第73話 兵士達




「お願いです! 一緒に行かせてください!」

「そう言われてもね~‥‥‥」


俺は土下座も辞さない覚悟でカリーナさんに頼み込んだ。

ラルキア王国軍の一団に攻撃されたり、浮き上がる跳ね橋を飛び越えたりと危ない目には遭ってきたが、此処まで来て留守番なんてのはありえない。

今から皆が戦いに行くのに、俺達だけ大人しく待っているのは嫌だ。


だが、カリーナさんの言う事はもっともだ。 彼女達から見れば俺達はギルドに登録しているとは言えただの一般人。


その一般人を守るのが仕事のカリーナさんからすれば、守るべき存在を危険な場所に連れて行く道理はない。


「俺達はゼルベル陛下に、今回の事件の事を伝える様に依頼を受けています!

もし今の爆発がラルキア城を攻撃した音だったら! せめて、同行する許可だけでも頂けませんか!」


さっきの大きな爆発音が、本当にゼルベル陛下の居城ラルキア城を攻撃した音だったら‥‥‥


俺の頭にはユリアナやローズ、国王のゼルベル陛下や執事のギルバードさん達の顔が浮かんだ。

彼女達の身に何かあれば、俺は悔やんでも悔やみきれない。


「あ、あの! 私からもお願いします!」

「お願いしますカリーナさん!」

「頼む!」

「お願い‥‥‥」

「あらあら、困ったわね‥‥‥」


俺が必死に懇願しているとセシルを始め、ドラル達もカリーナさんに頭を下げ始めた。 カリーナさんは頭を下げる俺達5人を見て、心底困った顔をしている。

せめてミラから受けた依頼を理由にして、同行する許可だけでも貰いたい。


「ん~‥‥‥ 貴方達もギルドのお仕事で此処に来たのよね‥‥‥ わかりました。同行を許可します」

「本当か!! ありがとう!」

「「「「ありがとうございます!」」」」

「だけど! いくつか条件があるわ。

まず条件その1、同行は許可するけど、もし危険な状況だと私が判断し、逃げるように指示した時はその指示を必ず守る事。

条件その2、極力私の近くから離れない事‥‥‥これが守れるなら同行を許可します」

「あぁ! わかった!」


よし! カリーナさんの指示に従う、カリーナさんの側から離れないと言う条件付だが、これで同行する許可を貰えた!


後は一刻も早く此処を出発しないと!


「姐さん! 第1から第3中隊、出撃準備完了しやした!」

「後方支援1個小隊も準備を終え、今は駐屯地ここの広場の前に待機してやす!」

「第7駐屯地総員300名、何時でも出撃できますぜ!」

「あら、ありがとうシュタークちゃん。クリーガちゃん。アルちゃん」

「でも良いんですかい姐さん。総員で出撃したらこの駐屯地はもぬけの殻ですぜ?」


同行する許可を貰った直後、タイミング良く第7駐屯地の皆に出撃準備を通達しに行っていたシュターク達が戻って来た。

今日は非番だとかで、さっきまで普段着姿だったクリーガとアルも、今はシュタークと同じ様に眩しく輝く銀色の鎧を身に付け、質実剛健な印象を受ける無骨な剣を携えている。


それぞれの鎧の左肩には、所属部隊を示していると思われる【7】の数字が堂々と記されていた。


その姿はとても凛々しくカッコ良かった。


「えぇ、良いのよ~。ペンドラゴの中心地‥‥‥ 第3城下街が攻撃を受けたこのタイミングで、第1城下街の片隅に在る駐屯地ここが攻撃を受ける理由は無いし、何より今はラルキア王国の王都が、 ゼルベル陛下の住まうペンドラゴが攻撃を受けているのよ?

