトメアは酷く困っていた。


 だから。宇宙暦6030年3月13日昼前、友神が居そうな場所を過去の行動から割り出すべく、俺はナイトメアと共に歴史を遡る旅に出た。


 ナイトメア・サタンの友神、そよぎを求めて。 




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