第75話 絶体絶命
10:10
ラルキア城廊下
「私達を襲った暗殺者!?」
俺達の行く手を塞ぐ様に立っている此奴等の先頭には、見覚えのある刺青を刺れた男が居た。そしてその背後には、全身を黒で包まれている男達...... 見間違う筈がない。此奴等は以前、俺達を待ち伏せして襲った暗殺者集団だった。
立ちはだかる人数は12人‥‥‥ 以前俺達が襲われ、此奴等を撃退した時の人数も確か12人だったから、あれから人員は増えていない事になる。
「お前達がここに居るって事は‥‥‥ まだ受けた依頼は破棄されてないって事だな」
「あぁ、それに今は計画の最終段階らしい。この結末を見届けるついでに、お前達を殺す」
「‥‥‥つまり、俺達を襲うように依頼した奴は、今回の件にも関わってるって事だな!」
「‥‥‥さてね」
「間が有ったという事は図星か‥‥‥ そんな事どうでも良い! 俺達はその先に行かなきゃならねぇ! そこを退け!!」
「そう言われて退く筈ないだろう? この先に進みたければ、コイツで退かしてみるんだな」
頬に刺青を入れているリーダーは、ゆっくりと腰に差した剣を抜き放った。
続く様に、後ろの暗殺者達も剣を手に取る。
数は例によって俺達に不利だが、以前襲われた時の様に背後を気にしなくて良い分、今回の方が戦い易くなっている。
なら、勝機は有る!!
「それしかねぇみたいだな‥‥‥ セシル!マリア! レーヴェ! ドラル! 戦闘態勢!
此奴等を蹴散らして、謁見の間に行くぞ!」
「「「「はいっ!!」」」」
「さぁ、第3ラウンドだ!」
「うぉぉぉおお!!!」
セシル達に戦闘態勢を命令しながら太刀を抜いた俺は、恍惚の表情を見せる暗殺者達へ向かい走り出した。
広いとは言え、周囲を壁に囲まれているこの状況‥‥‥ だが、今回は防具も武器も完璧な状態だ。 それにいざとなった時の最終段階も確保している。
となれば、下手な小細工は要らない!
力で押し退ける!!
「ミカドは俺が相手をする。お前達は他の奴等を殺れ」
「「「「「はっ!」」」」」
「来い! ミカド・サイオンジ!」
突っ込む俺とセシル達を見て、刺青男は部下に指示をする。大丈夫‥‥‥ セシル達も以前は充分に戦えていた。なら、ここはセシル達を信じて、俺は此奴を倒す!
ガギィィイイン!!!
想像した物を形にする加護を使い、強度を極限まで高めた太刀が刺青男に吸い込まれる様に振り下ろされたが、刺青男は平然とその斬撃を手にした長剣で受け切った。
さすがは暗殺者集団のリーダー。 一筋縄じゃいかないか‥‥‥
「良い太刀筋だ‥‥‥ 是非仲間に欲しいな」
「ほざけ!!」
「むっ!?」
鍔迫り合いになっても巫山戯た事を抜かすこの男に、俺は前蹴りをお見舞いした。
刺青男はノーガードな腹を蹴飛ばされ、壁に激突する。
「隊長っ! がぁあ!?」
「戦ってる最中に隙を見せる‥‥‥ 命取り‥‥‥」
「良くやったマリア! その調子で攻め続けるぞ!」
「クソがっ!」
「させるか!!」
「ぐっ! このやろ!」
「やぁぁあ!」
「ちぃ!!」
「ミカドさん達の邪魔はさせません!」
刺青男を吹き飛ばされ、一瞬隙を見せた暗殺者にマリアのナイフが襲いかかる。
事切れた暗殺者を見て、他の暗殺者達も更に殺気を出しセシル達に襲いかかった。レーヴェとセシルも暗殺者達の気迫に押される事なく、善戦している。
ドラルは今回セシル達の死角から攻撃を仕掛けようとしている暗殺者達へ弓を使い牽制をしてくれていた。
「ふふ、本当に強い。俺達がこんな素人集団に押されているなんてな‥‥‥ちっ。こいつを使う事になるとはな」
壁に激突した刺青男が周囲の状況を横目に見つつ、微かに苦悶の表情を浮かべる。
彼が被っていたフードが微かに乱れ、フードの下から雪の様に白い髪と、血で染め上げた様な真っ赤な瞳が見えた。
この刺青男が言う様に、他の暗殺者達は刺青男が押されている為か動揺し、倍の人数が居るのに防戦が主体になっていた。
その時‥‥‥
「水龍の御霊よ我の魔力に答えその力の鱗片を授けよ! ウォーターボール!」
「なにっ!?」
苦悶の表情を浮かべた刺青男は以前聞いた事のある呪文を唱えた。 セシル達の善戦に気が緩んでしまった俺に向けられた手の平が光り、魔法陣が浮かび上がるとそこから水の球が猛スピードで迫って来た。
これは水属性の攻撃魔法!?
咄嗟に判断し、太刀の腹でウォーターボールを受け止めたが、今度は俺が壁に激突した。
クソ‥‥‥ コイツ攻撃魔法まで使えるのかよ!?
今のウォーターボールの直撃を受けた所為で、防御に使った太刀がビギィィン! と音を立て半分に折れ、宙を舞う切っ先が床に突き刺さる。
実際に攻撃魔法を受けたのは初めてだったが、凄まじい衝撃だった。以前より強度を高めた太刀が1発で折られしまった。
更に吹き飛ばされた時に背中を壁に強打し、激痛が身体を貫く。
「これで終わりだ!」
「ミカド!!」
「ミカドさん!!」
「ミカド!?」
「ミカドっ......!!」
セシル達の悲鳴が響き、俺の眼下には長剣を振り上げた刺青男が迫っていた。
「こんな所で‥‥‥ 死んでたまるかぁぁあ!!」
ダァァァァァアン!
