第81話 帰還 その道中 クヴァレル遭遇戦



「おや泣きそうなのか帝よ? なんならそこの娘等の胸を借りればどうじゃ? 今ならより取り見取りじゃぞ?」

「は‥‥‥?」


優しい雰囲気に包まれていた空間は、助平親父みたいな咲耶姫の言葉でガラガラと音を立てて崩れ去った。


「ミカド‥‥‥ 」

「ミカドさん‥‥‥ 」

「お前‥‥‥ 」

「胸‥‥‥」


痛い!


セシル達の哀れむ様な視線が痛い!

あとマリア、何故皆の胸元と自分の胸元を交互に見てションボリしてるんだ!?


「誰が泣くかバカ! 確かにちょっとウルッとはしたけど!」


「ミカド‥‥‥ ミカドなら私、良いよ‥‥‥ ?」

「セシルさん何言ってんの!?」

「わ、私もミカドさんになら!」

「し、仕方ねぇな‥‥‥ ほ、ほら! 泣きたいなら僕の胸を貸してやるよ」

「私だって‥‥‥ ミカドの為に‥‥‥ !」

「待て! ちょっと待て! 何で俺が誰かの胸で泣く事前提で話進めてんの!?」


セシルはオズオズと両手を広げ、耳まで真っ赤に染め上げた上目遣いで俺を見つめた。


ドラルの方もセシル同様真っ赤にしながら、柔らかい笑みを浮かべて上目遣いで見上げてくる。


レーヴェは口調こそ男前だが、頭から生えている獣耳を激しく動かし、チラチラとこちらの様子を伺っている。


マリアはマリアで自身の胸元を摩りながら、何やら決意を秘めた様な目で可愛らしい顔を俺に向けてきた‥‥‥


うん。皆其々違った反応で可愛い。

まるで天使だ。ここに4人の天使が居る。


ってそうじゃない!


一瞬この4人の提案に流されそうになったが、皆の見てる前でそんな小っ恥ずかしい事が出来るか!


「にゅふふ‥‥‥ それにしても帝よ。中々大変な目に遭っておった様じゃの」

「あ!? お陰様で今も大変な目に遭ってるよ!」


俺達の事を馗護袋を通して見ているのだろう咲耶姫が、コロコロと鈴を鳴らした様な笑い声を出す。


俺はセシル達を宥めつつも、他人事の様に言葉を放つ咲耶姫に罵声を飛ばした。

今のこの状況は先程までのペンドラゴ襲撃とは別の意味で精神的によろしくない!


「じゃが帝よ。また別の意味で大変な目に会いそうじゃぞ?」

「は? なに言って‥‥‥」


シュン!


咲耶姫がそう言った瞬間、俺達の後ろの池がブクブクと泡立ち、何かが俺達へ襲い掛かった。


「え‥‥‥ きゃぁぁあ!?」

「な、何ですかこれぇ!!」

「ちょ!? 離せっ!クソ!」

「っ‥‥‥ !これ、絡みついて‥‥‥」

「皆!?」


俺達‥‥‥ 正確には俺以外の皆を襲った何かは、セシル達を捉えた。


その何かとは‥‥‥


「これは‥‥‥ 触手!?」


テラテラと光沢を放つ、数十本の半透明な触手だった。

今その触手は、セシル達の足や腕‥‥‥ 胸元等体を雁字搦めに縛り付け、セシル達を宙へ持ち上げている。


「おぉ〜 この世界には触手を持つ生物も居るのか」

「呑気な事言ってる場合か!」

「み、ミカドぉ〜!」

「待ってろセシル! 今助けてやる!」


半透明な触手はセシル達をキツく縛り付けているのか、セシルが苦しそうな声を漏らした。


早く助けなければ!


俺はどうやってセシル達を助けるべきか頭を回転させた。


まずはセシル達を拘束している触手を切り落とすか?


いや待て、 攻撃しようにも触手はセシル達の体に食い込んでいるから下手に攻撃が出来ない。

それにセシル達を捕らえる触手は池の中心部から伸びている。


セシル達に触れていない部分を切ろうにも、その為にはこの池に入らなければならない。

だが触手が池の中から伸びている所を見ても、この触手の本体は池の中に居るのは間違いない。


とすれば水中はこの触手のテリトリー‥‥‥ 迂闊に飛び込めない。


ならば!


