第57話 魔術研究機関





「ねぇミカド。前に来た時と、王都の様子が違うね...... 」

「あぁ、軍人が多いな...... 」


ラルキア王国王都ペンドラゴを囲む巨大な城門を潜り、見えた王都の光景にセシルは声を漏らした。


星柄の城壁に囲まれたペンドラゴの内部は、以前来た時と比べ物にならないくらい静かだったからだ。


数日前にペンドラゴを訪れた時、表通りには買い物を楽しむ家族連れが行き来し、商人の活気に満ちた声が響いていた。


だが...... 今表通りに居る人は両手で足りる程の数しか見当たらず、代わりに白銀の鎧を身に纏い、槍や国旗を掲げた無数のラルキア王国軍の軍人達が表通りを往来している。


それも当然か......

今ラルキア王国全土には国家防衛戦闘態勢という非常事態宣言が発令されている。


この命令によりラルキア王国軍は敵の攻撃に備え、ギルドは周辺地域の治安維持をする様になっているが、それ以外の民間人は外出を極力控える様にとも付け加えられている。


民間人が外出出来るのは、食料や消耗品等の生活に必要な最低限の物を購入する時だけだとか。


以上の理由から、王都ペンドラゴはその大都市ぶりに似つかわしくない静寂と、ピリピリした雰囲気に包まれていた。


「ミカド様、到着しました」

「着きましたか。ありがとうございます」

「え? 着いたって...... 此処は...... 」

「大きなお城......」

「すげぇ...... 」

「まさか!ラルキア城ですか!?」

「あぁ。ちょっとある人達に挨拶して行こうと思ってさ 」


馬車の小窓から見える巨城に困惑するドラルに俺は微笑みかけた。


本当なら直ぐにでも調査を始めないといけないのだが、俺達は短期間とは言え、国王陛下のお膝元に滞在するのだ。


面識があるゼルベル陛下達の安全確認と挨拶、そしてミラからラルキア王国で起こっている爆破事件の調査を任された事を報告した方が良いだろうと俺は判断し、此処に来たのだ。


といっても、今この国は何時、何処で爆破が起こるか分からない状態に置かれている......


前回の様にすんなりと会う事は難しいかも知れないが......


「お前達何者だ!」

「今ラルキア王国には国家防衛戦闘態勢が敷かれている! 外出は極力禁じられている筈だ!」


不安は的中し、馬車から降りてラルキア城の正門に立った瞬間、藍色をベースにした服を纏うゼルベル陛下の近衛兵数人に囲まれてしまった。


やはり状況が状況なだけに、近衛兵の人達もやけに殺気立ちイライラしているみたいだ。


「私達はノースラント村ギルド支部長代理より、今ラルキア王国で起こっている爆破事件の調査を命じられた西園寺 帝とセシル・イェーガー。

後ろの3人はマリア・グリュック、レーヴェ・グリュックそしてドラル・グリュックです」

「何? 爆破の調査だと?」

「はい。付きましては、一時的にペンドラゴで調査をする事となりますので、本日はゼルベル陛下にそのご報告と謁見を賜りたく、馳せ参じた次第です」


俺はそう言いながら、懐からミラに渡されたA4サイズ程の紙を取り出し、警戒心を露わにする近衛兵に向ける。


この紙には、俺達全員の名前とギルドの級。

そして、このラルキア王国全土で起こっている爆破事件を自由に行動出来ないギルドに代り、独自に調査を依頼した事がミラの署名とギルドのサイン付きで記されている。


これは俗にいう依頼書だ。


曰く、ギルド側が最重要案件や、準重要案件に関係する依頼を、正式な依頼としてギルド組員に頼む時に使っている物らしい。


更に付け加えれば、これがあればギルドや軍の各部署・組織も捜査に協力してくれるだろうとの事だ。


至れり尽くせりで泣けてくるぜ。


「ギルドの依頼書...... どうやら本物の様だが...... 」

「しかし、事前に約束していない者達を会わせるわけには...... 」


うん、どうやらこの依頼書は近衛兵の人達にもそれなりの効果を持っていた様だ。

先程まで高圧的だった口調が穏やかになった点から考えれば、俺達が不審者では無いと分かってくれたみたいだ。


だがそれだけだ。


この人達は見た所、この正門の警備を任されている一介の兵士に過ぎない。

彼等の一存で、どうこうできる問題では無い。


さて、どうしたものか...... 最終手段としてユリアナと知り合いだと言ったり、前みたいにギルバードさんに来て貰って取り持ってもらうか?


