第90話 その後
「うぇぇ‥‥‥ 死ぬかも 」
「み、ミカド大丈夫?」
「ちょっと‥‥‥無理‥‥‥ 」
「はいミカドさん! お水です」
「タオル濡らして来てやったから顔拭けよ!」
「これ、受付で貰って来た酔い覚ましの薬‥‥‥ 水と一緒に飲んで」
「悪ぃな皆‥‥‥ マジで助かる」
時刻は22:05分。
色々あり満身創痍な俺は、ロルフの背中に担がれセシルやドラル達の介抱を受けながら、ゼルベル陛下が今日宿泊出来る様に手配してくれた【パラスト】と言う宮殿の様な宿の1番大きな部屋に着いていた。
ラルキア城でゼルベル陛下らと別れ、第7駐屯地の面々と合流してからの約6時間はあっという間だった。
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シュターク達と合流した俺達は、まず第7駐屯地へと戻り、借りてた馬を返した。
そして私服に着替え、俺達の奢りで酒が飲めるとテンションMAXな第7駐屯地の面々に連れられ、シュターク達が口を揃えてオススメする近くの酒場に向かったのだ。
俺達も着替えた方が良いのでは? と思ったが、俺達はノースラント村からこの黒い制服を着て来てしまったし、今日中に帰るつもりだったから着替えを持ってきていない。
適当に服を召喚出来れば良かったのだが、そんな暇も無く、俺やセシル達5人と1匹は私服の第7駐屯地の面々に囲まれ、場違いにも思える黒い制服を着たまま、案内された酒場の前に到着した。
「いやいやいや、デカ過ぎだろ‥‥‥」
「さすが王都だねぇ」
「王都ってのは何でもかんでもデケェんだなぁ」
「このお店なら皆で入れそうですねぇ」
「それに装飾も豪華‥‥‥ 凄い」
案内された酒場を前に、俺達は圧倒された。
そこはノースラント村の満腹食堂を何倍にも大きくした様なオープンテラス付きの酒場で、300人も居る第7駐屯地の全員が入れるくらい途轍もなく大きな店だった。
シュターク等第7駐屯地の皆は事あるごとに数十人、数百人規模で此処に飲みに来ている様で、酒場の店員達とも顔馴染みになっていた為300人以上の急な来客にも快く応じてくれた。
店側も今日は論功行賞式があった日なので、打ち上げをする大勢の軍人達が来店するのを見越していたとか。
更に店員や店長さんはパレードで俺達の姿を見ていたらしい。 その為ロルフを見ても特に怖がる様子もなく、「ロルフさんも一緒に楽しんでいってください」と言ってくれた。
この店員達の反応から判断するに、ロルフの好感度はペンドラゴの市民の中でそこそこ上がっているみたいで安心した。
安堵の息を静かについた俺達とロルフは、店のオープンテラスの一角に腰を下ろす。
その後は言わなくても分かるとは思うが、何時ぞやのノースラント村の大宴会の時よりも大変だった。
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「「「「「ミカドの兄ちゃん、嬢ちゃん達! ゴチになりやす!!」」」」」
と、300人の一言で始まった宴会。
第7駐屯地の面々は樽単位で酒を注文して浴びる様に酒を飲み、同じく次々運ばれてくる料理に我先にと食らいついた。
初めの方こそ普通に酒を飲み、普通に食事を楽しむただの宴会だったのだが‥‥‥
「ほれミカドの兄ちゃん! もっと飲みねぇ! さぁ皆! この国の英雄にかんぱぁあい!!」
「「「「「かんぱぁあい!!」」」」」
「か、乾杯‥‥‥」
1時間もせずシュターク達は完全に酔っ払っていた。
そんなシュターク達に俺は寄ってたかって酒を注がれ、それを飲み干す羽目になり、俺もすっかり酔っ払ってしまった。
しかも俺達が座っていたのは外から丸見えのオープン席。 道行く人達の温かい視線が体に突き刺さり、恥ずかしいったらない。
頭は痛いしシュターク達は暴走気味だし手の施しようが無い。
まさにどんちゃん騒ぎ大騒ぎだった。