ギュゥゥゥウ!!


「はうっ!? ちょっと! 触手が服の中にぃ!」

「ひっ!! ぬ、ヌメヌメしますぅ!!」

「ひゃん!? バカ! 耳に触れるな‥‥‥ にゃぁ!?」

「くぅ‥‥‥ 足っ‥‥‥ あっ」


マズイマズイマズイ!!

セシル達が小さい子供達には見せられない様な姿に!!



ちなみに詳しく説明するなら‥‥‥



この変態触手はセシルの服の中に触手を忍び込ませ、大きな胸を更に強調させると同時に、ドラルのお尻や黒い尻尾に触手を絡ませている。

レーヴェの獣耳は触手に弄ばれ可愛らしい声を出し、マリアの白い脚は蠢く触手の粘液でいやらしく光っていた。


ほう‥‥‥ これは‥‥‥


「帝。鼻の下を伸ばしとらんで早う助けてやらぬか」

「はっ!? べ、別に鼻の下何から伸ばしてねぇから!!」


思わず魅入ってしまった。


いかんいかん!


でも接近戦は出来ない。ここはやっぱりコイツに頼るしかないな!


「この変態触手め! 喰らいやがれ!」


俺はこの状況を打開するにはコイツしかないと、ベレッタを抜き放ち数多の触手が姿を見せている中心部へ数発の9㎜パラベラム弾をお見舞いした。


バンバンバンバン!!


キュゥゥウウ!!


「うぉ!?」

「ほぉ、コイツがこの触手の正体か。なんかクラゲみたいじゃな」


9㎜パラベラム弾が吸い込まれ水飛沫を上げた池の中から甲高い鳴き声が響く。

すると咲耶姫が言った様に巨大なクラゲが姿を見せた。


「【クヴァレル】コイツが触手の名前か‥‥‥ レベルは‥‥‥ 」


俺はこのクラゲの様な姿をした魔獣の上を見て、この魔獣の名前を確かめた。

このクラゲ魔獣はクヴァレルと言う名前らしい。ちなみに、レベルは25だった。


待て‥‥‥ レベル25だと!?


このクラゲ魔獣はルディやフェルスベアより強いって事か!?

やってる攻撃は変態その物なのに!?


「ちっ! コイツ‥‥‥ 見掛けによらず俺が会った中で最高レベルの魔獣かよ! でも今の俺にはコイツが有る!」



予期せぬ強敵と遭遇した俺はベレッタの威力を信じ、姿を見せたクラゲ魔獣クヴァレルに再度9㎜パラベラム弾を撃ち込んだ。


キュンキュンキュン!


「何!?」


だが俺の放った9㎜パラベラム弾は、クラゲ特有の丸みを帯びた体に反らされ、致命傷を与える事が出来なかった。


「どうした帝。お主の攻撃は効いておらん様じゃぞ?」

「見りゃわかるよ! クソ、威力が足りないのか!?」


9㎜パラベラム弾は俺が居た世界ではどちらかと言うと貫通力や威力等、総合的に見ると弱い部類に属する弾丸だ。


それがクヴァレルの丸みを帯びた体には反らされ、傷を与えるには至らなかった。

このクヴァレルの体は柔らかそうな見た目によらず、中々の強度を持っている様だ。

更に体や触手を覆う粘液が、9㎜パラベラム弾の衝撃を吸収してしまったのかも知れない。


「何か手はないのかえ? 今の所セシル等に危害はない様じゃが、人様に見せられぬ姿になっておるぞ」

「言われなくてもわかってるっての! ちょっと待ってろ!」

「ミカドぉ!! は、早く助けてぇ!」


セシルの悲痛な声を聞き、俺は頭をフル回転させてある物を召喚する項目で思い描いた。


「よし! これでどうだ!!」


俺は頭をフル回転させ召喚させたそれを手に取り、クヴァレルへ向けた。


ババババババババ!!!