「お前達何を騒いでいる!」

「ラミラ殿!」


どうした物かと考えを巡らせていると、正門から白百合のエンブレムが刻印された白銀の鎧を身に纏い、蒼色のセミロングヘアを風に靡かせた女性が立っていた。


この人は確か......!


「あ! 戦乙女騎士団ワルキューレ・リッターオルゲンの団長!」

「ラミラ・アデリールさん!」


カツカツと靴音を響かせながら歩み寄ってきた女性を見て、俺とセシルはその女性が誰なのか思い出した。


この女性は、以前ユリアナを助けた時に少しだけ会話をした事がある。


高圧的な態度と口調。

そして強い意志を感じさせる目。


彼女はユリアナの身辺警護を任務とする、ユリアナお抱えの騎士団【|戦乙女騎士団》ワルキューレ・リッターオルゲン》】団長、ラミラ・アデリールだった。


「お前達...... ミカドとセシルとか言ったな。

今ラルキア王国全土には、国家防衛戦闘態勢が敷かれている。こんな所をウロついていないでサッサと帰れ」


うは...... 開口一言でこれか......

以前も妙に当たりが強かったが、今日は輪をかけて当たりが強いな。


「それは重々承知してる。俺達5人は、ラルキア王国で起こっている爆破事件の調査の為に此処へ来たんだ。

王都で調査をするなら、せめてゼルベル陛下達に一言挨拶するのが礼儀だろう?」

「...... 此奴等が言っている事は事実か?」

「はっ! ノースラント村ギルド支部長代理が発行した、正規の依頼書を持っておりました。嘘ではないかと」


ラミラは傍に居た近衛兵の1人に確認し、俺が近衛兵に渡した依頼書を受け取り中身に目を通しながら、小さくボソボソと


「此処でゼルベル陛下や姫様にご挨拶させねば、後々面倒な事になりかねないな...... 」


と呟いている。


やがて依頼書を読み終えたラミラは苦虫を噛み潰した様な顔になり、俺達の方に顔を向けた。


「仔細了解した。普段なら此処で追い返すが、事が事だ。

今回は特別に私の方からゼルベル陛下に掛け合ってやる...... ついて来い...... 」


ラミラは一息にそう言えば、此方の返事を待たず、1人でそそくさと歩き始めてしまった。


えっと......これはゼルベル陛下に謁見出来るって事で良いんだよな?


「ミカド..... どうするの?」

「まぁ、とりあえずついて行こうぜ?」

「ん...... 分かった」

「って言うかミカド、すげぇ人と知り合いだな......」

「えぇ...... 戦乙女騎士団ワルキューレ・リッターオルゲンの団長ともなれば、ラルキア王国軍の中でも特別な人だもんね...... 」

「そうなのか? 知らなかった...... 」

「知らなかったんですか!?」


先頭を行くラミラの背を見ながら、俺達は小声で会話をしつつその後を追った。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼



「おい、お前達。ゼルベル陛下や姫様がお会い下さるそうだ。余り時間を割けないとの事だから来るなら早く来い」


ラミラに案内された待合室で待つ事10分後。


荒々しく待合室のドアが開け放たれたかと思えば、仏頂面のラミラがドスを効かせた声で席を立つ様にジェスチャーした。


ゼルベル陛下に謁見の許可を貰えた様だ。


にしても...... ラミラが睨むもんだからセシルやドラルがビクビクしてるぞ......


「分かった。案内を頼む」

「「「「よ、よろしくお願いします...... 」」」」

「ふん...... こっちだ」


こうして俺を始め、おっかなびっくりのセシル達は謁見の間に通じる扉の前へと案内された。


一応面識があるとは言え、やっぱり国の王と会うのは緊張するな......

マリア達には待合室で、ティナに教えてもらった最低限の作法を教えたので問題ないだろう......


