第13話 学んだ事




瞳を潤ませながら目の前に立つ女の子を改めて見ると、俺はその可愛さに思わず息を飲んだ。


彼女の肩上で切り揃えられた綺麗な金髪は眩い程の光沢を放ち、前髪には真紅の髪留めをしている。海の様な青い瞳はキラキラと輝いていて、その瞳を見ていると吸い込まれそうな感覚に陥った。


身長は俺より20㎝程低い。ちなみに女性らしさを感じさせる素晴らしい物を持っていらっしゃった。


どっかの咲耶姫ようじょとは正反対だ。


「無事で本当に良かった‥‥‥ 貴方のお陰で助かりました。ありがとうございました‥‥‥ 」

「いえ、 貴方がダンさんに助けを呼んでくれたお陰で俺も救われました。此方こそ、ありがとうございました」

「そんな、私が助けてもらったのに‥‥‥」

「気にしないでください。それより、俺は西園寺 帝と言います。貴女に怪我が無くて良かった」

「は、はぃ。 あ、私セシル・イェーガーと言います。私の事は呼び捨てで構いません‥‥‥ あと敬語もいりません」

「わかった、ならセシルって呼ぶよ。セシルも敬語なんて使わずに、フランクに接してくれると助かる。改めてよろしくなセシル」


少し戯けた様に微笑みながら感謝の言葉を言い、微笑みかける。

セシルは「うん」と返事を返してくれたのだが、何故かその顔が微かに赤く染まっていた。


「アンちゃん、行く当てが無いなら狭い家だが暫くゆっくりしてけ。怪我の治療の事もあるしな」


俺とセシルの会話を腕組みし、ニヤニヤしながら見ていたダンさんがそんな事を言った。


この世界に来たばかりで右も左もわからない根無し草の俺には有難い提案だ。怪我が完治するまでの間お世話になろう。

その間に、出来るだけこの世界の事を学ばなくては。


「何から何まですみません。怪我が完治するまで厄介になります」


俺はこの好意に甘える事にした。

怪我が完治したら迷惑がかからないウチに出て行こう。



▼▼▼▼▼▼▼▼



ダンさんとセシルの家は森の中にポッカリ空いた野原に建てられていた。

この家は木造2階建てで、コテージ風のお洒落な外見をしていた。細部にまで拘って作られているのが分かる。


俺はこの家の2階にある客室の内の1つに住まわせて貰う事になった。

ちなみに、俺の借りた客室を含めこの家には計4つの客室があった。


ダンさんの家には狩人仲間が良く泊まりに来るとの事で、その時にこの客室を貸しているそうだ。 だが、当然の事ならが毎日の様にその狩人仲間が泊まりに来る訳では無い。その為、俺は使われていない客室を借りる事が出来た訳だ。


ダンさんは狭い家だと言っていたが、客室が4つも有る家なんて、爺ちゃんの家以外で見た事が無い。2人暮らしの家では広過ぎるくらいだろう。


そんなこんなで、住まわせてもらってから早くも3日が経った。


その間に、俺は色々な事を知ることが出来た。


まずこの世界の地理だ。

この世界には主に、【東大陸】【西大陸】【南大陸】【北大陸】【中央大陸】と呼ばれる5つの大陸が、海を挟みあう様に存在している。


今俺が居る場所は【中央大陸】と呼ばれる大陸で、ここには【人間】が主に住んでいる。その為、【人間大陸】と呼ばれているらしい。


北大陸には【ドワーフ】や【クラッズ】と言った、姿形すがたかたちは人間に近いが、小柄な体型を持ち、手先が器用で錬金や鍛冶等が得意な種族が住んでいるとか。

この大陸の別名は【亜人大陸】と言うらしい。


東大陸には【エルフ】や【妖精フェアリー】等、人間とほぼ同じ背丈に、ピンと尖った耳や、半透明な羽を持った者が住んでいる。別名【妖精大陸】。


西大陸は【犬獣人】や【龍人】等、人間の体に獣耳や龍の翼などを持つ【半獣人】や、犬や猫が二足歩行した様な【完獣人】が住んでいる為、【獣人大陸】と呼ばれていた。


最後に南大陸は【魔大陸】とも呼ばれており、【不死者アンデッド族】や【豚鬼オーク】【腐者ゾンビ】等、俗に言う【魔人】や【悪魔】と呼ばれる者が住んでいるとの事なのだが、詳しい事は分かっていないらしい。