駐屯地ここを守ってもゼルベル陛下達をお守りする事が出来なければ、駐屯地ここ以前に、この国が無くなってしまう事に繋がるわ。

だから私達は、皆でゼルベル陛下達を守りに行きます。良いかしら?」

「「「お、応!!!」」」

「それじゃ、私も用意があるからシュタークちゃん達は先に広場に行っててね~。 それとミカドちゃん達を客室に案内してあげで? この子達も準備があるでしょうから」

「了解‥‥‥ って、え?ミカドのにいちゃん達も行くんですかい!?」

「同行するだけよ~。危なくなってきたら真っ先に逃げる様に伝えてあるから、安心して? さぁさぁ、早く出て行ってね〜? 私の着替えを見たいなら別だけど~」

「「「「あっ!し、失礼しました!」」」」


カリーナさんのからかう様な言葉を受け、俺を始め男組は慌しく総隊長室を飛び出した。

その時にマリアが「あれが大人の女性の余裕‥‥‥ 」と、羨ましそうに呟いているのが聞こえた気がした。



▼▼▼▼▼▼▼



「皆、準備は良いか!」

「うん! バッチリだよ!」

「何時でも行けます!」

「おう!」

「ん、大丈夫」


総隊長室を後にした俺達は、シュターク達に案内してもらった客室で諸々の準備をした。

シュターク達は俺達を案内した後、部隊の皆と合流する為に一足先に皆が待機している広場に向かっている。

準備と言っても、ペンドラゴに来る前にほぼ準備を終らせてきたから装備に不備が無いか確認し、持って来た木箱から使えそうなアイテムを幾つか装備しただけで5分もかからず終ったが。


俺は装備の最終確認する為に、咲耶姫から授けてもらった加護の項目の1つ、装備の項目を久しぶりに開いた。


~メイン装備~

頭…未装備。

胸部…上質な上着+ロングコート+皮と鉄の鎧。

腕…篭手。

腰…皮のベルト+ベレッタ92FS用ホルスター

足…上質なズボン+脛当

靴…黒牛のブーツ。


~サブ装備~

●馗護袋

●ベレッタ92FS用2連マガジンポーチ×1個


~武器~

●太刀

●ベレッタM92FS

●ベレッタM92FS用マガジン3本(45発、内マガジン1本はベレッタ本体に装填)

閃光手榴弾フラッシュバン



以上が俺が今身に付けている物だ。


俺とレーヴェが運んでいた木箱には、先程使った閃光手榴弾やベレッタ等を入れて持って来た。


今回HK416Dは持って来ていない。

HK416Dは大きく、市街地で使用するには向いていないと思った事と、今回はこの国有数の人が暮らすペンドラゴでの任務なので、出来るだけこの世界の人が見ても違和感が無い太刀をメインに使うと決めていたからだ。だがベレッタは例外で持って来た。


ベレッタは小さく取り回しも効くし、隠しやすい。


以前ユリアナを助けた時と同じ様な状況になった時みたいな、緊急事態のみ使おうと思い持ってきたのだ。


だが、状況が状況だ。

さっきカリーナさんも似たような事を言っていたが、ここで人目に付くからと言ってベレッタの使用を躊躇ったら、それこそこのラルキア王国そのものが無くなる事態に発展するかもしれない‥‥‥