「ゼルベル陛下! ミカド・サイオンジ、並びにその同行者をお連れ致しました!」


俺達を謁見の間まで案内したラミラは、扉越しに部屋の主に向け、俺達の到着を声高らかに伝えると一呼吸置いてゆっくり扉を開けた。


「おぉ、よく来てくれたミカド・サイオンジ。セシル・イェーガー」


謁見の間に足を踏み入れた俺達を優しい声が包み込んだ。


正面の王座には、好々爺とした笑みを浮かべるゼルベル陛下がリラックスした様子で腰掛けていた。

その傍には執事のギルバードさんが微笑を向け、小さく頭を下げている。


そして更に、蒼穹を連想させる薄い青色のドレスを着たユリアナと、夕日を連想させるオレンジのドレスを着たローズがゼルベル陛下と同じ様な笑みを浮かべなから俺達を見つめていた。


良かった。見た所ゼルベル陛下達には大事ないみたいだ......


「はっ! ゼルベル陛下。ご機嫌麗しゅうございます!

本日は急な謁見に応じて下さり感謝に絶えません」

「うむ...... ラミラからおおよその事は聞いた。本来なら国が主導で調査せねばならない所、苦労を掛けるな...... 」

「いえ、そんな...... 我等は暫く、このペンドラゴで調査をしますのでよろしくお願い致します」


俺達5人はゼルベル陛下達の前まで歩みを進めると、作法に則りサッと片膝をついた。

チラッと横目でマリア達を見たが、大丈夫そうだな。


ゼルベル陛下の声には以前感じた覇気の様なモノが少し弱まっている気がする......


それも仕方ないか...... 今この国を襲っている事案を考えれば、ゼルベル陛下の心労は計り知れないものがあるだろう......


「うむ...... 今、ラルキア王国は国家防衛戦闘態勢、並びにギルド本部からギルド条約第2項第1条が発令されておる。

軍は被害にあった駐屯地への増援や万が一に備え、一部を国境に向かわせ...... ギルドも同様に被害の沈静化と周辺地域の治安維持を任せている......

