2017年7月9日「それでもそれなりに見える」

 あなたのお気に入りの服。

 こぼしたコーヒー。あん。


 隠さなきゃ。シミになる前にどうにかしなきゃ。なのにブラシがない。

 仕方ない、あなたの歯ブラシしかない。使っちゃおうか、迷う……。


 きっとあなたはこない。ここのところずっと忙しいって言っていたもの。

 だからいくらあなたのお気に入りで飾り立てても、待っているのは私じゃなくて、きっと別の人なのよね、誰でもないあなたは!


 作り笑いも慣れたころ、あなたの背中が遠くなって、ふとしたやさしさに涙が出て「ありがとう」が言えなくなっていた。

 あなた、離れないで。ずっと。


 心のレコード。あの瞬間をくりかえして、くるくると踊り続けましょう、あなた……。

 ――さびしい。


 そんな心の内を話して聞かせる誰かも知らなくて一人きり。

 大丈夫、そんな人、この世にたくさんいるに違いない。私だけじゃない。

 だけど、そっと今は、このまま泣いてもいい……?


 たたんだティッシュで目頭を抑えて、溜息をつく。

 ガチャ!

 ――合鍵を持っているのは……。

 あなたしかいない。玄関に走っていく私。するとそこには……。


 ぬれねずみのあなたがいて……。

 震えながら許しを請うた。

「そんなの、許すに決まってるじゃない」

 また涙が出た。



               END

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