今は細かい事は考えず、積極的にベレッタを使っていくつもりでいた方が良いのかも知れない。


この事はセシルにも伝えており、セシルの右太ももにも俺と同じ様にホルスターが付けられている。そのセシルは薄いマントを纏い、ベレッタを覆い隠していた。


「よし、行くぞ!!」

「「「「了解!」」」」


装備を確認した俺達は気合の入った声を上げ、事前にシュターク達から教えてもらった道を駆け抜け、第7駐屯地の広場へ向かった。


「おぉ」

「凄い迫力だね」

「かっけぇ!」

「でも皆、顔怖い‥‥… 」


広場の光景は圧巻だった。

1列30名の列が10個、広々とした広場に並んでいる。その計300名がそれぞれ良く手入れされた武具を纏い、第7駐屯地の旗を掲げている。

平時に第7駐屯地ここの隊員を見たらその強面な外見で怖く感じるだろうが、今はとても頼もしく、そして力強く感じる。


彼らが醸し出す空気からは、少し前に見た親しみやすい雰囲気ではなく、一騎当千を思わせる武士もののふ‥‥‥戦う男達の信念と誇りを確かに感じた。


俺達5人はこの300名の頼もしさをヒシヒシと感じながら、10個の列の最後尾に立った。


「総員気を付けぇえ!!!」


300もの人が居るのに誰も言葉を発しないピリピリした空気の中、シュタークの野太い声が広場に響き渡る。

それと同時に、他の隊員が一斉に気を付けをする。動作も靴音も綺麗に揃っており、彼らの練度の高さを物語っていた。


300名近くの隊員が直立不動の姿勢になると、300名の先頭にあるお立ち台に優美な女性が登っていく様子が見えた。


「カリーナ・アレティス総隊長に敬礼!」


お立ち台に登った女性はカリーナさんだった。カリーナさんは他の隊員達とは違い、女性用と思しき銀の鎧を纏い【7】の字が刺繍された藍色のマントを翻す。

その姿は妙に神々しく、ユリアナと被って見えた。


「皆。既に知っているとは思うけど、15分程前、ペンドラゴの中心部‥‥‥ 恐らく第3城下街で爆発が発生しました」


お立ち台の上に立ち、静かに並ぶ隊員の姿を眺めたカリーナさんはおっとりと静かに、だが最後尾に居る俺にも聞こえる覇気のある声を放った。

彼女は言葉を紡ぐ。


「私達の部隊は貧民街の治安維持をする様に命令を受けていました。 本来なら軍人の私達は命令に従い、貧民街の治安維持を続けるべきなのでしょう。命令に従い、命令に誇りを持つのが我々軍人です。

でも‥‥‥ 今は違うわ!

私達に貧民街の平和を託してくれた人達が! 私達の無事を願っている人達が!

この国の象徴‥‥‥ 希望‥‥‥ 王の居られるペンドラゴの中心部が襲われています!

ここで第3城下街へ向かう事は、本来与えられた任務の放棄に他なりません。 ですが私は命令します。

この国に平和を、恵みを、誇りを与えてくださったあの方を‥‥‥ この国の民達の為にゼルベル国王陛下を守りに行きます!

