第5節
彼との再会はまた、妙なことからだったわ。
時期は…ちょうど11歳になった私を女王にしようと考える人たちと薇弥様にまだ女王でいてほしいと思う人たちとに分かれて言い争いが絶えなかった頃よ。
その頃の私の日課は、応接間に飾ってある絵画を見てお茶をすることだったわ。
その絵には、このアルツェフィアを創造した偉大な神…
ええ、ちょうどそこに飾ってある絵よ。
その絵はずっと、お母様のお部屋に飾ってあったものなの。でも、薇弥様が自分のお気に入りの絵を飾るために応接間へ移したのよ。
天でお母様は嘆かれたかもしれないけど…お母様の部屋に近づくことすら許されなかった当時の私からすれば有難いことだったわ。その絵が私の近くにあるお母様の唯一の遺品だったから。
薇弥様は玉座に就いてからの七年間、お部屋に籠られることが増えた。みんなはそんな薇弥様をご病気だとか、悪霊に取り憑かれたとか…好き勝手噂したわ。中でも酷い噂が、薇弥様に恋人ができて部屋へ連れ込んで遊んでるっていうものだった。
薇弥様のご主人は早くに亡くなられているわ。だから、世界的には何の問題もないわけだけど、この霖狼国では違ったの。特にあの時代は再婚が認められてなくて、未亡人は終生神にお仕えするという掟があったわ。もしその掟を破ったら、たとえ王族であろうと霖狼国では生きていけなかったのよ。国外追放ってやつね。
もちろん、その掟では再婚だけじゃなくて恋人をもつことも禁じられてたわ。だから、そんな噂を薇弥様に立てるなんて命知らずよ。
でもね、火の無い所に煙は立たぬとはよく言ったもので…その噂、本当だったの。
私が悪戯でいのりから隠れて草むらに潜んでいた時、真後ろにお母様のお部屋の窓があったの。
まだ太陽が出ている昼間だっていうのに、その中から妙な声が聞こえてきたわ。どこか悲鳴にも似た、嫌がるような声よ。
私、どうして良いかわからなかったわ。だって、その声がどう考えても…あの子の声だったから。
しばらくして、それは確信に変わったわ。後ろの窓が突然開いたの。
開けたのはあの子だった。
あれから七年も経っているのに、彼は成長もせずあの時の姿のまま…服がはだけていたこと以外は、あの日と何も変わらなかった。
私が呆気にとられていると、奥から声がしたの。
「私の可愛い
間違いなく、ダミ声の薇弥様のわざとらしい猫撫で声だった。
彼は七年ぶりの再会を喜んだりせず、ただ黙って窓をゆっくりと閉めてしまったの。
悲しかったわ。でも、今思えばそれが彼の優しさだったのね。
「何かいたの?」
と聞く薇弥様に、彼は始終無言だった。
それでも薇弥様はご機嫌のようだったわ。
その日から一週間後、薇弥様は王位を剥奪され、国外へ追放されてしまったの。罪状はもちろん、未亡人にもかかわらず恋人をつくった事。
でもね、捕らえられた薇弥様の恋人は、あの子じゃなかったわ。
女王の座を私に譲りたくないと駄々をこねる薇弥様を憎み、女王になりたかった私も、あの子を晒し者にしたくはなかったから、あの日の出来事は黙ってたっていうのに…。あまりにも上手く事が運びすぎて、ずいぶん驚いたわ。それに、嬉しかった。
あの子が捕まらず無事でいてくれて。私はただ、それだけで満たされていたわ。
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