国が主導で調査しようにも、人出が足りないのが現状だ。その方らの力、頼りにしておるぞ」

「「「「「はっ!」」」」」

「時にミカドさん。そこの3人は...... 」


俺達の返事を聞き、満足そうに頷いたゼルベル陛下の横に立つユリアナが興味深そうにマリア達に目を向けた。


「は、はっ! ノースラント村のドラル・グリュックと申します!」

「同じく! ノースラント村のレーヴェ・グリュック!」

「ノースラント村のマリア・グリュック...... 」

「彼女達は今回の調査に協力してもらう事になりました子達です」

「なるほど、其々種族が違うのに名字が同じ所を見ると......孤児院の出か...... よろしく頼むぞグリュック3姉妹」


ユリアナを始め、ゼルベル陛下達の視線を受けたドラル達は其々作法に従って自己紹介をした。


ゼルベル陛下は直ぐにマリア達の関係性を見抜き、静かにそう言った。


「「「はい!」」」

「私からもよろしくお願いします。悪戯に民を虐げる者を許してはおけません!」

「頼りにしてますよ!」

「はい。必ず犯人を見つけ出します!」


ユリアナとローズの言葉を受けた俺は、ゼルベル陛下達の安否を確認し、暫くペンドラゴで調査をする事を伝えてラルキア城を後にしたのだった。



▼▼▼▼▼▼▼▼



「よし、ゼルベル陛下達への挨拶も済んだ事だし、早速調査開始だ!」


ラルキア城を後にした俺達は、ノースラント村から乗ってきた馬車に再度乗り、とある場所に来てもらった。


「えっと...... 『ラルキア王国 魔術研究機関』ですか?」

「魔術研究機関? なんだそれ?」

「魔術研究機関は魔術を研究したり、魔獣の生態調査をする所...... 」


馬車から降りた俺達の目の前には、レンガ造りで5階建ての頑丈そうな建物と、その建物を取り囲む様にして建てられた立派な門構えが俺達を見下ろしていた。


門の上には此処が、ラルキア王国の魔術研究機関だとわかる様に、魔術研究機関の名前と紋章が彫られた大きな石の表札が飾られている。


「ミカドさん、なぜ魔術研究機関に来たんですか?」


立派な建物を眺めていると、ドラルが不思議そうに首を傾げながら俺を見上げてきた。

勿論、真っ先にここに来たのには目的がある。


「ミラ達の話を聞く限り、今ギルド本部やラルキア王国軍の総司令部に行っても大混乱してる筈だ。

そんな状態の時に行っても、まともな情報が手に入るとは思えない。

だから、まずは混乱が少ないだろう魔術研究機関に来て、アルトンが持っていた丸い物の正体を知り合いに調べてもらおうと思ってな」

「なるほど。さすがミカドさんです!」

「あ、魔術研究機関の知り合い...... ってもしかして!」

「あぁ、セシルの考えてる奴だよ」

「おい、お前達! 此処で何をしている!」


俺が何故この魔術研究機関に来たのかを皆に説明していると、後ろから野太い声で怒鳴られた。


声のする方を向くと、魔術研究機関の制服と思しき白い服に身を包んだ男性の2人組みが、棍棒を手にこちらに向かって歩いてきた。


2人は胸に警護隊と書かれた小さなプレートを付けているから、魔術研究機関の警備員なのだろう。


「見ない顔だな...... ここに何の用だ」


2人組みの男性の内1人が棍棒を肩に担ぎながら俺達の方を睨む。

何か虫の居所が悪いというか...... イライラしている様に感じる......

この人達もさっきの近衛兵達の様に、不審者に対していつも以上に気をつけているみたいだ。


「俺達5人はこう言った者です。ノースラント村ギルド支部は、今ラルキア王国全土で起こっている爆破事件に、特殊な魔法具が使われている可能性が高いと考えています。

俺達はその可能性の有無を調べる為に、ここに所属しているティナ・グローリエに会いに来ました」


俺は先程近衛兵にした様に、門番さんに依頼書を見せた。


「ふむ...... ノースラント村ギルド支部発案のラルキア王国 同時爆破攻撃事件 独自調査か...... この依頼書を持っているという事は正規の依頼なのだろう...... 失礼しました。貴方がミカド・サイオンジ様ですか?」


依頼書の効果は、ここでも問題なく発揮された。

近衛兵の人達にも、ある程度の効果があったから大丈夫だと思っていたけど。


「はい。俺が調査隊の隊長の西園寺 帝。他調査隊のセシル・イェーガーにドラル・グリュック、レーヴェ・グリュックそしてマリア・グリュックです」

「確認しました。ミカド様はティナ技術官に会いにいらしたのですね?」

「はい、ティナはいらっしゃいますか?」

「えぇ、昨晩からいらっしゃってます。

念の為、ティナ技術官に貴方方と面識があるか確認してまいりますので、少々お待ちください」


そう言うと、警備員は相方を残し立派な門を潜って、レンガ造りの建物へと入っていった。


それから数分後......

ドタドタ! と激しい足音が聞こえ......


「ミカド! 今回の事件の手掛かりを見つけたって本当!?」


銀髪のサイドテールを揺らしながら、凄い勢いでティナが俺に掴みかかって来た。


「待て待て待て! ちょっと落ち着け! まだそれが手掛かりになるかどうか分からないから、お前に会いに来たんだよ!」

「どういう事......? あら、セシルも一緒なのね? おはよ」

「あはは...... おはようティナちゃん。えっと、実はね...... 」


俺の胸ぐらを掴みながら、ブンブンと激しく揺さぶってきたティナを何とか宥めると、息を整えている俺に変わって、セシルが何故ティナに会いに来たのかを大まかに説明し始めた。