志在る者は声を上げなさい! 国を守る強き意志在る者は拳を突き上げなさい!! 私達はこの国を守るラルキア王国軍です!!!」

「「「「「おぉぉぉお!!!!」」」」」


300名の軍人全員が何の迷いも無く、拳を空高く突き上げ咆哮を上げる。


「私の自慢の皆‥‥‥ 何時もの様に私に付いて来なさい! 第7駐屯地総員! 出撃よ!!!」

「「「「「っしゃぁぁああ!!!!」」」」


地面を震わせる程の鬼気迫る雄叫びを上げ、第7駐屯地総勢300名は再び拳を空高く突き上げた。



▼▼▼▼▼▼▼▼



「総員、目指すはペンドラゴ中心部! 隊旗を掲げて〜!」

「応っっ!!!」


カリーナさんの演説が終わると、ある者は愛馬に跨り、またある者は愛刀の剣の柄を握り締め、またある者は近くの戦友と互いに鼓舞し合う。


そしてカリーナさんの号令の下、隊員が持つ旗とは別に、一際大きな旗が掲げられた。


その旗にはラルキア王国の紋章と7の数字がデカデカと描かれていた。 その旗を見た隊員達は更に眼光を鋭くし、拳を強く握り締める。


「っし! 第1中隊、貧民街から戻ったばかりだが、へばってる場合じゃねぇ! 気合い入れろっ!! 行くぞっ!!」

「第2中隊! 第1中隊の連中に遅れんじゃねぇ! 何が起きてるのかわからねぇが、死んだりしたらぶっ殺すぞ!」

「おらぁ第3中隊! 今こそてめぇ等の出番だ! ぶっ倒れるまで戦うぞ! 根性見せろやぁあ!」

「後方支援1個小隊30名は今回私が直接指揮するわ〜! 各中隊に劣らない実力、見せ付けてあげなさい〜!」

「「「「っしゃぁぁぁああ!!!」」」」


再び広場を野太い咆哮と優美な声が包み込む。そして第7駐屯地の全部隊、総勢300名が動き出した。


シュターク、クリーガ、アルが何十人もの隊員の前に立ち、乱暴な言葉使いの檄を飛ばす。

彼等の前には其々30人の列が3つ‥‥‥ 各90名の隊員が直立不動で立っていたが、この乱暴な檄を聞き、これまた乱暴な言葉で‥‥‥


「「「ったりめぇだ! おらぁ!」」」

「「「誰が死ぬかゴラァ!」」」

「「「言われなくても分かってらぁあ!」」」


等々、はたらか見ればチンピラにしか感じない物騒な言葉を返す‥‥‥

ここの隊員は皆が皆強面で、その威圧感すら与える面構えが粗暴な言動と相まって、とてつもない迫力を醸し出している。


彼等が味方だと思うと頼もしい事この上無い。カリーナさんが後方支援1個小隊と呼んだ部隊の面々もその例に漏れず、


「「「おぉ! 姐さんの前でダセェ所見せられるかってんだぁぁあ!!」」」


と、気合いの入った咆哮を上げる。

そして先に動き出したシュターク達の後を追い、カリーナさん率いる後方支援1個小隊も行軍を開始した。


「す、凄いねここの人達! 」

「はい、 初めは怖い方々だと思いましたけど、今は凄く頼もしいです」

「あぁ! 僕も気合入れるぞ!」

「レーヴェ、空回りしない様にね‥‥‥ 」


ポツリとセシルが感心した様な声を漏らし、その言葉にドラル達が言葉を返す。

第7駐屯地の隊員も確かに頼もしいが、俺が何より頼もしく感じたのは、この第7駐屯地の部隊を率いるカリーナさんだ。


見た目はザ・完全無欠のエリート、ミラと瓜二つだが、性格はミラと正反対でおっとりした印象を受けたカリーナさん‥‥‥ そんな彼女だが、先程の檄はそんな印象を消し飛ばすだけの力と迫力を感じた。


軍人という職業への強い意志と、責任感‥‥‥ 更に第7駐屯地の皆への信頼感が無ければ、あそこまで見事な檄を飛ばす事は出来ないだろう。

部隊の皆を信じ、また部隊の皆もカリーナさんの事を信じているからそこ、ここまで見事な団結力を発揮出来るのだろうな。


「っと! 見惚れてる場合じゃ無い! 俺達も後に続くぞ!」

「「「「はいっ!」」」」


俺達は駆け足で、先行していった第7駐屯地の部隊を追った。



▼▼▼▼▼▼▼▼



時刻は10:00を少し過ぎた。


第7駐屯地の部隊に引き離されない様駆け足で2つ目、3つ目の巨大な城門を潜った。

これで俺達は爆発があったと思われる第3城下街へ辿り着いた。


「クソッ! どうなってんだ!? こんなトロトロ歩いてたら、敵が逃げちまうぞ!」

「レーヴェ、ちょっと落ち着いて!」

「あれ? マリアちゃんどうかしたの?」

「前から嫌な気を感じる‥‥‥」


だが、第3城下街へ来た途端、行軍速度がガタっと落ちた。


300もの人が同時に行動しているから無理も無いのかも知れないが、この300名の最後尾に居る俺には焦れったいときたらありゃしない。


それと先程から妙に先頭の方が騒がしい気がする。 マリアが嫌な気を感じると言うから、この嫌な気が原因で進軍が遅れているのか?


そうだ!