俺の中の本能が生きろと叫んだ。
次の瞬間、節々が鈍く痛む身体が動き、俺は太ももに付けたホルスターからベレッタを抜き、トリガーを引いていた。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼
9:40
ラルキア城 謁見の間
「ベルガス! なぜローズがここに居るのだ!?」
「ローズ様は避難なさっていた筈!!」
父上とギルバードが謁見の間に響き渡る程の大きな声を上げる。 普段温厚な2人が声を荒げている姿は初めて見た‥‥‥ だが可笑しい。
常に天真爛漫で笑顔を絶やさないのが私の知るローズ・ド・ラルキアだ。
だが、今のローズの顔からは感情が感じない。まるで感情が抜け落ちてしまったかの様に‥‥‥
「ベルガス‥‥‥ ローズに何かしましたね!?」
「えぇ。普段通りのローズ様のままでいらっしゃると、私としてもやりにくいので、【催眠魔法】を使い感情を押さえ込ませていただいております」
「催眠魔法‥‥‥!?そんな魔法が!」
やはり、ベルガスはローズの感情を魔法で抑えつけていた。
しかし催眠魔法なんて聞いたことがない。
以前彼の先祖にはエルフとの間に産まれた者が居ると言っていたが、それと関係があるのだろうか?
だが今はそんな事はどうでも良い。 ローズをまるで物を扱うように淡々と言い放ったこの男は絶対に許さない!
「ベルガス! この下衆が!!」
「何て事を!? ベルガス、貴様ローズ様に何をさせるおつもりか!!」
「なに‥‥‥ 今後、ラルキア王国はここに御座すローズ様に治めて貰うだけの事‥‥‥ そして悲しいですが、ゼルベル陛下とユリアナ様、ギルバード様は生きておられると私の都合が悪いので、ここで亡くなって頂く」
「ベルガス‥‥‥ その様な便利な魔法が使えるのなら、何故ワシ等にはその魔法を使わなかった」
「‥‥‥ 冥土の土産に特別に教えて差し上げましょう。 私の催眠魔法は魔力を多く有する者にしか効かないからです。
なので催眠魔法が効かぬ貴方方は殺す他ないのですよ。 臣民達へは此度の反乱に巻き込まれ死亡したとお伝えします」
「ベルガス‥‥‥ 貴様ローズを使い傀儡政権を打ち立てる企てか!」
「ご明察で御座います。暫くはローズ様をこの国の長とし、私は後見人としてこの国を裏から支配します。
ゼルベル陛下達は、天上界より我らの行く末を見守っていて貰いましょう‥‥‥
それにしても、ユリアナ様が城内で武装しているとは少々驚きましたが‥‥‥ これも想定の範囲内‥‥‥ 者共かかれ!!」
そうか‥‥‥だからベルガスは謁見の間に来た私を見て驚いた表情を浮かべたのか‥‥‥
悪魔の様な企みを暴露したベルガスが指示すると、謁見の間に先に入ってきた兵士達とは別にゾロゾロと、更に数十人の近衛兵やラルキア王国軍の軍人達が入って来た。彼等もベルガスの部下らしく、剣を此方へ向け迫って来くる。
敵は謁見を申し出た者が出入りする大きな扉とは別に、私や父上が入退場する際に使う扉からも入って来るのが見えた。
これにより私や父上、ギルバードは壁に追いやられ、前方と左右を取り囲まれる形になってしまった。
こんな時にラミラが‥‥‥戦乙女騎士団が居れば‥‥‥
「ユリアナ姫殿下御覚悟!!」
前方から1人のラルキア王国軍の鎧を着た兵士が剣を上段に振り上げ突っ込んで来た。
だが、動きは単調で勢いに身を任せている。
この程度の者‥‥‥ 私が信頼し、共に苦楽を共にしてきた戦乙女騎士団員の足元にも及ばない!
「はぁぁ!!」
「がはっ‥‥‥」
突っ込んで来た兵士が剣を降り下ろさんとするその瞬間、私は普段式典など特別な場面でしか握らない聖剣‥‥‥ 愛刀バルバティスを隙だらけの胸目掛けて抜き放った。
斬撃を受けた兵士の体から赤い血が噴き出ると、荘厳な謁見の間が赤く染まった。
「父上! ギルバードと下がっていてください! ここは私が食い止めます! 暫くすれば
「それは待つだけ無駄で御座いますユリアナ様。 既に戦乙女騎士団の元へ腕利きを500人程向かわせております。よしんば彼女達がこの500人を撃退しても、彼女達がここへ来た時には全てが終わった後‥‥‥大人しく諦めなさい」
「くっ‥‥‥」
私の頭には頼もしく、信頼しているラミラ達戦乙女騎士団皆の顔が浮かぶ。
皆、どうか無事でいて‥‥‥
そして彼の顔も頭に浮かんだ。以前、嘆きの渓谷で襲われていた私を助けてくれた青年‥‥‥
吸い込まれる様な黒い瞳と、闇の様な黒い髪をしたミカドと名乗った青年の顔が。
あの青年とは僅かな会話しか出来なかったが、彼からは強い意志と、生きる事を諦めない強い生命力を感じた。
何故だろうか、私は彼ならこの様な絶望的な状況でも決して諦める事はしないだろうと思った。
「ミカドさん‥‥‥ 私に力を‥‥‥ !」
今思えば、私はこの時から彼の存在が気になっていたのだろう。
私は彼の名を呟き、迫り来る敵を見据えた。
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