第56話 調査開始





「そうか! 引き受けてくれるか!ありがとうミカド!」

「ありがとうございますミカド様!」


ミラからこの【爆破事件】に着いての調査を依頼された俺は、満足に行動出来なくなるだろうギルド側のミラやアンナに変わり、俺に任せろと言う様に胸を叩いた。


ミラとアンナは安心した様に、笑みを浮かべている。


「正直な所、ミカドやマリア、レーヴェ達がこの件に関わっているのではと疑っていたんだ...... 疑って申し訳なかった」

「......仕方ないさ...... タイミングがタイミングだ。

それにミラは今ここのトップなんだろ? 怪しければ疑う。トップなら当たり前だ」


俺達を疑っていたと、言わなければ分からなかったのにミラは律儀に謝罪し、静かに頭を下げた。


そう言えは前もこんな事があったな......


ミラと初めて会った時に盗賊と勘違いされ謝罪された事を思い出しつつ、疑われていた事に俺は妙に納得してしまった。


まずマリア達に関して言えば、この自爆事件が起きる僅か2日前にこの村に来たばかりだった事。


そして自爆した男の子、アルトンと繋がりがあった事。


俺の場合は、アルトンが持っていた物が爆破すると分かってしまった事。


これだけ怪しい点があれば疑われるのも当然だ。


だが、ミラ達は俺達を信じてくれた。

ここで真面目に依頼をこなし、培った信頼関係をミラは信じてくれたのだ。


「そう言ってもらえると助かる。さて...... 早速だが、改めて依頼の詳細を詰めよう」

「あぁ。ダラダラしてる時間もねぇしな...... あ、その前にドラルとセシルを呼んでくれないか?

2人にはマリア、レーヴェと一緒に捜査のサポートをして貰いたいんだ」

「分かった。アンナ! ドラルとセシルを呼んで来てくれ。

それとついでに使えそうな資料があれば一緒に持って来て欲しい」

「わかりました!」


アンナが応接室を飛び出してから数分後、セシルにドラルそして両手に紙の束を抱えたアンナが戻って来たので今回の依頼の詳細を詰める事になった。


「この爆破事件の事を調査するの? わかった! 私に出来る事なら何でもするよ」

「是非手伝わせてください! アルトンやギルドをこんな目に遭わせた人を見つけて、落とし前を付けさせます!」


なぜ此処に呼ばれたかよく分かっていないセシル、ドラルに今回ラルキア王国各地で起こった爆破事件の調査をする事になった事を伝えると、初めは困惑していた2人だが、セシルは優しく微笑みながら...... ドラルは頼もしく胸を叩きながら力を貸してくれると言ってくれた。


「よし、セシル達も手伝ってくれると同意したな...... では早速だが調査の方針や、ミカド達にやって貰いたい事を纏めよう。

まず、職員が報告した被害に遭っているギルド支部やラルキア王国軍の軍事施設がある場所なんだが...... 」


こうして俺にセシル、マリア、レーヴェ、ドラルの5人による......

【ノースラント村ギルド支部発案 : ラルキア王国 同時爆破攻撃事件 独自調査(仮)】

が動き出した。


俺達はこの依頼を受けている間、ノースラント村ギルド支部長代理ミラ・アレティス直轄の【ノースラント村ギルド支部 直轄 同時爆破事件調査隊(仮)】という肩書きになり、調査し分かった事があれば逐一ミラに報告する事になった。


ちなみにこの長ったらしい事件名と調査隊の命名はミラだ。


もうちょい事件名やら調査隊の名前やら短くならなかったとか?

長くて覚えにくいったらありゃしない。


なぜ事件名や調査隊の名前の後に(仮)が付くのかと言うと、まだラルキア王国やギルド上層部からの正式な指示は無く、今回の調査はあくまでノースラント村ギルド支部の独断、かつ独自での調査となるので正式な指示が出るまで(仮)を付けたのだとか。


まぁ、そこら辺の組織の仕組みやらは俺には分からないし、分かった所でどうしようもないから俺達は自分に出来る事を全力でやるだけだ。



▼▼▼▼▼▼▼▼



「つまり...... 私達は昨日の夜から今朝の朝にかけてラルキア王国の各地で起きたギルド支部と、ラルキア王国軍の駐屯地を爆破した黒幕を探すって事で良いんだよね?」

「そうだ。明かりの家リヒト・ハウスの事も気になるが、まずはこっちの問題を片付けねぇと」

「そうですね‥‥‥ まさかギルドや軍が攻撃を受けるなんて‥‥…」



分厚い雲が空一面を覆う午後14:30。



ノースラント村でミラから今回の爆破事件に関する必要と思われる用語の説明をしてもらったり、依頼の主目的を明確化した俺とセシルにマリア、レーヴェ、ドラルの5人から成る、【ノースラント村ギルド支部 直轄 同時爆破事件調査隊(仮)】は、ミラが特別に用意してくれた馬車に揺られながら、ある場所を目指していた。


「あぁ。しかも、この爆破事件の手際や規模から考えれば、誰か爆破を指示している黒幕が居るかも知れない。

それを調べると同時に、可能ならアルトンが持っていた爆弾の仕組みを調べたい」

「なるほど...... 僕達は爆破の影響とギルド条約第...... なんとかかんとかで、自由に行動出来ないミラ達に変わって行動する訳だ」

「レーヴェの言う通りだ。ちなみにレーヴェ、ギルド条約第2項第1条な」


この爆破事件を調査するに当たり、俺達5人はミラ&アンナ指導の下、国家防衛戦闘態勢やらギルド条約第2項第1条やらの詳細も覚えていて損は無いと教え込まれた。



まず、国家防衛戦闘態勢とは......