「ドラル! ちょっとひとっ飛びして、先頭の状況を確認して来てくれ!」

「あ、なるほど! わかりました! 確認を終えたら直ぐに戻って来ます!」

「おう! 頼んだぞ!」


俺は空を飛ぶ事が出来る龍人のドラルに先頭の偵察を命令した。地上は第7駐屯地の部隊がひしめき合っているから自由に動けないが、空なら遮る物は何も無い。

ドラルは腰から生えたゴツゴツした黒い鱗に覆われる尻尾を揺らし、バサッ! 黒い翼を広げた。


今更だが、ドラルが翼を広げた姿を初めて見た‥‥‥


その姿は悪魔を連想させたが、降り注ぐ太陽の光を反射する黒い翼と尻尾はとても綺麗で独創的だった。


そして彼女は飛びだった。

一際大きな黒煙が立ち上る場所へと向かって。



▼▼▼▼▼▼▼



時刻9:10


ラルキア王国第1王女ユリアナ・ド・ラルキアは歴代ラルキア王国国王の居城、王都ペンドラゴの中心に聳え立つラルキア城の長い廊下を歩いていた。

今、ラルキア王国は未曾有の攻撃を受けている。それは建国以来初めての事で、それが余計に彼女を不安にさせる。

彼女の頭の中には様々な感情が嵐の様に渦巻いていた。


「ユリアナ‥‥‥ 幾らペンドラゴが攻撃を受けているからと言っても、城内で鎧を‥‥‥ しかも帯刀までしなくても良いのでは無いか?」


ユリアナは声のした方を向き、思考を切り替えて隣の人物の事を頭に思い浮かべた。


カツカツと靴音を鳴らしラルキア城の廊下を歩くユリアナの隣には、ユリアナや妹のローズの父上にしてこの国の王、ゼルベル・ド・ラルキア国王陛下が苦虫を噛み潰した様な顔で並び、その数本後ろには父上の幼馴染にして執事のギルバード・フォン・エドガーが同じ様な表情で廊下を歩いている。


ゼルベルの言う通り、ユリアナはラルキア王国の紋章と白百合の刻印が施された白い鎧に、同じくラルキア王国の紋章と白百合が描かれている青いマントを纏い、腰には金色の鞘に収められた愛刀を下げている。


直ぐにでも戦に臨める姿で、長い廊下を歩きつつ彼女は父に返事をした。


「ペンドラゴが攻撃を受けている今、ラルキア城の周囲は普段よりも兵数を増やした近衛兵団や戦乙女騎士団ワルキューレ・リッターオルゲンが警護しているとは言え、もしもの時の為にこれ位の備えは当然です」

「それはそうだがな‥‥‥ お前を見たメイドや見習い従者達が不安がっていたぞ。

何時もの穏やかな雰囲気ではなく、任務に就く時の様な近寄り難い雰囲気だとな」

「不安に感じる気持ちもわかりますが、私としては城の皆も武装して、もしもの時に備えて身を守れる位になって欲しいのですが‥‥‥

そんな事よりギルバード、此度のペンドラゴを攻撃した敵の正体が分かったとは誠でしょうか?」

「はっ‥‥‥ 私もまだ詳細は知らされておりませぬ故、なんとも‥‥‥ ただあの者の言う事が確かなら、この国は建国以来の危機を迎えている事になります 」

「うむ‥‥‥ 我が王都へ反乱分子が侵入し、攻撃を仕掛けてくるなど前代未聞だからな」


父の言葉を聞き、ユリアナは顔を歪ませた。


今日の8:00にラルキア王国王都、ペンドラゴの第1、第2城下街が何者かに攻撃された。その20分後の8:20。

父上は戦闘による民間人の犠牲を減らす為、ペンドラゴの非戦闘員の一般市民の外出を全面的に禁じ、並びに軍へは不審者と思しき者は最悪殺しても構わないという旨の命令を発令した。


