第3話 運命を変える電話
「寒い‥‥‥ 帰ったら炬燵に直行だな」
雪でも降るのではないかと思わせるドンヨリとした雲に覆われたこの日。
俺は口元までマフラーで覆い、通っている大学の講義を終えてブルブルと震えながら帰路についていた。
本日は11月30日の土曜日。
約1ヶ月後には、リア充のリア充によるリア充のためのイベント、世間一般的に言うクリスマスが控えている為、街はクリスマス一色に染まり始めている。
「なぁにがクリスマスだ畜生! 教会に行ってお祈りでも捧げて爆発してろリア充め」
何処か街全体が浮ついた様な雰囲気に包まれている。 そんなクリスマスムードに染まり始めた街を見て、独り身の俺は呪詛の言葉を零しながら通り抜けた。
俺はこの季節が嫌いだ。
その理由は、浮ついたリア充共が大量発生する季節だからだ。
なら俺も彼女を作れば良いじゃないか。
そう言われるとそれまでなのだが、俺には何故か良い出会いが無かった。
今年も彼女が出来ず講義とバイト漬けのクリスマスを過ごすのかと考えると、今から憂鬱になってくる‥‥‥
「変な事を考えるのは止めよう。こんな気分じゃ、折角の休みを満喫出来ねぇ!」
俺は気分を切り替える為に、拳を握りしめた。
こんな気分じゃ今日はバイトが休みなのにリフレッシュ出来ない。
更に言えば明日の12月1日日曜日は講義も無く、バイトも珍しく休みを取れたのだ!
「日曜日丸々1日休めるなんて1ヵ月ぶり位だもんな。
今日はHK416D達のメンテナンスをして、明日は録画した映画でも見よう」
俺はクリスマスの事を考えるのを止め、充実した休日を過ごす為に頭を働かせる。
そして、今日は趣味のサバイバルゲームに使用する玩具銃達のメンテナンスをし、明日は録画した戦争映画を見る! と、俺は休日の予定を立てた。
その時。
ポケットに入れていたスマホから通話の着信音が響いた。
スマホに表示される名前を見ると、そこには親父の名前が写っている。
「げ‥‥‥ 」
親父からの電話は滅多にない。その為俺は、多少緊張しながら通話ボタンを押す。
この親父からの電話が俺の人生を変える事になるとは、この時の俺は夢にも思っていなかった。
「もしもし」
「おぉ帝か。講義は終わったか?」
「終わったよ親父。今帰ってるところ」
別に俺が知らず知らずの内に何かやらかし、怒って電話してきたと言う訳ではないらしい。
とりあえず一安心。
「そうか。なぁ帝、お前明日の日曜日、何も予定無かったよな?」
うん。なんか嫌な予感がするぞ。
嫌な予感がしたら大体当たるってジンクスもあるし‥‥‥
「あぁ、久しぶりにバイト休めたから明日は特に予定無いけど‥‥‥」
「そうかそうか。そこでだ帝。明日お前にやってもらいたい事がある」
「やってもらいたい事っすか‥‥‥」
ほら、やっぱりこう言う流れか!
分かってたよ!ちくしょうめ!
