第15話
編集部で握手を求めてきたのは話題のアニメで主役の声を担当している新人声優だった。
「あの新連載、面白かったです。一話読んだだけでファンになっちゃいました」
将来有望な人が自分のファンなんて、夢のようだ。
「もしアニメ化するときは、ぜひ僕に主役の声をやらせてくださいね」
連絡先も聞いて、食事の約束もした。もしかしてこの男が新しい彼氏ということなのだろうか。だったら嬉しいのに。あの柔らかいイケメンボイスを耳元で囁かれたらどうしよう。言って欲しいセリフを次のネームにちりばめようか。
もちろん新人声優がただ単に仕事につながりそうな相手に愛想を振りまいているだけだということはなんとなくわかっている。それならこっちだって利用するだけだ。
そんなことを考えながら、家に帰ろうとしていたらお兄ちゃんに呼び止められた。腕を掴まれ誰もいない路地裏に連れ込まれる。
「もしかして僕を捨てるつもりなのか」
強引に壁に押し付けられ、制服の下に手を入れようとしてくる。私は必死に逃れようとするが、腕を掴まれて動けない。
「やめて! やめないと、大声出すわよ」
動きを止めたお兄ちゃんが、ポケットの中から小さな瓶を取り出した。
「これ、なんだかわかるかい」
液体のようなものに浸かっているのは人間の指だった。瓶の中で揺れている不気味な肉片を見て吐きそうになった。
「お兄ちゃんが……先生を殺したの」
「君のためにやったのに。おかげでデビューできただろ。もし裏切るつもりなら、君も同じようにしてあげるから。漫画家は指、大事だよね」
お兄ちゃんはそう言ってニヤリと笑った。
「嫌、やめて」
お兄ちゃんが無理やりキスをして舌をねじこもうとしてきたので、思いっきり噛んでやった。
彼がひるんでいる隙に、私はお兄ちゃんの股間を蹴り飛ばして逃げ出した。
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