ロリババア神様の力で異世界転移

九条

序章

第1話 プロローグ

  




心地よい風が吹きぬけ木の葉が擦れ合う音が静かに響き、暖かな日差しを惜しみなく大地に降り注ぐ太陽の下。


大の字で倒れていた俺は目を覚ました。


「がっ!? ぐっ…… うぅ!」


深い眠りから目覚めた時の様な、心地よい感覚の中、突然頭痛それはやって来た。

頭の芯をまるで万力で締め付けるかの如く。激しい痛みが、俺の頭を貫いた。


痛みに顔を顰め無様に地面に蹲る。

堪え難い痛みからか、無意識の内に涙が溢れ出ていた。

その涙の所為で周囲の状況がぼやけて良く分からない。


俺は激しい頭痛が襲う中何とか意識を保ちつつ、自分の体にこの煩わしい頭痛以外に異常がないかを確認する。


痛い…… 痛みを感じる……

痛みを感じるという事は、少なくとも俺はまだ生きている。

呼吸も問題ない。手と足は動く。地面に触れている感触もある。地面の冷たさも感じる。

視界が涙でぼやけるという事は目の機能も正常に働いている証拠だ。


俺はある1つの事に集中すると、それ以外の事に気が回らなくなる。

俺は、集中すればどんな事をされても気づかない位、その事にのめり込む…… と言う性格の持ち主であった。


その才能は時として【痛み】さえも気にならなくする程であった。


その生まれ持った性格(才能)で、【自分の体に異常はないか確認する】と言う作業に集中した結果、初めは死ぬのではないかと思った頭痛はいつの間にか和やらぎ、自然と涙も止まっていた。


まぁ実際の所、時間が経つにつれて頭痛が弱まってきたせいもあるが……


自分の体に異常はないか確認する…… と言う作業があらかた終わった頃、頭を砕かんばかりの激しい頭痛は完全に消えていた。


痛みが消えても集中した作業が完全に終わるまで、俺は頭痛が綺麗さっぱり消え去っていた事に気が付かなかった。


「し、死ぬかと思った…… 」


頭痛から解放されると俺は、目覚める前と同じようにドサッと地面に倒れこんだ。


地面の冷たさを感じる……

太陽の暖かさを感じる……

小鳥達の声が聞こえる……

涼しい風が体を撫でる……


頭痛があったのは僅か数秒だったのかも知れないが、俺には数時間に感じた。


もうあんな頭痛は懲り懲りだ……


俺は生きている事を実感した。


生きているって素晴らしい。


暫くその場に寝転んで空を仰ぎ、生きている事への感謝と素晴らしさを改めて噛み締めた俺は、徐に体を起こして周囲を見回した。


俺の目に映った物…… それは……


見た事もない形の果実を実らせている木々。

鳴き声は雀に似ているが見た目が全く違う、派手な飾り羽を持つ鳥達。

見るからに、食べるな危険と自己主張している茸と思しきブヨブヨした物体。


目の前には俺が今まで見た事のない、不思議な風景が広がっていた。


「あの幼女…… 本当に俺を【元居た世界】から【別の世界】に転移させたのか…… 」


何気なくボソッと呟いた瞬間、履いていたズボンのポケットが赤い光を放ち始めた。正確にはズボンの中に入っている【何か】が赤い光を放っているようだ。


ちなみに、今俺が着ている服は、濃いグレーと黒を基調とした半そでと長ズボン。そして黒いブーツだ。


半そでは今で言う「VネックTシャツ」のような見た目をしている。

手触りはサラサラとして気持ちいい。【元居た世界】のスポーツウェアやTシャツと遜色ない出来だった。


長ズボンは臀部と腰、太腿の部分に左右各1つづつ。計6個のポケットが付いている地味に収納性がある物だった。

着心地も申し分ない。動きやすくて良いズボンだ。


足には脛までを覆う動物の皮で作られたと思しき黒いブーツを履いていた。

特に装飾は無く、実用性に特化した頑丈そうなブーツだった。


そんなこんなで、俺は着ている服の特徴を把握すると履いている長ズボンの腰辺りにある右ポケットに手を入れ、赤く光っている物体を取り出した。


「こ、これは…… 」


ポケットから取り出した物…… それは日本人の俺に親しみのある形をしていた。

赤地の布を正方形に整え、中心には【安全祈願】と見事な達筆で書かれている。


そう。神社などで売っている日本風の【お守り】が、俺のポケットの中で赤く光り輝いていたのだ。


「おぉ、無事にそちらの世界に転移できたようじゃの~」


驚きながら赤く神々しい光を放つお守りを見ていると、不意に俺の頭に声が響いた。

この特徴的な口調だけで、俺は誰が話しかけてきたのか一発でわかった。



その声の持ち主こそ、俺をこの世界へと転移させた【神様ロリババア】の声だった。



俺は仏頂面になりながら、輝くお守りを睨み付ける。嫌味の1つでも言ってやらなきゃ気が済まん。


「あぁ、お蔭様でこっちに着て数分で死に掛けたぞ」

「じゃから予め警告したじゃろう? わらわの加護の能力を欲張ると、後々痛い目を見ると」

「俺の記憶が確かなら、お前は『ん?その加護で良いのか? まぁお主が決めた事ならとやかく言うのは辞めておこうかの。どうなっても自己責任じゃし。』って言ったぞ。

これのどこが警告だ! 警告するならもっとハッキリ言えってんだ!この貧乳め!

俺が死んだらその慎ましい胸が更に慎ましくなるよう呪いながら死んでやる!」

「むっ! 胸は関係ないじゃろぅ!? 神たるわらわにそのような態度じゃから死に掛けるのじゃ! この童貞め!

か弱く美しい乙女に対する慈しみの心が足らんから、童貞のまま死にかけるのじゃ!」

「は、はは、ははは……上等だ。 おい俺を今すぐお前の元に戻せ……。キレちまったぜ、久々によ……。

あぁ? こらぁ! 卯華乃咲耶姫うかのさくやひめさんよぉ!」

「出来る事なら既に戻してお主を挽肉にしておるのじゃ! お主に与える加護に霊力を使った所為で、当分こちらには喚び戻せんわ!

それともなにかぇ? 自らの軽率さ故に招いた失態をわらわに八当たりかぇ? 西園寺さいおんじ みかどよ」


爺臭い話し方をする女の子と不毛な言い争いをする俺が、とある理由で【元居た世界:日本】から【異世界:ラルキア王国】で生き抜かなければならなくなったごく普通の男子大学生、西園寺さいおんじ みかどである。

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