召喚した物から眩い光が発せられ、凄まじい爆音が池の周辺に木霊した。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼



俺はクラゲ魔獣改め、クヴァレルに新しく召喚した銃火器【FN P90】を使い鉛玉の雨をお見舞いした。


このFN P90を召喚した理由。


それは、この銃で使用する【5.7×28㎜SS190フルメタルジャケット弾】は徹甲弾と言う硬い弾頭を持ちながら、弾の重量は軽く貫通力に優れていると言われており、9㎜パラベラム弾を反らしたクヴァレルの体に対し、効果が有るかもと思ったからだ。


このFN P90の詳しい概要は下記の通りである。


FN P90は1980年代、銃弾や爆弾の爆発の際に出る破片から身を守る防護服ボディーアーマーを着た兵士に対し、その防護服ボディーアーマーを貫通し敵を倒せる様にと、専用の弾丸【5.7×28㎜SS190フルメタルジャケット弾】と一緒に開発された【PDW : 個人防衛火器】と言うカテゴリーに属する機関銃の1種だ。


P90の最大の特徴はその見た目で、以前俺が召喚したHK416Dとは似ても似つかない。

全長は500㎜、全幅は55㎜、全高は210㎜と、遠目からなら小さな長方形の延板の様な見た目をしており、この特殊な形状の為、チャンバーと呼ばれる弾丸を発射する為の機関部がトリガーよりも後ろに設けられている。


これはブルパップ方式と呼ばれ、P90はHK416Dとは違い、全体をギュッと濃縮された様な形状になっており、体にフィットして取り扱いし易くなっている。

これは人間工学に基づいた設計らしい。


P90専用の弾丸、5.7×28㎜SS190フルメタルジャケット弾は、HK416D等で使われる5.56mm×45弾を一回り程小さくした様な見た目だ。


この5.7×28㎜SS190フルメタルジャケット弾は威力こそライフル弾より多少劣るが初速が高く、かつ運動エネルギーを狭い範囲に集中させる事が出来るから、結果として高い貫通力が生まれる。

更に小型化したお陰で必要な火薬はベレッタとほぼ同じになっている。


この弾が入ったマガジンもP90同様に延板の様な形をしており、P90の上部に乗せ装填する仕組みになっている。


最も‥‥‥ 銃火器に詳しい人達からすれば、この5.7×28㎜SS190フルメタルジャケット弾は弾の重量が軽過ぎて威力に欠けると言われていたから、普通にHK416Dを召喚して5.56mm×45弾を叩き込めば良かったのでは?


と、この後感じる事になる。


しかし恥ずかしい事に不足の事態でだいぶ焦っていたから、P90のフルメタルジャケット弾は貫通力が高い! と言う言葉だけを思い出し、このP90を召喚した。


つまり、このP90が通用するかは完全に賭けだった。


キュゥゥウウ!!


「きゃっ!」

「うあっ!?」

「っ!」

「ひゃぁ!?」

「おぉ〜! やるな帝」


だが俺の心配は杞憂に終わった。

ドットサイトで頭部と思しき部分に狙いを定め放ったフルメタルジャケット弾は、クヴァレルのヌメヌメした粘液と丸みを帯びた体を見事に貫き、青い体液を周囲に撒き散らした。


更にフルメタルジャケット弾の構造と比重からなる運動エネルギーのお陰で、クヴァレルの内部に侵入したフルメタルジャケット弾は内部で乱回転しているらしくクヴァレルから貫通しない。


そしてフルメタルジャケット弾は目標の内部で弾丸が停止する様に作られているので跳弾などが起こらず、捕らわれているセシル達に怪我を負わせる事も無かった。


「よし! 皆、俺がこのクラゲを引きつけている内に早く岸に上がって来るんだ!」


フルメタルジャケット弾を食らったクヴァレルは苦しそうに鳴き声を上げた。

ダメージを受けた為か、セシル達を拘束していた触手が緩みセシル達は池へ投げ出される。


「喰らえ!!!」


そんなセシル達に早く岸に上がって来る様に叫びながら、俺はクヴァレルにトドメを刺すためP90のトリガーを引いた。



▼▼▼▼▼▼▼



ピーン


火薬の匂いが漂い、不気味な静けさに包まれた池のほとり。 俺の頭の中にあの機械音が久しぶりに木霊した。


【希少魔獣クヴァレル1匹討伐。経験値獲得。

レベルアップ。レベル35→レベル40。レベルが40に到達した事により召喚項目の1部を解除。完全オリジナルの物を召喚できる様になりました】


おぉぉ!!!