「つまり、ミカド達は今起きている爆破事件を調査する様に、ノースラントギルド支部から依頼された。と...... 」

「そうだ。それで俺達はこの爆破には、特殊な魔法具が使われているんじゃないかと思っている」

「......言いたい事は分かったわ。ここじゃ目立つから私専用の研究室に行きましょう」

「それが良い」


セシルの説明を聞いたティナは、俺達がここに来た理由を直ぐに理解してくれた様だ。

第一印象はミラに負けず劣らず酷かったが、この頭の回転の速さは流石だ。


「所で、そこの3人は誰? 初めて見る顔ね」


ティナ専用の研究室に着いた俺達は、室内に置かれていた正方形の机に備え付けられた椅子に腰掛けた。


すると対面する様に椅子に座ったティナが、微かに好奇心を出し目をキラキラさせながら俺とセシルの横に座るマリア達を見つめている。


「この子達は今訳あって一緒に暮らしている黒龍人のドラル、獅子の獣人のレーヴェ、エルフのマリアだ。

実は爆破に魔法具が使われているかも知れないと気づいたのはこのマリアなんだよ。

それにこの3人は、ノースラント村のギルド支部を爆破した男の子と知り合いだった..... だから、この事件の調査の力になると思って連れて来たんだ」

「そう言う事...... ドラルにレーヴェ、マリアね。私はこの魔術研究機関に所属している中級魔術師のティナ・グローリエよ。よろしく」

「み、ミカドさん...... ティナさんと知り合いと言っていたのでまさかとは思いましたが...... こ、この人って魔龍石を発見した才女ティナ・グローリエさんですか!?」

「あら、私を知ってくれてるなんて光栄ね! いかにも! 私が才女! ティナ・グローリエよ!」

「おぉ! この人の事、幸福の鐘の授業で習ったぞ!」

「ミカド...... 人脈が広い...... 」

「こんな凄い方とお会い出来るなんて!」


普段通りに接する俺やセシルを他所に、ティナの名前を聞いたドラル、レーヴェのテンションが急に上がった。マリアは何時も通りだけど......


あれ、もしかしてティナって有名人?


「っと......そんな事より、マリアが爆破には魔法具が使われたと気付いた根拠はあるの?」


才女と煽てられ、盛大にドヤ顔を披露していたティナだが、直ぐに落ち着きを取り戻しマリアの方を真剣な顔で見つめる。


事が事なだけに、巫山戯ている時間はないからな......


「爆発の直前、アルトンが持っていた丸い物に魔力が注がれるのが見えた...... 多分それが原因で爆発したと思う...... 」

「アルトン? ノースラントギルド支部を爆破した人の名前かしら?

それに魔力が注がれるのが見えたって...... 」

「アルトンは僕達3人と一緒の孤児院で育ったんだ。

アルトンは魔術師の才能があったから孤児院の皆に期待されてたんだけど...... 」

「アルトンは貴女達の家族だった訳ね...... ふぅん...... エルフは感覚が凄いと聞いた事があるけどまさか魔力の流れまで感じ取れるなんて...... 」

「マリアは普通のエルフより、気を感じ取れる感覚が優れているんです」

「なるほどね。魔力の流れを感じ取れたのも納得だわ......

マリアの言った事が確かなら、アルトンが持っていた丸い物は魔力を流し込まれると内部の何か...... 恐らく魔龍石の可能性が高いけど、それが何らかの原因によって暴走し爆発したのかも...... 」


ノースラント村ギルドを爆破したアルトンとの関係、そして何故今回の爆破に魔法具が使われている可能性があるかと感じた根拠を説明すると、ティナは考える人の様な姿勢になりブツブツと何かを呟いている。


「そう言えば、ベルッセルのギルド支部で不審者が所持していた丸い不審物を回収したって言っていたわね......

ミカド! もしかしたらその丸い物の正体が分かるかもしれないわ!」

「本当か!」


勢い良く立ち上がったティナが自信に満ちた顔で身を乗り出しながら声を荒げた。


ティナなら助言くらいはしてくれると思っていたが、これは嬉しい誤算だ。

ティナがあの爆破物と思しき物の正体を調べている間に俺達は黒幕の調査に専念できる。


「実は...... ベッゼルって都市のギルド支部でギルドの職員が不審者を捕まえたらしいんだけど、その不審者がミカドやマリアが言った様な丸い物を持っていたらしいのよ。

この丸い物が明日、魔術研究機関に送られてくる事になっているから、私の方で仕組みを調べられる様にここのトップのダルタス局長に頼んでみるわ!」

「おぉ! そいつは助かる! ありがとうティナ!」

「ありがとうティナちゃん!」

「「「ありがとうございます!」」」

「ちょっと、まだ私が調べられるって決まった訳でも、仕組みが分かった訳でもないのよ?