人間大陸は北の亜人大陸、東の妖精大陸、西の獣人大陸と所々陸続きになっているが、南の魔大陸とは陸が繋がっていない為に情報が余り入ってこないのが原因な様だ。


そして今俺が居る国と詳しい場所も判明した。


俺が居る場所は人間大陸のほぼ中央にあり、建国して612年の歴史を持つ【ラルキア王国】と呼ばれる君主制国家の西側。

此処に【始源の森】と言う深い森が有るのだが、俺はこの森の外れに居た。

加えて言うと、始原の森には多種多様な魔獣が生息しているらしい。


それと後で知る事となるのだが、この世界には黒髪で黒目の人間はほぼ居ないらしい。

どちから片方を持つ人間や妖精、半獣人などは居るが、両方を持った者はダンさんやセシル曰く初めて見たとの事。


だからダンさんに初めて会った時、『見た目も見た事無い感じ』と言われたのだ。



話を戻して。



このラルキア王国の現国王の名は、【第29代国王 ゼルベル・ド・ラルキア】。

今年で齢60になるゼルベル国王陛下は、軍事面には疎いが内政の才能に恵まれラルキア王国建国以来の繁栄を築いたらしい。

ゼルベル国王陛下のお陰で、このラルキア王国は人間大陸で1、2を争う経済力を有するに至ったとか。


だが水面下では高齢の国王陛下に代わろうと、王族達の泥々とした争いが繰り広げられているとかいないとか。

立憲君主制の国家に有りがちな問題も噂されていた。


ラルキア王国は西側に人間大陸で1番の領地を持つ軍事国家【エルド帝国】、東北には美しい山々や森が広がる宗教国家【スノーデン公国】、東には人間大陸で随一の技術力を持つ【ルノール技術王国】、そして南には農業が盛んな【マリタ共和国】の計4つの国に囲まれている。


ラルキア王国は人間大陸で1番の領土を誇る軍事国家エルド帝国や、技術大国のルノール技術共和国と国境が隣接している為、国を守る常設軍として約15万人のラルキア王国民が軍務に就いていた。


この内約8万人が、潜在敵国であるエルド帝国とルノール技術共和国に接する国境を守っているしい。

その一方で、同盟を結んでいるスノーデン公国や、友好的な関係を結べているマリタ共和国側には、少数の国境警備軍しかいないみたいだ。


この話を聞き高々数万人程度の軍で国境を守れるのか? と疑問に思ったが、この人間大陸には【平和条約】なるモノが有り、この条約のお陰で各国関で大規模な戦争が勃発したというのはここ100年間無いらしい。