レベルが一気に5も上がった!


頭の中に浮かぶテロップには先程倒したクラゲの様な触手魔獣、クヴァレルは希少魔獣と書かれていた。

多分だけど珍しい魔獣だからこそ、その分倒して得られる経験値も高かったのだろう。


そして!

やっとレベルが40代に突入した!


これで今まで既存の物しか出来なかった召喚物とは別に、俺が自分で考えたオリジナルの武器や防具を作れる効果も追加された!


ここでクヴァレルを討伐出来たのは、俺が今後生きていく上で大きなプラスとなった訳だ。


「うぅ‥‥‥ 酷い目にあったよ‥‥‥ 」

「全くです‥‥‥ もうあんな思いは懲り懲りです‥‥‥ 」

「クソ‥‥‥ 油断した!」

「アイツ嫌い‥‥‥ 絶滅すれば良いのに‥‥‥ 」

「っと、大丈夫か皆!」


その希少魔獣、クヴァレルはP90に装填出来るマガジン1本分‥‥‥ 計50発の弾丸を全て使い切りなんとか倒す事が出来た。

やはり俺がこれまて出会った中で最高レベルの魔獣だったから、ルディ以上に手強く感じた。


まさか威力は弱いとは言え、ベレッタが通用しないなんて想定すらしてなかったぞ。


クヴァレルの手強さを噛み締めつつ、俺は岸まで泳いで来たセシル達に手を差し伸べた。

皆衣服が少しはだけ、ずぶ濡れだけど怪我は無いようだ。


「うむうむ。わらわの授けてやった加護も見事に使い熟しておるようじゃな」

「当たり前だ。使い熟せてなかったら俺はとっくの昔に死んでる。ほら、皆これを使え」

「あ、ありがとうミカド」

「ありがとうございます」

「お、おいミカド擽ったいだろ!」

「んっ‥‥‥ ありがと‥‥‥」


結局今回も手助けしてくれなかった咲耶姫の言葉に適当に返事をしつつ、ずぶ濡れのセシル達の為にタオルを召喚し、それを其々の頭に被せワシャワシャと乱暴に拭いてやった。


「ねぇミカド、今のアレなんだったの?」

「さぁな。クラゲにソックリのクヴァレルって言う魔獣だって事しか分らねぇ。でも、ベレッタが通じなかったのは驚いたぜ」

「あ、あのそのクヴァレル? を倒したそれは‥‥‥」

「あぁ、コイツは俺の元居た世界の武器だよ。クヴァレルを倒す為に召喚したんだ」

「へぇ! これもHK416Dと同じ様な武器なんだね」

「え、えいちけー‥‥‥ よんいち‥‥‥ 何だって?」

「召喚‥‥‥ ?」

「それは武器なんですか?」


手にしたP90の安全装置を入れ、マガジンを抜いたP90をセシル達に差し出す。

セシルは俺が召喚した銃火器HK416Dを使っているから、先程の発砲音等からP90も同系統の武器だという事が分かったらしい。


だが、マリア達にはまだ俺の加護の事や銃火器の事を説明していなかったから、何の事だ? と首を傾げている。


「それはわらわが帝に授けた加護で召喚した武器じゃよ」

「その加護‥‥‥ と言うのは‥‥‥ まさか、ラルキア城に潜入する時に鎧とかを召喚した力の事ですか?」

「あぁ! そう言えばあの時は何だっ!? って思ったけど色々とヤバかったから聞くに聞けなかったな‥‥‥ 」

「隠していてすまなかった。ドラルが言う様に、あの時の鎧や木箱はこの加護を使って召喚したんだ。

加護ってのは、俺がこの世界に来る時に特別に咲耶姫が与えてくれた力‥‥‥ 皆に分かりやすく言えば魔法かな?

