第18話 別れ
俺は太刀を杖の様に使い立ち上がると、ダンさんの元に歩み寄る。
「やったな......アンちゃん......」
ダンさんは近くに生えている木に寄りかかる様にして座り、ルディに噛み付かれ出来た傷を携帯式の包帯で応急処置をしている真っ最中だった。
包帯の端と端をきつく縛ったダンさんが、俺へ話しかけてくる。包帯に染みる血が痛々しい......
「そ、そんな事より!大丈夫ですか!?」
「あぁ......大丈夫だ。急所は外れてたから、見た目の割りに大した傷じゃねぇよ」
へへっ...... と、ダンさんは力無く微笑んだ。包帯がどんどん赤く染まっていったが、ダンさんが大丈夫と言うなら信じるしかない......
「立てますか?」
「あぁ......」
脱力状態から回復した俺は、杖代わりにしていた太刀を鞘に収めるとダンさんに手を差し伸べる。手を取って立ち上がったダンさんの顔に苦悶の表情が浮かんでいた。大丈夫とは言っていたがやはり心配だ。
一先ず拠点に戻ってダンさんの治療をしなければ。
どこまで役に立つかは分からないが、拠点にはこの様な事態に備え皆で持ち寄った傷薬や、痛み止め等が置いてある。ただ包帯できつく縛っただけでは感染症などになる危険が高い。
出来るだけ早く戻らねば。
「アンちゃん...... ルディを狩った証拠になる牙の剥ぎ取りを頼めるか?あと使えそうな皮も剥ぎ取っておいてくれ......」
「で、でも!まずは先にダンさんの手当てをしないと...... それにみんなの供養も......」
「俺の事は大丈夫だって。それにあいつ等の供養はルディから剥ぎ取りが終わった後だ...... この地域の風習でな...... 狩りで獲物と狩人両方死んだら、先に獲物から恵みを貰い、死んだ狩人はその後ゆっくり葬ってやるんだ...... 」
「わかりました...... でもダンさんは拠点に戻っていてください......皆の供養はしておきますから」
「あぁ...... すまん......よろしく頼む」
出血により顔色が悪いが、何とか1人で歩き拠点に向かうダンさんを見て俺は、何故かもう、ダンさんと会えない様な気がした。
そんな不安を振り払う様に、俺はダンさんに背を向けて息絶えたルディに向かい、1歩踏み出した。
なぜ俺は気が付かなかったのか。
ルディが息絶える間際に発した遠吠えの意味を。
ダンさん達から教わった茶狼ブラウンヴォルフの習性を。
踏み出した足が地面に触れると同時に、後方でドサッと、何かが倒れる音がした。
そして、音と同時に俺を射抜くような鋭い殺意が背中を射抜く。
茶狼・ブラウンヴォルフは成長すると体毛が白く生え変わり、白狼・ヴァイスヴォルフと呼ばれるようになる。
これは姿だけの変化であり、本来の習性の【2頭~4頭の家族単位で行動する】と言う点は、茶狼でも白狼でも変わらない。
そう。ルディもこの習性にそった生態なら、1匹だけで行動している筈がない。
気が付いた時には遅かった。
慌てて後ろを振り返る。
そこには胸から血を流し仰向けに倒れるダンさんと、ルディとは別の白狼が居た。
其奴はルディより小柄だが、負けず劣らず立派な体格をしており傷跡も無い、見事な毛並みをしていた。
白い鬣を靡かせ、其奴は俺を睨みつける。
「
声を出すと同時に、新たに現れた白狼の上に例の名前とレベルが浮かび上がる。
【ヴァイスヴォルフ。レベル:18】
やはりコイツはヴァイスツヴォルフだった。そして恐らくルディの片割れ。
ガァァァァアアルルルゥゥゥウウ!!