「いや〜! ミカドの兄ちゃんは若ぇのに立派だよな!」
「おぉ! こういう奴が居るから、俺達も負けてられるかって気持ちになれるんだよな!」
「俺も息子が生まれたらミカドの兄ちゃんみてぇになって欲しいもんだぜ」
「お、ならその息子にミカドって名前を付ければ兄ちゃんみたいな男になるかもな!」
「いやいや、全然そんな事ないって‥‥‥ だからもう酒は注がなくて良いんだぞ?」
「いやいやいや、遠慮すんなって!」
むさ苦しい男衆から賛美を受け、またグラスに酒を注がれる。
流石に助けを求めようと俺は周囲を見渡したが‥‥‥
「へぇこれが今回貰った勲章か! 」
「はい! 栄誉黄金剣章っていう勲章で、なんでも民間人に軍の勲章は与えられないから特別に作った。って、ゼルベル陛下が仰ってました!」
「そいつは光栄だな! 羨ましいぜ」
「ドラルの嬢ちゃんは魔法が使えるのか!」
「低級の攻撃魔法と治癒魔法程度ですけどね。この治癒魔法でミカドさんを助けた事もあるんですよ」
「そうなのか? 詳しく聞かせてくれよ!」
「ほ〜 エルフが気配を感じ取れるって本当だったんだな〜」
「ん、ちなみに今も皆から感じてる‥‥‥」
「マジでか!?」
「痛たた!? レーヴェの嬢ちゃん待て待てストップ! 俺の負けだ! 腕が折れちまう!」
「ははっ! どぉだ! これで僕の5連勝だ!」
「くそ! おい、誰かレーヴェの嬢ちゃんに勝てる奴はいねぇか!?」
俺から少し離れた席では、陛下から賜った勲章‥‥‥ 栄誉黄金剣章を誇らしそうに見せるセシルに、会話を楽しむドラルとマリア、そして男衆に交じり唐突に腕相撲を始めたレーヴェ‥‥‥
「ほれロルフ! これも食うか?」
ヴァウ!
「ははっ! こんな人懐っこい魔獣初めて見たぜ!」
ロルフはロルフで、部隊の皆や店員から肉等を貰い、それを美味しそうに食べていた。
結論。
助けてくれそうなのが誰も居ない。
「お、兄ちゃん! グラスが空いてるぞ! ほらもっと飲め飲め! ま、兄ちゃん達の奢りだから偉そうな事言えねぇけどな! あははは!」
「あ、あはははは‥‥‥」
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と、言うのがつい1時間程前までの出来事。
21:00頃になるとシュターク達は明日からまた貧民街の治安維持任務に戻るとの事なので、宴もたけなわ、解散する運びとなった。
俺は結局、宴会の開始から終了まで酒を飲まされ続けて大変な事になっていた。
これは二日酔いも覚悟しなければ‥‥‥
ちなみに、この宴会の会計の時に俺はゼルベル陛下から貰ったあの白い袋を取り出した。
この袋の中には、失礼を承知でゼルベル陛下に頼み褒美として貰った沢山のお金が入っていたのだ。
俺はゼルベル陛下に何か欲しい物は無いか? と言われた時に、以前シュターク達にベルガスの反乱が落ち着いたら酒を奢ると言った事を思い出し、不躾ながらその為の酒代を褒美として頂けないか? と聞いてみたのだ。
結果は見ての通りで、俺の願いを快く聞き届けてくれた陛下が用意してくれたこの袋の中には何と紅貨が50枚‥‥‥ 日本円に換算すると何と500万円もの大金が入っていた。
俺はゼルベル陛下の太っ腹さに感激ひつつ、紅貨50枚‥‥‥ この世界の言い方で言うなら、500万ミル全てをいきなり大人数で押しかけた迷惑料を含めた代金として店に支払った。
正直、酔っ払った勢いで全額を渡してしまった感がある事は否定しないが、この行為が後日ペンドラゴで武勇伝として広まる事になるが、その話はまたの機会にしておこう。
そんなこんなで、22:00。
酒に呑まれフラフラする俺と、介抱してくれているセシル達は途中、何回かパラストの場所を歩いていた人に聞きつつ、なんとかゼルベル陛下が用意してくれたパラストの一室に着くことができた。
このパラストの従業員も、ロルフが一緒だと言う事をゼルベル陛下から教えられており、少し腰は引け気味だったが俺達を部屋に案内してくれた。