でコレは加護を使って召喚した銃って言う武器なんだ」

「へぇ、そんな変な見た目のヤツが武器ねぇ」

「凄い音がしたけど、それが攻撃した音だったの‥‥‥?」

「あぁ。レーヴェの言う通り、コイツは一見武器には見えない変な形をしてるけど、コイツの一撃は剣よりも強くて、弓よりも遠くの敵を倒せる遠距離用の武器なんだよ。

で、コイツで攻撃する時に火薬って呼ばれる粉が爆発するんだけど、マリアが言う凄い音ってのは、その火薬が爆発した音だな。 ちなみに、あの時暗殺者を攻撃したコレも銃の一種だ」


俺はそう言いながら、数時間前に刺青の暗殺者の右側を撃ち抜いたベレッタを腰のホルスターから抜き、それをドラル達へ見せた。


「コレもじゅうってヤツなのか? この板切れみたいなヤツと随分見た目が違うんだな」

「あの時はミカドさんが攻撃魔法を使ったと思ったのですが、アレはこのじゅう? で攻撃した音だったんですね」

「そう言う事だ。まぁ、詳しく説明すると長くなるから、興味が有るなら今度ゆっくり話してやるよ」

「ミカドさんの世界には凄い武器が有るんですね‥‥‥ あ! もしかして私達を助けてくれた時に持っていたあの棒みたいな物も、銃の一種なんですか?」

「そう言えば、ドラル達を助けた時も銃を使ったな。 そうだ。このP90とは違う物だけど、似た様な物を使ったよ」

「そうだったのか‥‥‥ 僕はアレは魔法具だって思ってたけど違ったんだな」

「まぁこの話は始めると長くなるから一旦お終いだ。それよりも皆着替えて来いよ。

そのままだと風邪引くぞ?」

「あ、そうだね。それじゃちょっと着替えて来るね〜」

「賛成です。服が体に張り付いて気持ち悪いですし」

「ミカド、覗くなよ?」

「レーヴェ。ミカドはそんな事しない‥‥‥ たぶん‥‥‥」


そこはしないって断言して欲しかったなマリアさん!!


今のセシル達は全身ずぶ濡れで体に服がピッタリ張り付いる。 正直目のやり場に困るから早く着替えて欲しい!


「誰が覗くかぁ!! ほれ! 早く着替えて来い!」

「ふふっ、それじゃちょっと待っててね」


俺はペンドラゴへ行く際に持って行った木箱を馬の背中から降ろし、セシルに差し出した。

この木箱の中には事前に用意した着替え等が入っている。

可笑しそうに笑うセシルは木箱を受け取ると、不審な目を向けるレーヴェやマリア達を引き連れて木陰の中へ姿を消した。


「全く‥‥‥ 誰が覗きなんかするかってんだ」

「まぁ、それは本心では無くからかっておるだけの様じゃったがの」

「あ? 何だ咲耶姫、まだ居たのか」

「随分とご挨拶じゃな‥‥‥ 何、決心を決めたお主の心境を興味本位で聞こうと思っての。幸い今は誰も居らぬ。

さて、何故お主はこのタイミングであの娘らにお主の境遇を話したのじゃ?」


セシル達が木陰に向かったのを確認した俺は、今の内に召喚したP90を仕舞う為のガンケースというバックを召喚した。


それと序でに周辺に転がっているフルメタルジャケット弾の薬莢の回収を始める。

ガンケースを召喚し終わると、何時もなら勝手に通信し、勝手に通信を終える咲耶姫が珍しく通信を終える事なく話しかけてきた。


今日に限ってダラダラと通信を続けていたのはこういう理由か。


俺の心境ねぇ‥‥‥


「別にそこまで大袈裟な事は考えてねぇよ。 ラルキア王国全体を巻き込んだ大事件も無事にケリが付いた事だし、成り行きで助ける事になったとは言えマリア達はもう俺にとっても大切な子だ。

