失敗例をあげよ

明日

一井 柚

ぼくのパパはサラリーマンだ。


おしごとがおわって、かえってくると、パパはたまにいたそうなかおをしてる。


いたいの? ってきいたら、いたくないよ、でもね、パパはしっぱいしちゃったんだ、ってぼくのあたまをなでる。


それでパパは、ごはんもたべずにパパのへやにはいってしまう。


しんぱいになって、へやにはいって、なにやってるの、ってきいたことがある。


そうしたらパパは、パソコンをじっとみて、しっぱいしたから、しまつしょをかかないといけないんだよっていった。


ごめんね、きょうはあそべないよ、ってパパがいったから、ぼくはへやからでた。


しっぱいしたら、しまつしょをかかないといけない、ってパパはいった。


だからぼくも、しまつしょをかく。


ぼくはまだ、しまつしょのかきかたをならってないから、かきかたがわからない。


けど、がんばってかく。


だってぼくは、しっぱいしたから。



しまつしょ 1ねん2くみ いちい ゆず



げつようびのゆうがたです。


ぼくがひとりでテレビをみていたら、おうちのドアが、あくおとがしました。


ちょうど、うめぼしレッドがてきにパンチをしたときでした。


そのままろうかをあるくおとがして、ガチャッとぼくのいたへやの、ドアがあきました。


おとうさんがかえってきたのかな、とおもってみたら、おとうさんではありませんでした。


まっかなふくをきた、おんなのひとでした。


だれだろう、とぼくはおもいました。


おんなのひとは、へやをキョロキョロみてから、あるきまわって、いろんなひきだしや、とだなをあけて、なかをみたり、ごそごそしたりしていました。


ぼくは、すこしこわくなっていました。おとうさんは、いえにだれかくるときは、いつもおしえてくれるからです。


でも、おとうさんは、だれかくるなんていっていませんでした。


しばらくごそごそしてたおんなのひとは、つぎにぼくをみました。


ぼくのしらないおんなのひとは、にっこりわらって、いいました。


「こんにちは。」


あいさつはだいじなので、ぼくもいいました。


「こんにちは。」


おんなのひとはいいました。


「ひさしぶりね、わたしはあなたのおかあさんよ。」


おかあさんって、なんですか。


よく、せんせいやおとうさんがいっていました。


ごめんね、きみにはおかあさんがいないんだっていっていました。


なのにどうして、ぼくのめのまえにはおかあさんがいるんだろう、とぼくはおもいました。


なので、ぼくはいいました。


「ぼくには、おかあさんはいません。」


おんなのひとは、だまって、ぼくをみていました。


おんなのひとのかおが、ぐしゃっとなりました。


ちいさなこえで、ぶつぶつと、おんなのひとはなにかいいました。


きこえないなぁ、と思っていたら、


「うわああああああああああああ。」


って、おんなのひとが、いいました。


おんなのひとは、おこっているみたいでした。でも、ないているみたいにもみえました。


ああああああああああ、とおんなのひとは大きな声でいいました。


ふくとおなじまっかなかばんを、おんなのひとはなげました。


ぼくがのんでいた、ジュースのコップにあたって、ゆかにジュースがこぼれました。


あああああああああ、とおんなのひとはいいました。


あたまにてをあてて、いやいや、とくびをふっていました。


おんなのひとが、ぼくをみました。


めのまわりがまっくろでした。


おんなのひとがぼくのあたまに、てをのばしました。


ながくてまっかなつめが、ぼくのめのまえにありました。


ぼくはこわくなって、うめぼしパンチ、といいながら、おんなのひとにパンチをしました。


おんなのひとのあしもとには、こぼれたジュースがありました。


おんなのひとはすべって、ころびました。


ぼくは、おんなのひとがたおれるのをみたあと、はしってにげました。


ぼくはいま、おしいれのなかのひみつきちにいます。


おんなのひとのこえが、すこしだけきこえます。


ううぅ、ううぅ、っていっています。


となりのせきのはなちゃんが、たけるくんをたたいて、たけるくんがないたときのこえに、にてます。


たぶん、おんなのひとも、ないてるんだとおもいます。


でも、ぼくは、たけるくんにするみたいに、よしよしってしてあげたくないです。


へんなひととはしゃべっちゃいけないって、せんせいもいっていたからです。


ぼくはしっぱいしてしまいました。


しらない、へんなひととしゃべったし、がっこうで、けいさつのひとがおしえてくれた、「いかのおすし」もまもれませんでした。


おとうさんがかえってきたら、ごめんなさいっていって、いっしょにおそうじしようとおもいます。


あのおんなのひとが、ゆかをまっかにしちゃったからです。




おしまい。

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