「っ!!」
不意に、白く巨大な牙を光らせるルディの番が、稲妻の如きスピードで俺に迫った。
そして白い稲妻は前足を振り下ろす。咄嗟に太刀を抜き防御するも勢いに押された俺は、軽々と吹き飛ばされる。
「がはっ......!?」
吹き飛ばされた先に生えていた木に背中を強打し、口から少量の血を吐く。
鉄の腹巻で護られているとはいえ、衝撃を完全に防げる物ではない。
凄く痛い。
「クソッ...... 肋骨折れたんじゃねぇか......」
俺はジンジンと痛む身体に鞭打ち、毒づきながら震える足で立ち上がる。頭もぶつけたのか額から血が流れ落ち、酷く痛む。
そんな俺を尻目に、美しい白狼は鼻息を荒くし、再度前足に力を込めた。
突っ込んでくる。
そう感じた瞬間頭に中に『ピーン』と言う機械音が響き、レベルアップを知らせる文字が浮かんだ。
【ヴァイスヴォルフ1匹討伐。経験値獲得。レベルアップ。レベル10→レベル15。レベルアップにより武器召喚上限の解除、ならびにレベルが一定数達した為スキル開放】
【解放スキル:
「ちっ!このクソ忙しい時に、集中を乱す様な文字出しやがって!
ちょっとはタイミングを考えやがれってんだ!!」
俺は誰に言うわけでもなくギリッと奥歯をかみ締めた。
なんだか知らんが、新しくスキルとかいうやつが解放された。
だが、今の俺に悠長にこのスキルを確認している暇はない。
それでも..... レベルアップした事で使えるようになった物なら、悪い物では無い筈!
瞬時にそう判断した俺は、このスキルとかいう物に賭けてみる事にした。
頭の中で解放されたスキル【
突っ込んできた白狼の動きが、僅かだがスローモーションになっていたのだ。
これにより、俺はこの世界の人が使える【身体強化魔法】と同レベルの力を手に入れた。
俺は脚を1歩踏み出す。
踏み出す力は足が地面にめり込むほど強化されていた。
俺は抜いた太刀を上段に構え、突っ込んでくる白狼にタイミングを合わせる。
そして、すれ違う間際、力の限り振り下ろした。
「うおぉぉぉぉおお!!!」
バキィィィィイイン......
ギャウン!?
金属が砕ける音が響き、俺から少し離れた場所にサクッと、砕けた何かが突き刺さる音がした。それは俺が手にしていた太刀の刀身だった。
「マジかよ......」
悲痛な呟きが漏れる。
俺の身体は、通常の何倍も素早く動いたのだが、太刀の強度が足りなかったのだ。
しかし、太刀が折れた代償に、白狼の顔には斜めの深い傷が出来ていた。が、命を取るまでには至っていない。
刹那。斬撃で怯んだ白狼が我武者羅に右前足を伸ばし、俺を地面に倒して身体を押さえつけた。
「がぁっ!」
ワォォォオオオオオン!!!
白狼は額から血を滴らせ、勝利の雄叫びを上げる。白狼は口をいっぱいまで広げ、俺を見下ろす。
サーベルタイガーのような鋭い牙がキラリと光った。
「クソ!ここで死んでたまるか!!」
大きな足で胴体から両手の二の腕まで拘束されているので、腰に差している中脇差は抜けない。抜けたとしても満足に振る事さえ叶わないだろう。
そこで俺は無我夢中に、武具と一緒に序でに召喚した『ある物』に手を伸ばした。
それを口を広げる白狼に向ける。
「勝利の雄叫びは相手を殺してからした方が良いぞ」
白狼の前足に押し付けられて呼吸が苦しい。
呼吸もままならない中で、俺は微かに口元を歪めながら手にした物のスイッチを押した。
バシュッ!
手元に微かな反動を残し、俺が持つ物から小さな音が鳴り響いた。
その小さな音と共に、キラリと光る物が白狼の柔らかい口内へ向かい、真っ直ぐに飛翔する。
グサッ!
ガゥッ!!?
「手ごたえありだ!」
俺は手にした物を強く握り締めながら叫ぶ。
そう、俺が手に持っていたのは刃を射出する事が出来る特殊ナイフ。
旧ソビエト連邦が開発した通称【弾道ナイフ】と呼ばれるスペツナズ・ナイフだった。
そのスペツナズナイフから射出された刃は、白狼の口内に深く突き刺さり、刃先は脳にまで達していた。
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