この時のゼルベルの顔を見たユリアナは、父から明らかな焦りと怒りを見た。


それは歩いている今も変わらない。

無理も無い。この王都ペンドラゴが攻撃を受けるなど、建国数百年の歴史を持つこのラルキア王国で初めての出来事なのだから。


無論ユリアナも父と同じで焦り、怒っていた。 今直ぐにでも出撃し、現場で懸命に任務を勤めているだろう部下達と共に居たいと内心では思っていた。

だが、ユリアナは王族で王位継承権を持つ身の上‥‥‥ 前代未聞の出来事に、ユリアナの安全を優先したゼルベルから出撃の許可が降りなかったのだ。


ユリアナは歯痒かった。


皆が頑張っているのに、私は城で大人しく報告を待つしか無いのか‥‥‥

父の言葉を無視してでも出撃し、皆を鼓舞しに行くべきでは無いのか‥‥‥


そんな葛藤をしているユリアナの元へギルバードが来た。


聞けば、ある者が今回のペンドラゴを攻撃した敵の正体を突き止めたとか。


その事をまずは国王ゼルベルと、戦乙女ワルキューレの名で国内外へ知られている軍人かつ王族のユリアナに伝えたいとの事だった。


この情報が本当なら、敵の正体も分からず敵を探して駆け回っている部下達の助けになる筈である。


ギルバードと合流した後、ユリアナ達は直ぐにゼルベルの元へ向かった。そしてゼルベルと合流したユリアナは、敵の正体を突き止めたと者と会う為に謁見の間へ到着した。


「陛下、ユリアナ様‥‥‥わざわざご足労頂き申し訳御座いませぬ」


静まり返った謁見の間の中央に、この情報を齎してくれた人物が恭しく傅いていた。


「挨拶は不要だ。詳しい報告をしろ。ベルガス丞相」

「はっ 」


玉座に座ったゼルベルの言葉を受け、この国の政治界の長、ベルガス・ディ・ローディア丞相がゆっくりと立ち上がった。


立ち上がったベルガス丞相はユリアナの方を見て一瞬、何やら驚いた様な顔を浮かべた。

恐らく城内で鎧を着て、帯刀までしているユリアナに驚いたのだろう。


「簡潔に申し上げまする。現在、ラルキア王国は現在反乱分子‥‥‥ 正確に説明するならば、軍の1部とその協力者により攻撃を受けております」

「「なに!?」」

「なっ‥‥‥ 」

「被害は既にご存知かとは思いますが、第1城下街と第2城下街の至る所で爆発が確認されておりますが‥‥‥ 幸い、爆発の標的となった箇所は空き家や、早朝故誰も居なかった商店等で市民の被害はほぼございませんでした」

「軍が反乱だと! 誠か!」

「誠でございます」


ユリアナを見て驚いた表情を浮かべたベルガス丞相は、直ぐ様顔をゼルベルに向け淡々と説明を始めた。

どうやらあれだけの爆発があったが、市民への人的被害はほぼなかったらしい。


本当に良かった‥‥‥ とユリアナは思ったが、それよりも軍の1部がこの攻撃に関わっていると言うベルガス丞相の言葉の方が衝撃だった。


父上もギルバードも、勿論私も青天の霹靂だった。


「‥‥‥ 何故軍が反乱に加担していると分かったのですか?」


ユリアナはベルガス丞相の言葉が信じられなかった。


ユリアナは王族だが軍に籍を置いる。

王族という立場と軍人という職業柄、よく各地の軍駐屯地や訓練で軍と接する機会が多かったユリアナは彼等の事をよく知っている。


彼等は皆任務に実直でユリアナには彼等が反乱を起こすとはとても思えなかった。


故にユリアナには軍が反乱を起こしたと言うベルガス丞相の言葉が信じられなかった。


「何故軍の1部が反乱に加担していると分かったか‥‥‥ ですか。その理由は‥‥‥

私が、その反乱を命じたからです」


ドゴォォォォオオオン!!!!


「キャ!?」

「っ!?」

「ぬぅ!?」


ベルガス丞相が言葉を言い終わると同時に、この時を待っていたという様に、激しい轟音と振動がラルキア城全体を揺らした。










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