はぁ‥‥‥ 俺の1ヵ月ぶりの完全休みが音を立てて崩れ落ちた様な気がする‥‥‥
「そうだ。帝、お前明日爺さんの家にある蔵の整理をしてもらえないか?」
「爺ちゃんの家の?」
爺ちゃんの家か。
そう言えば高校、大学に入ってからバイトと授業漬けの毎日で忙しくて、あんまり行けてなかったな。
「あぁ‥‥‥ それは別に構わねぇけど、親父は手伝ってくれねぇの?」
「本当は俺だけでやる予定だったんだが、明日緊急の仕事が入って行けなくなったんだよ」
「へぇ‥‥‥ さすが陸上自衛隊の一等陸佐殿だ。お忙しそうで」
俺の家‥‥‥ 西園寺家は戦国時代から約400年続く家柄で、かつてこの地域一帯を領地としていた武家の家系だ。
400年前から受け継がれてきた武家の血筋の宿命か性か、西園寺家の男は代々その時代の軍隊に殉じていた。
爺ちゃんも親父もその例に漏れず、爺ちゃんは元帝国軍の近衛兵に殉じていたし、親父は陸上自衛隊の幹部として多忙な日々を送っている。
そのお陰で、今回の様にいきなり俺に頼み事をしてくる事が稀にあった。
ちなみに、今のところ西園寺家の跡取り(予定)の俺は軍に殉ずるつもりはない。
爺ちゃんに【お前は家柄に縛られず本当にやりたい事をやれ】と言われたからだ。
俺はこの言葉を俺なりに解釈して、大学にいる間は【俺が本当にやりたい事を探す】と決めている。
そう思うに至った理由は…… 俺にこの話をした爺ちゃんの横顔が、なぜか凄く寂しそうに見えたからだ。 もしかしたら爺ちゃんは本当はやりたい事があったのかも知れない。 でも家柄がそれを許してくれなかった。
だから爺ちゃんは俺にそんな後悔をして欲しくないと思ったのかも知れない。
もし大学卒業までに俺が本当にやりたい事が見つからなかったら、その時は俺も歴代の男達と同じ道を歩もうと、俺は楽観的に考えていた。
「そう言う訳だから頼めるか? お前も最近爺さん家に行けてないだろ? 顔を見せに良くついでに頼まれてくれ」
そんな事を頭の片隅で思い返していると、親父の声で意識を引き戻された。
にしても親父め、俺の嫌味を何事も無かったかの様にスルーしやがった。
さすが俺の親父だ‥‥‥
ま、休みが無くなるのは多少惜しいけど、久しぶりに爺ちゃんや婆ちゃんに会いたくなってきたし良い機会だ。
「わかった。明日蔵の整理しに行って来るよ」
寝たきりになった爺ちゃんのお見舞いも兼ねて、俺は親父にそう言った。
▼▼▼▼▼▼▼▼
ピピピピッ!
規則的な機械音が響き俺はゆっくり目を覚ました。時刻は6:30 。空模様は昨日と同様の重苦しい曇り空だった。
「良く寝た‥‥‥」
今日は爺ちゃんの家の蔵を整理する予定になっている。その為昨日は日課の木刀を使った素振りをし、直ぐに就寝した。
この木刀の素振りはかつて一緒に住んでいた爺ちゃんに指導されやっていたもので、今では朝・晩の素振りは俺の習慣になっている。
俺は眠気眼を擦りながら起き、ベットから出る。布団への未練を断ち切る為に冷たい冷水で顔を洗う。眠気を断ち切った俺は、木刀を持ち庭で日課の素振りを始めた。
「ふっ! ふっ! ふっ!」
最初は寒く指先も悴んでいたが回数が30回を超えると体が熱を帯び始め、体も目覚めてきた。ひんやりとした空気の中で木刀を振るのも慣れれば心地いい。
午前9:00
ノルマの1000回の素振りと剣術の訓練を終えた俺は、シャワーで汗を流し軽めの朝食をとり、動きやすい服をバックに詰め込む。
ライダースジャケットを羽織り、高校時代に頑張ってバイトし、貯めたお金で購入した250cc中型バイクYZF-R15に跨って、アクセルを回した。
正午11:00
辺りを巨大な木々に囲まれた場所にそれは在った。屋敷と言っても差し支えない無駄に広い日本家屋。そして歴史と風格を感じさせる門構え。
更には平均的な家屋よりも巨大な蔵や、敷地内に生える樹齢数百年は経っているだろう堂々とした木々が俺を出迎えてくれる。
俺は乗ってきたYZF-R15を敷地内の適当な所に停めると、屋敷といっても言い規模の日本家屋を囲む巨大な門に付けられたインターホンを押した。
数秒後、住み込みのお手伝いさんが鍵を開けてくれた。俺は靴をそろえて上がりこみ‥‥‥
「爺ちゃん! 婆ちゃん! ただいま!」
屋敷中に響く声で、俺が来た事を爺ちゃん達に告げた。
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