俺達が案内された部屋も外観に劣らずこれまた豪華で、室内を周囲を見渡せば、リビングの他にミニキッチンや談話室の様なスペース、そしてベッドルームまで有る。
この部屋はロイヤルスイートルームと言うヤツなのだろう。
「ぷは‥‥‥ あ〜 水ってこんなに美味かったんだなぁ」
広々とし過ぎてやや落ち着かないが、俺は部屋にあるソファに腰掛けて水と酔い覚ましの薬と一緒に胃へ流し込む。
この時飲んだ水は凄く冷たく、大袈裟かもしれないが俺がこれまで飲んだ飲み物の中で人生ベスト3に入るくらい美味しく感じた。
「本当に大丈夫ミカド?」
「すみません、話に夢中でミカドさんが大変な事になってたのに気付けずに‥‥‥ 」
「あ〜、いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」
「でもミカドって案外酒弱いんだな」
「ん、もっと強いのかと思ってた‥‥‥ 」
「うるへぇ。酒なんて滅多に飲まねぇから酒に強いかどうかなんて知らねぇよ」
部屋のソファに体を預けながら、レーヴェが用意してくれた濡れタオルを顔にかける。 ヒンヤリしたタオルが火照った顔を冷まし、酔いを和らげる。 俺はタオルを顔に乗せたままソファの背凭れに寄りかかった。
「そうだったんですね。なんかミカドさんって、水よりお酒を好みそうな見た目でしたから、てっきりお酒は飲み慣れてるものかと」
「いや、どんな見た目だよそれ‥‥‥ んな事より、明日も朝早いんだ。今日はもう休もうぜ」
「そうだね。ロルフも眠そうだし、今日はもう寝よっか」
「あ〜‥‥‥ ベットはセシル達が使って良いぞ。俺動くのダルいからこのままソファで寝るわ 」
「え、でも」
今日はもう寝るという流れになった時、俺はある事に気が付いた。
この部屋のベッドルームにあったのは超キングサイズと言うべき程の巨大なベッドが1つしか無かったのだ。
いや、このサイズのベッドならロルフを除く5人が横になっても充分な広さは有るが、俺は健全な男の子だ。
セシル達なら気にしなくても良いのにとか言いそうだが、贔屓目に見ても美少女なセシル達と一緒に寝るなんて無理! 恥ずかしい。
俺が色んな意味で眠れなくなってしまう。
なので俺はボヤけた頭で適当な言い訳を考えて、ソファで寝る事にした。
「良いから良いから。ほら、セシル達も疲れたろ? おやすみ」
「う、うん。おやすみミカド」
「では、遠慮なく‥‥‥ おやすみなさいミカドさん」
「おやすみ‥‥‥ 」
「おやすみミカド。ほら、毛布があったからこれ使えよ」
「サンキュー、レーヴェ‥‥‥ んじゃおやすみ」
俺はレーヴェがベッドルームから持って来てくれた毛布を受け取りつつ、セシル達を見送った。
ふぅ、 今日は色々な事があったな‥‥‥
元居た世界じゃ一生体験出来ない様な経験も出来たし、感じた事ない充実感みたいなのを感じる事が出来た1日だった。
兎に角、今日は色々な事があったし、酔っ払ったから凄く眠い‥‥‥ もう寝よう‥‥‥
クゥン
「ん? なんだロルフ‥‥‥お前俺と一緒に居てくれるのか? ありがとな」
ソファに横になっていると、ロルフが俺の足元にその巨体を擦り付けて来た。
俺はロルフの白くサラサラした頭を撫でながら意識を手放した。
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「ふぁ〜。よく寝た 」
翌日、小鳥達の鳴き声を聞き目を覚ました俺は、昨日とは違う風景に目をパチクリさせた。
此処は‥‥‥ そうだ、パラストの一室か。
昨日は酒に酔った所為で所々記憶が抜け落ちてる。それに予想通り二日酔いだ。
頭が少し痛いし喉が渇いた。
まずは水を飲もう。
むにゅん。
「むにゅん?」
眼をこすりながらベットから降りる為、何気なく手を伸ばしたら柔らかい物が手に触れた。 嫌な予感を心の何処かで感じつつ、ゆっくり顔を横に向ける。
