第89話 あの時の約束



「時にミカドよ。借りた馬を返すと言ったが、その後の帰りはどうするのだ?」

「はっ。帰りは少し時間はかかりますが徒歩で帰ろうかと考えてます」

「ペンドラゴからノースラント村までですか!? 徒歩だと5時間はかかりますよ!?」

「今から帰るとしても、ノースラント村に着く頃は真っ暗になっちゃうね」

「あ、やっぱりそれ位かかるよな」


暫く笑いあった後、ゼルベル陛下が第7駐屯地に馬を返した後の事を聞いてきた。

そして俺の返事を聞いたユリアナとローズが呆れた様な声を零す。


まぁ、帰りは徒歩だと覚悟していたが、ペンドラゴからノースラント村まで馬を使ったとしても、2時間以上掛かる道のりだ。

しかも時刻は16:30。 今から帰るとしても仮に馬を使ったとしても19:00時は確実に過ぎる。

徒歩なら言わずもがな。ノースラントに到着する頃には下手したら日付が変わるだろう。

加えてこの後野暮用を済ませるから、帰る時間は更に伸びるのは確実だ。


「ふむ‥‥‥ なら余から提案がある。お主達はこの後第7駐屯地に赴くのだろう?

そうなると陽も落ちる。夜間の移動は危険だから今日はペンドラゴで一泊すれば良かろう」

「良い案ですね! 安全を第一優先に考えればそれが一番です」

「そして明日の朝、再度ここへ来てくれれば余のが送りの馬車を用意しておこう。

まさか救国の英雄を徒歩で帰す訳にはいかぬからな。 今日ペンドラゴに泊まるつもりなら、宿も確保しておいてやろう」

「えっ!? い、良いのですか!?」

「構わん。余がお主等にしてやれるのはこれくらいの物だからな」


自分の見通しが甘かった。 その事に苦笑いを浮かべていると、陛下が有難い提案をしてくれた。

地獄に仏‥‥‥ は言い過ぎかも知れないが、夜間に動かなくても良いのは本当にありがたい。

今回は陛下の提案に有り難く甘えさせてもらおう。ミラには最悪一泊するかもと伝えてあるから大丈夫だろう。


「でしたらお手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします」

「うむ。任せておけ」

「ありがとうございます!」



▼▼▼▼▼▼▼▼



その後話はトントン拍子で進み、俺達はゼルベル陛下が確保してくださる宿の詳細を聞いたり、ギルバートさんが持って来てくれた褒美の品を受け取って別れを告げた。


ゼルベル陛下達はこの後論功行賞式に参加した部隊の代表達との会食があるらしい。


本来ならゼルベル陛下は俺達5人もこの会食に招待するつもりだったらしいのだが、今日はロルフが居る為、他の人達の事を考えて此方からお詫びの言葉と共に丁重に断らせて頂いた。


「おぉ! ミカドの兄ちゃん達、お疲れさん!」

「シュタークさん達もお疲れ様です! と、カリーナさんはもう会食に?」

「あぁ、兄ちゃん達によろしく伝えておいてくれだよと」

「堅っ苦しい会食に参加しなきゃならねぇなんて姐さんも大変だな」

「ははは、まぁそれも仕事の一環だろ?」


そんな事もありつつ、預かってもらっていた馬を受け取り近衛兵に正門まで戻って来ると、ラルキア城を出たすぐ近くにシュタークやクリーガ、アルを始めとした第7駐屯地の面々が揃っていた。

人数から見て、第7駐屯地の隊員全てがここに居るのが分かる。


それとこの強面部隊の隊長、カリーナさんは、ゼルベル陛下が言っていた会食に参加する為、既にこの場には居なかった。


「それより、ミカドの兄ちゃん達は会食に参加しねぇのか?」

「今日はロルフが一緒だからな。流石にロルフも一緒に会食に参加する訳にいかないだろ?」

「っと、なるほどね。んじゃミカドの兄ちゃん達はこの後どうするんだ?」

「この後はシュターク達にこの馬達を返して、約束を守ろうかなって」

「「「「「約束?」」」」」


グリーガやアル、その他第7駐屯地の面々が不思議そうに首を傾げていたが、シュタークは何か思い出した様にハッとした。


「あ! まかさミカドの兄ちゃん達! 」

「はい。前に私達が暗殺者に襲われた時、シュタークさん達にはお世話になりました。 その時、事が落ち着いたらお酒をご馳走するってミカドが言ってましたよね?」

「それに今回の事件では、第7駐屯地の皆さんには大変お世話になりました」

「だから今日あの時の約束を守って、それと一緒に世話になった皆に酒を奢ろう事になったんだ!」

「ん、そういう事‥‥‥」

「み、ミカドの兄ちゃん‥‥‥ あの時の約束の為にわざわざ?」

「く〜! 良い子達じゃねぇか!! まさかあの時の事を覚えててくれるなんてなぁ!」

「おぉ! しかも律儀に守ろうだなんて立派過ぎるぜ!!」

「何の事か良くわかんねぇが、ミカドの兄ちゃん達が俺達にご馳走してくれるって事か!?」

「マジかよ! 最高だぜミカドの兄ちゃん!」

「嬢ちゃん達もありがとな!」


セシル達の優しい笑みと言葉を受け、シュタークや第7駐屯地の皆が感激の表情を浮かべる。

この中にカリーナさんが居ないのが残念でならないが、カリーナさんには後日別の形で礼をしよう。


今はシュターク達の暑苦しくも、温かい笑顔が見れた事を喜ぶとするか。


「なら一旦第7駐屯地に戻って馬や装備を置いてくるとするか!」

「「「「「応!」」」」」

「そんじゃ、ミカドの兄ちゃん達も行こうぜ!」

「あぁ! 行こう!」

「皆喜んでくれて良かったね〜 」

「そうですね。やはり笑顔を向けられると嬉しくなります」

「あ〜 それにしてもお腹減ったぜ!早く何か食べたいな」

「レーヴェは食い意地が張りすぎ‥‥‥でも、私も同じ‥‥‥」

「お嬢ちゃん達腹ペコか? なら俺達のオススメの場所に案内してやるよ!」

「お前ら! ミカドの兄ちゃんの奢りだからって余り馬鹿みたいに食うんじゃねぇぞ〜!」

「わかってますよクリーガ中官! ちゃんと腹八分目で止めておきますって!」

「「「「「あははは!!!」」」」」


子供の様に無邪気に笑う第7駐屯地の面々を見て温かい気持ちに包まれるとともに、俺の脳裏には大見得を切ってしまったが、お金足りるかな‥‥‥と不安がよぎった。


ま、まぁ多分大丈夫だろう。ゼルベル陛下から貰ったアレもある事だし‥‥‥


そんな一抹の不安を感じながらも、黒の制服を纏った俺達と紺色の軍の制服を纏った第7駐屯地の皆は、和気藹々と第7駐屯地に向けて移動を開始した。



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