【丞相】と呼ばれる政のトップを務める政治家を初め、ラルキア王国軍の上層部達が話し合い、その話し合いを元にゼルベル国王が命令する大規模な国家作戦命令の1つだ。


作戦内容はそのまま読んで字の如くで、ラルキア王国内で先に述べた丞相や軍人、ゼルベル国王が敵対勢力の大規模な攻撃や、撹乱工作が起こったと判断した場合に伝達される、国土防衛する事を主目的とした物だ。


国家防衛戦闘態勢が伝達されると、各地のラルキア王国軍は担当区域の駐屯地や城塞都市で篭城作戦などを展開し守備を固め、攻めて来た敵対勢力に出血を強いて王国軍本部の反撃の準備や、援軍が到着するまでの時間稼ぎをするように命令されている。


要は、ラルキア王国軍は担当地域で治安維持をしつつ、敵対勢力が攻めて来れば防戦し民間人を守れって感じの命令らしい、

ちなみに軍に属さない民間人の場合は、この命令が発令されれば行動は著しく制限されるとか。


次にギルド条約第2項第1条だが......


これは人間大陸のほぼ全ての国にあるギルド支部間で定められている条約で、そのギルド支部が置かれている国が何らかの理由で攻撃を受けた、又は受けたと思しき事態になった場合のみ、ギルド支部は置かれている国の正規軍と協力し、その支部周辺地域の治安維持に務める。


( 尚、ギルド職員・ギルド組員は他国に侵攻する軍に、侵攻する国の詳細な地形などの情報を教えるなど、積極的に侵攻を援助し戦争に関わる行為を固く禁止している。)


簡単に言えば、普段から自警団的扱いをされているギルドだが、不測の事態が起こった場合に限り、国の正規軍と協力し治安維持にのみ協力出来る事をハッキリと名文化している物だ。


ミラ達はこのギルド条約第2項第1条が発令された為、ノースラント村周辺の治安維持に人手を取られ、更に爆破により生じた人的被害などの影響で、爆破事件の犯人を調査する為の人手を割く事が出来ず、正に猫の手も借りたい状況だったらしい。


余談だが、ミラ発案のこの依頼はギルド条約にある『ギルド職員は他国に侵攻する正規軍に、侵攻国の詳細な地形などの情報を教えるなど、積極的に侵攻を援助し戦争に関わる行為を固く禁止する。』に触れないのか? と聞いてみた所......


「これはあくまで調査だ。それにまだどこの国とも正式に戦争になった訳じゃないし、侵攻の援助もしていない。

人によってはグレーゾーンだと言う者も居るだろうが黒ではない。つまり条約の観点から見ても私の行動は白だ!」


と自信満々の顔付きだった。

屁理屈というか、なんというか......


「わ、わかってるよ! ちょっと忘れただけだ! 悪かったな!」

「別に攻めてる訳じゃないんだけど...... あ、待って殴らないで、痛いから! 凄く痛いから!」

「レーヴェ、それ以上はダメ。落ち着いて......」

「うっ..... ごめん...... 」

「ん、それでミカド...... なんで私達はペンドラゴに向かってるの?」

「それは、私も気になっていました。ペンドラゴにはギルド本部やラルキア王国軍の総司令部もありますが、まだどちらも爆破の被害を受けていないみたいでしたし......

私はてっきり、爆破の被害に遭った各地のギルド支部や軍の駐屯地に行くのかと思ってたんですけど...... 」


ミスを指摘され、恥ずかしそうに顔を首まで赤くしたレーヴェの照れ隠しパンチを食らっているとマリアがレーヴェを嗜めて、小首を傾げ頭にハテナマークを浮かべた。


ドラルも疑問を感じていたようで、マリア同様に小首を傾げる。


そう、俺達ノースラント村ギルド支部 直轄 同時爆破事件調査隊(仮)は今、ラルキア王国の首都 王都ペンドラゴに向かっている。


各地の被害を知らせに来たギルド職員の報告によれば、各地のギルド支部や軍の駐屯地は爆破攻撃を受けているが、何故か王都ペンドラゴにあるギルド本部と王国軍総司令部は爆破攻撃を受けていない。


普通なら撹乱攻撃 ( 今回の場合はテロに近いが...... ) を仕掛ける側は、邪魔と思われる組織の本部を狙って攻撃し、下部組織の指揮系統を分断するのが定石の筈だ。


だが、犯人達は末端とも呼べる軍の駐屯地やギルド支部に攻撃を仕掛けているにも関わらず、これらの最重要拠点には爆破を仕掛けて来ていない。


王都の警備が厳重で、犯人が王都に侵入出来なかった可能性も充分に考えられるが、どうも理由はそれだけでは無いような気がする。


だから、まずはその違和感を解消する為にギルド本部やラルキア王国軍総司令部がある王都ペンドラゴに向かっているのだ。


まぁ、ペンドラゴに向かっている理由はそれだけじゃ無いんだけどな。


「まぁ、色々と考えがあってさ。とにかく俺を信じて付いて来て欲しい」

「わかった...... 」

「はい!」

「おう」


俺の言葉を聞いて、力強く返事をしてくれたマリア達の目には俺を信じるという気持ちがハッキリと見て取れた。


全く...... 本当に良い子達だな......


「あ! 皆ペンドラゴが見えて来たよ!」


セシルが馬車から見える窓から外を眺め前方を指差す。

馬車の窓の外には、高く聳え立つ城壁がハッキリと見えた。


初めてペンドラゴに来た時はゼルベル国王との謁見で、2回目の今回は爆破事件の調査か...... まさかこんな形でまたペンドラゴに来る事になるとは思ってなかったな......


「よし! 仕事の時間だ!!」

「「「「了解!」」」」


こうして俺は、2度目となる王都ペンドラゴに足を踏み入れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る