第32話 魔法具



ロルフと一悶着あった後。俺は小鳥達の囀りをBGMに、日課の素振りと剣術の訓練朝の部を終わらせ、木陰に座りながら汗を拭っていた。


いつもならここで訓練は終了なのだが、今日からは先日召喚したベレッタを使った射撃のイメージトレーニングも一緒に行っていく。


何故イメージトレーニングかというと、まず俺の想像した物を形にする能力で召喚出来る弾の数に制限がある事と、朝っぱらからどデカイ発砲音を出して、セシルやロルフを起こさない様配慮した為だ。


俺は太刀を鞘に入れ木に立てかけると、隣に置いておいたベレッタ92FSを手に取る。マガジンに弾は入っていない。


マガジンから出した弾は、俺の部屋に置かれている机の1番下の引き出しに仕舞っている。

セシルが勝手に触る事は無いと分かってはいるが、用心の為人目につかない様な所に隠しておいた。


木陰に座ったまま、俺はまず各部に異常が無いかを調べる為に一旦ベレッタを分解フィールドストリップする。

この様に分解して、異常が見つかれば専用工具等を召喚してメンテナンスをしなければならないが、今回は特に異常は見つからなかった。


このベレッタという銃は、弾を5000発以上発射すると銃の上部、スライドと呼ばれる部分が必ず壊れる...... という話がアメリカ軍等で聞かれる事がある。


実銃のベレッタを長期間持つのは今回が初めてなので、この話が本当かどうかわからないが、ベレッタを採用しているアメリカ軍が一定数射撃したら部品を交換する事を義務付けている事から、俺も用心してそれに習いベレッタを使う前には点検し、余裕を持って2000発以上撃ったら使用を極力控えようと考えた。


後々、こう言った整備の為の換えの部品やメンテナンス道具とかも召喚しないとな.....


ベレッタに異常が無い事を確認した俺はベレッタを組み立てる。


マガジンに弾は入っていないが、弾が入っているつもりでイメージトレーニングをする。

組み立て終わるとマガジンに弾が入っていない事を再度確認し、ベレッタに装填。スライドを引き、ホールドオープンしたスライドを戻し、適当な木に狙いを定めてリアサイトを覗く。


「すぅ...... はぁ......」


深く深呼吸し優しく、絞るようにトリガーを引く。


カチッ。


ハンマーと呼ばれる、弾の後方にある火薬を爆発させる為の部分が落ち、乾いた音を発した。


うん、味気ない。


せっかく本物の銃が手元にあるのに弾を撃てない...... 日本ではモデルガンを持っているだけで満足だったが、実銃を持ち、かつ弾も有るのに自由に撃てないのは少々不満だ。

いや、弾は有限だし俺の事よりセシルやロルフの事を第一優先で考えよう。


2度とベレッタを撃てない訳じゃない。今は我慢だ。


頭を振り気持ちを切り替えた俺はイメージトレーニングに集中した。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼



無心でベレッタで狙いを定め、トリガーを引く、狙いを定めてトリガーを引く、この動作を15回続けたらマガジンを交換するという動きを、俺は永遠と繰り返していた。


まるで某アニメの主人公の様に、「目標をセンターに入れスイッチ......」とか言い出しそうな雰囲気だったなと、後から思ったくらいだ。


そんな動作を繰り返していると、後ろから声が聞こえた気がした。


「・・・ど・・・」

「み・・・ど!・・・」

「ミカドぉぉお~!!!」

「うぉあ!?」


いきなり大きな声で名を叫ばれた俺は、驚いてベレッタを落っことしてしまった。


あっぶねぇ!もし弾が入っていたら...... そう思うと心臓がバグバグと鳴った。

1回深呼吸して気持ちを落ち着かせた俺は後ろを振り向き、俺の名を呼んだ声の持ち主の方を見た。


「セシル..... ビックリさせないでくれ......」

「ご、ごめん...... でもミカドが何度呼んでも反応しないから!」


後ろを振り向くと、5m程離れた所に、セシルがまだ眠そうなロルフを抱きかかえながら此方を見ていた。

ロルフは耳元で大きな声を出されたのに、うつらうつら舟を漕いでいた。


余程眠いのか...... 寝る子は育つってか?


そんな1人と1匹を見て、俺は地面に落ちたベレッタを拾い上げ、付いた土を払い落としながらセシル達の元に行く。


その際に腕に付けている腕時計を見てみると針は09:00を差そうとしていた。

えっと...... 俺が素振りを終えたのが確か08:00頃だから、1時間近く俺はイメージトレーニングしてたという事になる。


集中しすぎたな......


俺は頭をかきながら苦笑いする。


「あ~...... 悪い。俺って集中すると周りが全く見えなくなるんだよ」

「もう、物事に集中出来るのは良い事だけど、程々にしなきゃダメだよ?」


セシルは左手を腰に当て右手で俺を指差しながら見上げてくる。

今のセシルの姿を見ると、小さい子供が大人ぶっている様に見えて微笑ましい気持ちになってくる。


俺とセシルの身長差もあってセシルは妹みたいに見えるな...... 俺に妹がいればこんな感じなのだろうか......


