第四節・第二話



 拝啓、前葉君へ



 初めに、別れの言葉も言えない臆病な私をお許しください。

 手紙一通しか残せない、薄情な私をお許しください。

 もしかしたら、私の蒸発を、自罰的な前葉君は自分のせいだと思うかもしれません。

 でも、あなたが責任を感じる必要はありません。

 あなたはなにも悪くないのです。

 一切のとがは、薄弱な私にあるのです。

 だから、もう自分を痛めつけないでください。

 私を恨み、軽蔑しても、どうかそれだけは信じてください――――。


 今、これを書いているのは、時計によると深夜の三時七分です。

 あなたは疲れたのか、ぐっすり眠っています。

 この三日間、私のわがままに付き合わせてしまってごめんなさい。

 突然、見知らぬ土地の廃校で暮らすことになって、困惑したと思います。

 水道も電気もなにも通っていない場所を、生活できるよう整えるのは大変でしたね。

 掃除に洗濯、二人で作った即席物干し竿や、苦労して運んだソファとテーブル……。

私たちの居場所を作る、その行為一つ一つに胸が躍りました。

楽しかったのです、本当に。

その一方で前葉君に、酷なことを語らせてしまいました。

 辛い思いをさせてしまったと思います。

 手酷い裏切りのように、あなたは感じたかもしれません。

 ごめんなさい……。

 でも、前葉君が自分のことを教えてくれたから、私は安心できました。

 あなただったから、私は廃校の日々を笑って過ごせたのです。

 最後まで、あなたに直接伝えることは叶わなかったですが……。


 今、この手紙に私のすべてを記します。



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