「んんっ 」
「すぅ‥‥‥ 」
「ん〜」
「んにゃ‥‥‥」
俺を中心にして右側にはセシルとドラル、左側にはマリア、レーヴェの順番で心地好さそうな寝息を立てていました。
本当にありがとうございます。
そして俺の伸ばした右手は、気持ち良さそうに寝ているセシルの大きな胸をしっかり捉えていた。
「そぉい!?」
「ん‥‥‥ ? あ、ミカドおはよぉ〜」
奇声を上げ、セシルの胸から手を退かす。と、ポケ〜ッと眠たそうに目を半開きにしセシルが目を覚ました。
まだ完全に眼を覚ましていないのか、その口調と表情は凄く眠たそうに見えた。
「お、おはようセシル‥‥‥ えっと、ちょっとセシルさんに聞きたい事があるんですけど‥‥‥ って! なんて格好してんだ!?」
「ふぇ ?」
寝ぼけ眼のセシルへ苦笑いを向けると、強烈なボディーブローみたいな衝撃が走った。
不思議そうに首を傾げるセシルは、白いワイシャツ1枚を着ただけの艶かしい格好だったからだ。 しかも胸元のボタンが取れかかっており、目のやり場に困るどころの話ではない状態になっていた。
この白いワイシャツは制服の下に着ていた物か‥‥‥ って問題はそこじゃない!
「ふぁぁ〜 えっとね〜 ミカドが寝ちゃった後、やっぱりソファは可哀想だって事になって、レーヴェちゃん達と一緒にこっちに運んだんだよ〜 」
「わかった! なんで俺がベットで寝てるのかはわかったから取り敢えず胸を隠せ! 胸を!」
「ん〜? 胸がどうかしたの?」
うん。こりゃセシルは完全に寝惚けている。
「あぁ〜! もう! 俺はリビングの方に居るから、目が完全に冷めまるまでそこに居なさい!」
これ以上この空間に居ると、羞恥心でおかしくなる! 俺は勢い良くベットから飛び降りてベッドルームからの戦略的撤退を選択した。
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「おはようございますミカドさん」
「おはよ〜!」
「おはよう‥‥‥」
ベッドルームでの騒動から約30分後、制服に身を包んだドラル達がベッドルームから出てきた。うん。皆顔色が良いな。しっかり休めたみたいだ。
「あぁ、皆起きたか。おはよう」
「あぅぅう‥‥‥ 」
ドラル達がベッドルームから出てきてから数分後、顔を茹で蛸の様に真っ赤にしたセシルがオズオズと出てきた。
セシルの様子を見るに、どうやら目は完全に冷めたみたいだ。
で、さっき俺に無防備な姿を晒して今更ながら照れているといった具合か。
「あのミカドさん、セシルさんが朝起きた時からずっとあんな様子なのですが、何か知ってますか?」
「あ〜 何か恥ずかしい事があったんだろ?そっとしておいてやろうぜ。 明日になったら立ち直ってるだろうし‥‥‥」
「は、はぁ 」
セシルの尊厳の為に言葉を濁しつつ、触らぬ神に祟りなしを決め込んだ俺は目線をセシルから反らした。ドラルは釈然としてない様だが、無視するぞ。
「さぁ皆! 朝飯を食べよう! そんでノースラント村に帰るぞ!」
「今日のミカド、変‥‥‥」
「あぁ変だな」
「変ですね。まだ酔いが抜けてないんですか?」
「そんな事ない! 何時も通り何時も通りだ! 確か一階に食堂があったな! 早く行こうぜ!」
「っと!? ちょっと落ち着けよミカド!」
「あわわっ!?」
「そんなに急がなくてもご飯は逃げない‥‥‥ 」
「いや逃げるぞ! 美味い料理は早く行かないと他の人の腹に逃げちまうからなセシルも早く行こうぜ!」
「え? あ、う、うん!待ってよミカド〜!」
セシルを見て不可抗力とは言え触れてしまったセシルの胸の柔らかさを思い出し、耳まで赤く染めた俺。
その感情をマリア達に悟らせない様、二日酔い気味の体に鞭打って、ドラル達の背を押して俺はパラストの食堂へ向かった。
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