それに今からダルタス局長に許可を取りに行かないと...... 」

「なら早速そのダルタス局長さんの所に行かなきゃ!」

「はぁ...... セシルの言う通りね...... 正直あの人と顔を合わせるのは苦手だけど、そんな事も言ってられないし。

それじゃ皆、ダルタス局長の所まで行くわよ!」

「「「「「おぉ〜!」」」」」



▼▼▼▼▼▼▼▼



「お初にお目にかかる。私は魔術研究機関の局長ダルタス・マーラルだ。

諸君らは今、ラルキア王国全土で起こっている爆破事件を調査している、ノースラント村ギルド支部主導の調査隊という事で良いか?」


ティナに案内され、魔術研究機関のダルタス・マーラル局長が居る局長室に来た俺達は、何やら書類にサインしていた部屋の主に自己紹介をした。


このダルタスと言う男性は一組織のトップらしく、冷静沈着。知的で落ち着いた印象を受ける。


ティナはこのダルタスの事を苦手だと言っていたが、ダルタス局長の大人びた雰囲気や、落ち着いた物腰は俺にとっては好印象だ。


魔術研究機関のトップだから、礼儀作法や言葉使いには気を付けよう。


ダルタス局長の印象を感じながら俺は言葉を紡いだ。


「はい。本日は爆破事件の調査の一環でこちらにお邪魔させていただきました」

「 と言うと?」

「隣にいるティナ・グローリエには既に知らせましたが、此度の爆破事件には特殊な魔法具が使われている可能性があります」

「ほぅ...... 」

「ここからは私が...... 現段階ではあくまで可能性の域を出ません...... ですが明日、ベッゼルギルド支部職員が不審者から押収した不審物がこちらに届けられる事になっていたかと思います。

私達はその不審物が、爆破する特殊な魔法具と考えています。

本日はその不審物の検査を私が行える様、許可を取りに来た次第です」

「そんな事か...... よろしい許可しよう。

並びにティナ技術官は今後、ミカド・サイオンジ達の調査に協力する様命じる。

調査に協力している間は、魔法玉の改良は後回しで良い。検査を行い、わかった事があれば私にも取り敢えず報告する様に」


予想に反し、ティナの要望はすんなり許可された。


だが、この事件の解決の糸口になるかも知れない案件なのに、ダルタス局長は『そんな事か』と興味なさげに吐き捨てた。


この人は事件の事に興味がないのか......?


まぁ、ひとまず許可は取れたから良しとするか......


「承りました」

「用は済んだか。済んだなら出て行って欲しい。まだ仕事が残っているのでな」


ティナを俺達の捜査に協力する様に命じたダルタス局長は、その後急に素っ気なくなり俺達は仕事があるからと部屋を追い出されてしまった。


俺はこの人は冷静で落ち着いた雰囲気の人かと思っていたが、実際に話してみてこの人は自分が興味を持った事以外はどうでも良いと考えているタイプの様だとハッキリ分かった。


第一印象こそ良かったが、ちょっと彼を見る目が変わってしまいそうだ。


「なんと言いますか...... 冷淡な方でしたね...... 」

「あぁ。なんか人間らしさってのが感じられなかったな...... 」

「レーヴェ...... ティナの前」

「っと、悪り...... 」

「良いのよ。私も同じ様に感じてるから」


ダルタス局長の部屋を出て、ドラルとレーヴェが小さく呟いた。どうやらドラル達もダルタス局長に対して、俺と同じ印象を受けた様子だ。


ティナもティナで、マリアがフォローしても気にするなと微かに笑みを浮かべている。


なんかダルタス局長が可哀想になってきた......


「ま、まぁこれでティナちゃんが魔法具の検査と調査に協力してくれる事になったんだよね?」

「えぇそうなるわ。よろしくね」

「っし! 今の所は順調だな! この調子で一気に黒幕を見つけるぞ!」

「「「「「おぉ〜!」」」」」


「失礼。人違いでしたら申し訳ありませんが、貴方はミカド・サイオンジ殿ですか?」

「えっ?」


新しく仲間が増え、改めて気合を入れ直すと不意に後ろから良く通る落ち着いた声で名前を呼ばれた。


驚き振り返ると、少し離れた所に10人の部下と思しき男性達を引き連れた初老の男性が、静かに俺を見つめていた。


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