それにセシルにもまだ言っていなかった事も有ったから、ここで俺なりにケジメを付けようって思っただけさ」


俺は足元に散らばるフルメタルジャケット弾の薬莢を拾い集めつつ、ボソボソと咲耶姫に俺の気持ちを話した。


まぁ、咲耶姫の持つ霊力は俺の持っている霊力と似た波長を持っているらしいから、ワザワザ俺の口から考えを言うまでもなく俺の考えている事は分かっている筈だが。


「確かにお主の考えはわらわには分かる。

だからこそ、お主の思考からだけでなく、その口からお主の気持ちを聞きたかっただけじゃ」

「さいですか‥‥‥ 」

「うむ。お主の考えは分かった。お主も人間として多少は成長した様じゃな。

ならばわらわからとやかく言う事は無い。

お主を日本に帰せるまでの霊力が溜まるにはまだ時間がかかる‥‥‥ それまであの娘らと共に生きるのじゃぞ」


咲耶姫は最後にそう言うとそれ以降何も言葉を発しなかった。

ポケットに入れた馗護袋の光が消えていたから、通信を終えたと言う事か。


「言われるまでもねぇよ」

「お待たせミカド〜!」


誰に言う訳でもなく呟きながら、50目の薬莢を拾い薬莢をコートの中へ押し込むと、丁度セシル達が戻って来た。

髪は多少濡れたままだが、濡れた服や防具は木箱の中へ片付けたらしい。


「あれ咲耶姫さんは?」

「言いたい事だけ言って通信を終わらせたよ。そんじゃ、だいぶ時間を食っちまったし、早いとこノースラント村に戻るぞ!」

「「「「はい!」」」」

「なぁミカド! 帰ったらその銃って武器の事、詳しく教えてくれよ! な! 良いだろ!」

「分かった分かった。何なら使わせてやるから少し落ち着けって」

「本当か! 約束だからな!!」


珍しい武器に興味を持ったのだろうレーヴェの騒がしい言葉を聞きながら、俺は微笑みを浮かべて黒い馬に跨った。



▼▼▼▼▼▼▼



「あ! ミカド!! 大丈夫だったか!!?」

「ミカド様! お怪我はありませんか!?」

ヴァウ!!

「おっと、ロルフ大人しくしてたか? それよりどうしたんだ2人共、そんなに慌てて」


ノースラント村の入り口に着いた俺達を出迎えてくれたのは、珍しく慌てた様子のノースラント村ギルド支部支部長代理のミラと、受付嬢アンナそしてロルフだった。


俺は飛びついて来たロルフを何とか受け止めつつ、声を荒げるミラ達に顔を向けた。


「どうしたもこうしたも有るか! 先程ペンドラゴから来たギルドの連絡員から聞いたぞ! ペンドラゴで反乱が起こったそうだな!?」

「反乱は鎮圧されたみたいですけど、それを聞いてからペンドラゴへ向かったミカド様達の事が心配で心配で‥‥‥」


どうやら俺達が道中クヴァレルと戦っている間に、ノースラント村にはギルド本部から連絡員が来てペンドラゴで起こった事をミラ達に説明した様だ。


「そう言う事か。確かに俺達がペンドラゴに着く直前に反乱が起こっていた。 でも無事解決したし、幸いゼルベル陛下達に怪我はなかったよ」

「おぉ!! 本当か!?」

「嘘言ってどうする‥‥‥ で、俺らはそれら諸々の報告をする為に帰って来た所だ。それと、心配してくれてありがとな」

「う、うむ。まぁ、怪我が無くて良かったな」

「えへへ、安心しました」


俺達の事を心配してくれていたミラ達に お礼の言葉を言うと、2人は気恥ずかしそうに微笑んだ。


「ところで、何故セシル様達はちょっと濡れているんですか? 道中雨に降られたのですか?」

「あはは‥‥‥ 似た様な物です‥‥‥ 」


アンナのこの言葉を聞いたセシル達女性陣は一様に苦笑いを浮かべた。

まぁ気持ちはよく分かる。俺も同じ様な目に遭ったら苦笑いするだろうな。


「あぁー‥‥‥ その事も纏めて報告するよ」

「? とにかく詳しい報告を頼む。アンナ、記録は任せたぞ」

「了解です副支部長!」

「さ、ついて来い」

「おう!」

ウォン!!


俺達はミラとアンナの後ろ姿を追い、ノースラント村の村人達によって新しく作られたレンガ製の小さな門を潜った。





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