「ん、気をつけるよ」


そんな愛くるしいセシルの姿を見て微笑みを浮かべると、セシルの頭に手を置きキラキラと輝く金髪を撫でた。


セシルの髪は丁寧に手入れされているのが良くわかる......

サラサラとしてて手触りがとても心地よかったし、良い香りがした。


そんな撫でられているセシルは顔を赤らめ「あっ.....えへへ......」と照れた様に笑っていたが、俺の目線に気づきハッと目を見開くと顔を背け


「わ、分かれば良いの!」


と言って、ロルフを抱えたまま足早に家の中に入っていった。

セシルよ。ニヤけながら言っても迫力が無いぞ。


「ほらミカド!早く来てよ!朝ごはんもう出来てるんだから!」

「了解、今行くよ」


顔を微かに赤らめたままのセシルを見て、クスッと笑みを零した俺は、木に立てかけておいた太刀を持って家に入った。


リビングに行くと既に机の上には朝食が用意されていた。

今日は卵や野菜、ハムを使ったサンドイッチにオニオンスープだが、朝食は既に冷めてしまっている。 俺がアホみたいにイメージトレーニングを続けてた所為だ.....


「悪い...... 朝食冷めちまったな.....」

「ん~大丈夫だよ。ちょっと待ってて」


セシルはそう言うと家の奥に入っていった。

そして5分後。セシルは手に赤い小石のような物を持って戻ってきた。


「お待たせ~。ちょっとこれを探すのに手間取っちゃって」


えへへと、微かに眉を下げて笑うセシルが手に持っている物を俺に差し出した。


セシルの手に乗っていた物は直径5cm位の紅蓮の小石だった。


料理が冷めたって話をしたのに、セシルは何でこの小石みたいな物を持ってきたんだ?


俺の聞きたい事を察したらしいセシルが得意げに説明を始める。


「これはね、【火龍石】って言う魔法具の1種なんだ。

魔法具って言うのは文字通り、魔力の力で動く道具のことなんだけど、この火龍石は火を簡単に起こす事が出来る魔法具なんだよ!

今みたいに食事を温めたり、直ぐに火が必要な時には役に立つんだよ~」

「へぇ!そんな物があるのか!」

「うん、と言ってもこの火龍石とかは高いからあんまり買えないんだよね......

それにこれを使うと直ぐに火力の高い火を起こせるけど、火なら自力でも起こせるから、余り使ってなかったんだ」


セシルは簡単な説明をしながら、机に並べられたオニオンスープやサンドイッチを回収して台所に持って行った。


俺もセシルの後に続いて台所に入る。


今にして思えば、台所に入るのは初めてな気がする...... 食事はいつもセシルが作ってくれたから、台所に入る事が今まで無かったのだ。


台所にはオニオンスープが入った小鍋とフライパンが2口、小さな竈かまどの上にそれぞれ置かれていた。


竈の正面はくり貫かれており、ここに薪等を入れて火を起こすようだ。

台所は火を扱う場所の為、防火性を重視して辺りはレンガで作られていた。


セシルは小鍋にスープを戻し、フライパンにサンドイッチの具がこぼれない様に乗せると、まずは小鍋が置かれている竈の下に先ほどの【火龍石】を置いた。

するとセシルは火打石を取り出しカッ!カッ!と火打石同士をぶつけ合い火花を発生させた。すると......


「おぉ!」


火打石で出た火花が火龍石に触れると、その瞬間、火龍石が赤く煌めきボゥ!と火を噴いた。どう言う原理で炎が出てるのかは知らないがこれは凄い。見てて面白い。

しかも直径5cm程度の石なのに、出る火の威力は想像以上だ。

数十秒後には、小鍋に入れたスープがグツグツと沸騰するくらい強力な火力だった。


「もう良いかな?」


セシルはスープが十分に温まったのを確認すると、金属製のトングを水に浸し、燃える火龍石を竈から取り出た。

すると炎を出していた火龍石から炎の放出が止まった......


水で濡らすと、この炎は消えるのか?


セシルは取り出した火龍石を、今度はフライパンが置かれている竈の下に入れ、先ほどと同じ様に火打石で火花を火龍石に当てる。


再び火龍石から炎が出た。

熱を与えると炎が出る仕組みか......


セシルは手際よく、サンドイッチの両面に丁度良い焦げ目を付けると火龍石の炎を消した


「どう?便利でしょ!」


セシルはどんなもんだと笑いながら俺の方を見る。これは確かに電子レンジやコンロが無いこの世界では便利だ。

たった1、2分で冷めていた料理がまるで出来たてホヤホヤだ。


この火龍石には他にも色々と利用できそうだな......


「あぁ!こりゃ確かに便利だな」

「ふふっ、そうでしょ?でもこの火龍石に含まれてる魔力には限りがあるから、あんまり使えないんだけどね。さ、食べよう!」


この世界の魔法具という、新しい発見をした俺は、セシル達と温かい朝食を食べる。

その後、着替え等の準備をした俺とセシルはロルフには留守番をしてもらい、ノースラント村ギルド支部に向かい出発した。




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