第14話
週明けに学校に行くと、私がデビューしたことはすでに噂になっていた。ペンネームではなく本名だったからだ。珍しい苗字とキラキラネームの組み合わせだったので、すぐに特定されたようだ。
昔はこの変な名前のせいでいじめられていた。小学三年生の頃に、自分のことを僕という少し変わった同級生がお札で手を拭くと揶揄され、みんなからいじめられるようになるまで、一番の標的は私だった。でもあの子がトイレでお札をぶちまけるという些細なミスをしてくれたおかげで、私はみんなと一緒に彼女をいじめることで底辺から逃れることができた。
あの子が一度引きこもりになって留年した時はさすがにやりすぎたかなと思ったが、自分がいじめられないようにするためには仕方なかったのだ。新しい獲物を見つけない限りバカなやつらはいじめることをやめられない。だから私はさらなる生贄を意図的に作り出して、あの子が学校に戻ってくるまでなんとかやり過ごした。無事にあの子が学校に復帰して、また新たなターゲットはあの子に戻ったのだ。
あの子に恨みはない。むしろ感謝している。ただ自分に都合がいい存在だったから利用しただけだ。でもバレンタインデーにお兄ちゃんに告白してきた弓道部の姫がビルの上から飛び降りて自殺したときに、あの子もまき込まれて死んだらしい。
そのせいでいじめのターゲットが、また私のところに戻ってきた。わざと変な抑揚をつけた名前の呼び方をされたり、バカにするような替え歌を作られたりした。やがて言葉だけではなく、持ち物や体への攻撃も始まった。小学校時代に戻ったみたいだ。
なんとか自分以外の新しい獲物を見つけようとしたが、かつていじめられていたメンツはみんな引きこもりになって学校にはいなかった。さすがに高校生ともなると、でまかせで誘導するのも難しい。うっかりミスを犯すクラスメイトもいなかった。しばらくの間は地獄のような日々が続いていた。
そんな時デビューが決まった。途端に私をいじめていた奴らは手のひらを返した。面白いくらいに。人気漫画家のサインをもらってくれだの、編集部に行くときに一緒に連れて行ってくれだの。どの口がそれを言うのだろうか。今まで自分がしてきたことをすっぱり記憶から消し去ったとしか思えない。無理な要求ばかり平気で突きつけてくる。
ありえない。マイナスを与えてきたやつらに、なんでプラスを与えないといけないのか。勘定が合わない。もちろん私は笑顔で断る。編集部から禁止されていると言いさえすればあいつらは黙る。誰があいつらの要求なんて聞いてやるものか。ざまーみろ。
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