理由は平和条約に書かれている一文‥‥‥


【人間大陸に存在する全国家は、何処か一国が他国へ戦争を仕掛けた場合に限り、その他全国家が共同で侵略国家へ報復戦争をする義務がある】


という一文が全て説明してくれている。


簡単に言えば‥‥‥


『A国が戦争を始めB国に攻め入れば、それ以外のC国やD国等、人間大陸に存在する全国家はB国と軍事同盟を組み、侵略者のA国と戦う事を義務付ける』


みたいな感じだ。

必然的に1国vs他多数になると分かっているのに、戦争を始めるバカはいないと。


とは言え、国境での小競り合い程度はあるみたいだが‥‥‥


しかしラルキア王国は大国に囲まれている事実は変わらない。


そこで何故、軍事大国や技術大国、農業大国に囲まれたラルキア王国が人間大陸でトップクラスの経済力を得るに至ったか。


それはラルキア王国で特殊な鉱石【魔龍石】なる鉱物を発掘出来る巨大鉱山が見つかったお陰だとか。ちなみに最近採掘に成功したらしい。


この魔龍石とは、【魔法具】と呼ばれる機械の燃料になったり、武器や防具を作る際の素材として使われたりする万能鉱石で、希少価値の高い鉱物らしい。

この鉱石と平和条約のお陰でラルキア王国は戦火に巻き込まれず、魔龍石を輸出したりして建国以来の繁栄を極めるに至った訳だ。


そして、これは俺には馴染みの薄い、胸糞悪い話だが‥‥‥ この人間大陸にはその名の通り、主に人間が住んでいる。

だが、【奴隷】として亜人大陸や獣人大陸、妖精大陸から連れて来られた者たちも一定数いるらしい‥‥‥


ダンさん曰く、この人間大陸に住んでいる内の約20%は、他の大陸から連れて来られた奴隷だとか‥‥‥


この他大陸の奴隷を買うには莫大な金が必要なようで、低中所得者には手が届かないらしく、他大陸の奴隷と買うのはもっぱら各国の王族や豪族、成金の商人達が主らしい。


この奴隷を売る者は【奴隷商人】【奴隷バイヤー】と呼ばれているとか。

胸糞悪い話だったが俺にはどうする事も出来ない‥‥‥ 歯痒かった‥‥‥



話を戻して、俺は当然ながらこの世界にも言語がある事も知った。



だが、その言語は1つしか存在しなかった。

俺が居た世界の様に英語やフランス語、ドイツ語と言った各地、各国で使われる様な多数の言語は存在しなかったのだ。


その為他の国や、他の大陸に行っても言葉は通じる。


ちなみに文字だけは例外らしく、この世界‥‥‥ 今居る人間大陸の文字は、英語を筆記体にした様な文字だった。

文字だけは各大陸で微妙に異なるらしい。



最後に俺にとって1番の発見は、この世界には【魔法】が存在した事だった。



この世界には【4大属性】と呼ばれる4種類の魔法と、それに分類されない3種類の魔法の計7種類の魔法が存在するらしい。


ちなみに4大属性に分類されない3つのタイプの魔法は、【特異属性】と呼ばれているとか。



詳しく書くと‥‥‥



4大属性は【火属性】【水属性】【木属性】【土属性】。


特異属性は【金属性】【回復属性】【特殊属性】となる。


火属性、水属性の魔法は文字通り使用者の持つ魔力を介して火や水を生み出す事が出来、この2つの属性は主に攻撃に使われる事が多い。

木属性や土属性魔法は植物や地形に介する魔法らしく、どちらかと言えば防御に使われる魔法だとか。


加えて言えば、上記4つの属性はそれぞれ4すくみの関係にあるらしく、火属性は水属性に弱く、水属性は土属性に弱い。 土属性は木属性に弱く、木属性は火属性に弱いみたいだ。


対して、上記4つの属性とは違い特異属性は苦手としている属性は無い。


それは特殊属性はその性質が違うからだ。


金属性の魔法は鉄や銅といった金属の性質や形を変えたり、強度を高めたり出来るらしい。

回復属性は外傷を治す回復ヒール等を指し、これまで挙げた属性に当て嵌まらない魔法は全て特殊属性に分類される。



それはさておき。



これは、俺も小さい時に夢見た魔法使いになれるのでは!?


と思ったが、現実はそう甘くなかった。


その理由だが、殆どの人は【身体能力強化ポテンシャル・アップ】と言う簡単な肉体強化魔法しか使えないらしい。

ちなみにこの身体能力強化ポテンシャルアップは特殊属性に分類される魔法だ。


魔法を使えるか否か、それは生まれ持った資質で決まると、ダンさんは言っていた。



つまり、この世界の外から来た俺はこの世界の理の外‥‥‥ もしかしたら、俺に備わっている霊力を介し、魔法が使えるかもしれないが、これは現時点では確かめる術がない。


また話が脱線した。

って言うか話が脱線しまくりだな。


勿論、身体能力強化ポテンシャル・アップ以外の高度なレベルな魔法を使える人も居る。


のだが、それは100人に1人居るか居ないかの確率みたいだ。


この100分の1の確率で、火の弾を放つ火属性魔法【火球ファイヤーボール】や、水の弾を放つ水属性魔法【水球ウォーターボール】等の攻撃魔法を放てたり、切り傷などの軽い怪我を治せる【回復ヒール】と言った回復系の魔法を使える【低レベル攻撃、回復魔法】の魔術師の才能を持った者が生まれる。


これより威力の高い魔法等を使える者が生まれる確率は更に低く、数万人に1人か2人だそうだ。


こう言った魔法を使える人達は【魔術士】と呼ばれ、軍隊の魔術士部隊に所属したり、魔術を研究する機関に就職でき、高い給料を貰える勝ち組という奴にカテゴリーされるとの事だった。


ごく稀だが、訓練で【低レベル攻撃、回復魔法】を使える様になるらしいが、本当に稀な様で事実ほぼ無いらしい。


ちなみにダンさんとセシルは身体能力強化ポテンシャル・アップの魔法しか使えない様だ。


俺は教わった事を忘れない様に集中して、脳内にこの世界の情報を書き込んだ。

教わった情報は1つも無駄には出来ない。

こりゃメモ帳とかが必要になるな‥‥‥

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