なりすまし文体

あたしは92才のおばあちゃん

 あたしは熊本生まれの熊本育ち。

 それが一年前の震災で家が半壊になったごつ、横浜の次女の家に来たとですよ。

 迎えてくれた孫娘がまあ、肥えていること。両腕を広げて、なんね?

「いらっしゃい。大変だったでしょう?」

 当然たい! どんな思いで日々を過ごしたと思うと?

 あたしは唯一家から持ち出した星野茶と亀田のせんべいを、ようやく口にできて、ほんまごつほっとしたとです。

 長男の車に乗せてきてもらってからに、下手すればエコノミー症候群になるところですたい。

 ああ、よかった。

 しかし、孫娘が生意気なのですたい。あたしが散歩へ行きたいというと、「あたしはいかない」と言い張るとですよ。

 しょんなかたい。次女と一緒に近くの公園に行って、ケガして帰ってきたとです。

 それをなんね、見向きもせんとですたい。あたしは靴下とそでをめくって、傷をさらしたとですよ。これみよがしに。

 それでもなんにも反応せんとよ。顎に指を当てて、黙っているとです。

 だから、台所の出入り口にさしかかったところへ、脱いだ靴下を放ってやったとです。孫娘は、あたしのひどい傷に目をやって、

「大丈夫なの? 公園も危険だね。もうグラウンドに昇らない方が良いよ。ほんの数段の階段でこんな傷……写真撮っておいて自治会に手すりをつけてくれるように頼もう」

 ようやくですとよ。

 けど義息子が帰ってきて

「人のせいにしない。自治会には黙ってろ」

 いうごたる。

 くやしかけん、その後もなにかと脛の傷をちらちらさせていたら、一か月してから孫娘が

「おばあちゃん、傷、なにか言われた?」と写真を撮りながら言うとです。

 病院のことですたいね。

「骨に異常はないと言われた」

 そして、写真を撮らせるままにしておいたとです。なんでも証拠もないのに、訴えられないというとです。訴えるところまではいかんでいいとですよ。優しい気持ちや同情の気持ちはなかとね?

 ああ、この孫娘は体形のわりにちっちゃい、ちっちゃい、ちっちゃか! 言ってやったとです。

 足の痛みなんてなんでんなか。気持ちの問題とです。

 今日もあたしは出かけるたびに次女にこうてもろうた、お花に水をあげるとです。

 本当にあたしの周りは醜い。花だけが心を慰めてくれるとですよ。

 さて、実家の家もボロボロだけん、当分ここにいて、ゆくゆくは骨を埋めるのが今の望み。そのために孫娘にはこの家を出て行ってもらうのが先決とです。

 あたしは家事手伝いから、女主人になるとですよ。年の甲ですたいね。

 今朝も寝ぼけた顔の孫娘に、

「体重は減ったとね?」

 言うてやったとです。居心地悪くして出ていけばいいのたい。そう思って。ところが、孫娘が言うには、

「おばあちゃん45キロだよね? 男の人って40キロ以上の女性はデブだって思ってるらしいよ」

 きゅっと口をすぼめたとです。そんな……美人で通っていたあたしが、デブ? ヤブヘビですたい。けれど、孫娘にいやがらせするチャンスはいくらでもあるとですよ。死ぬまでここの家にお世話になることになったのですたい。孫娘がなんね? 台所からテーブルまで皿を運ぶだけの手伝いの分際で。言ってやったらすっきりしたとです。孫娘は肩をすくめて、なんにも言えんようなったごたる。ハッ、勝ったとですたい!



 *熊本弁を耳コピーしましたが、違っていたら教えてください;

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