第3話

 待ち合わせ場所の駅に着くと、身長のせいもあるが山ちゃんは一際目立っていた。黒の浴衣が山ちゃんを更に引き立てていた。横を通り過ぎる女の子達が次々に目を奪われていた。「よっ!イケメン!その格好じゃ山ちゃん目立ちすぎてるよ!」山ちゃんの肩に手を乗せ言った。

「おー!2人とも待ってたぞ。んー変か?」自分の着ている黒の浴衣を見ながら聞いてきた。

「違うよ!決まりすぎてるって事!鈍いなぁ。」俺は肩に乗せた手でトントンと二回叩いた。

「山ちゃんかっこいいよ!」菜美も続けた。

「ありがとう。てか菜美メッチャ可愛い!浴衣似合い過ぎだから!」浴衣姿の菜美に、目を輝かせている。これが目がハートになると言うやつか。

「ありがとう。」照れながら菜美が言った。

「それじゃ行きますか。」俺の号令で祭りに向かって歩き始めた。



 川沿いの道を3人で歩いているとやはり周りの視線が、山ちゃんと菜美に向いた。俺が居なきゃ完全にカップルに見えるし、俺が居てもカップルに見えているんじゃないか?じゃあ俺はなんだよ。とどうでもいい事を考えて歩いていた。

 川沿いの道から一本中の方に曲がるとそこには少し古い商店街がある。

 普段ならさびれて人も少ないが、この日だけは人で賑わっている。

 小学生や中学生、俺達みたいな高校生も沢山いた。そして子供連れの家族もいた。

 お好み焼きやたこ焼き、かき氷に金魚すくい。沢山の屋台が並んでいる。

「いやぁ盛り上がってるねぇ。」と山ちゃんが言った。

「すごい人の数だね。普段は全然人いないのに。」菜美が返した。

「そりゃ祭りだからね。てか俺腹減ってきたわ。夕飯食べてこなかったからなぁ!お好み焼き買うけどみんなは食べる?」と俺は2人に聞いた。

 辺りもすっかり日が沈みいつもなら夕飯の時間だ。お腹が空くのも仕方ない。それに加えていつもより歩いているし、何よりも食欲をそそるソースの匂いが、俺の足をお好み焼き屋の前に止めた。


「俺もいる!メッチャいい匂いしてるしな。」山ちゃんも並んだ。

「私はいらないかな。お好み焼き並んでる間、隣の屋台見てるね。」と菜美は隣の雑貨が売っている屋台を見に行った。


 2人でお好み焼きの列に並んでいると山ちゃんが

「なぁ、菜美の浴衣姿メッチャ可愛いな!やばいわぁ。」と、にやけながら言った。

「まぁ確かに似合ってるわな。」俺も共感した。

「今日花火終わった後少しだけでいいから2人きりにしてもらえないか?ちょっとはデート気分味わいたくて。頼むつっこ」山ちゃん得意のおねだりポーズだ。菜美の事に関してはよくこのおねだりポーズをするのだ。

「うーん、AV1本てとこかな。それなら手を打つ。」俺も、よくこの手法でAVを山ちゃんから借りた。

 山ちゃんには兄がいて、家には大量のAVがあった。それをバレないように借りてきてもらう。これが俺の常套手段だった。

「分かったよ。それで手を打とう。」山ちゃんの一言で、契約は成立した。


 この間チラッと菜美の事をみると赤いかんざしと赤い巾着を手に取り眺めていた。菜美は昔から赤い物が好きでこういった小物やアクセサリーは好きだった。

 小さい頃お互い家族同士で祭りに来た時もそうだった。ビー玉取りで好きな赤色が取れず菜美は大泣きしていた。

 たまたまとれた赤色のビー玉を菜美にあげたら、すぐに泣き止み満面の笑みを浮かべ手を繋いで来た。

 小さかった2人はその日手を繋いだまま祭りを回った。

 菜美と祭りに来たのはあの時以来かもしれない。



「買えた?」隣の屋台を見終わり菜美が来た。

「次やっとうちらの番。待たせちゃったね。」申し訳なさそうに山ちゃんが答えた。

「はい。次の人!お兄ちゃん達何個いる?」ゴツメのちょび髭店主が聞いてきた。

「一つずつでお願いします。」山ちゃんが言った。


 無事に買うことができ、近くの飲食スペースに3人で向かった。

 この間にかき氷、じゃがバター、たこ焼きも購入した。

「よっしゃ。とりあえずここに座って食べようぜ。」大抵こういう時は山ちゃんが仕切ってくれる。

「食べよ食べよ。いただきまーす。」菜美がイチゴ味のかき氷を食べ始めた。

「やっと食べれる。お待たせ俺のオコノッミィー。頂きマンドリル」

 腹ペコだった俺はわけのわからないことを言いながらマンドリルのモノマネをした。

 そして菜美と山ちゃんは息ピッタリに俺の発言と行動を無視した。


「マジかよ。こんなに無視することある?引くわー。」と俺が言うと、

「ぷっ、あははは!つっこまじアホ!」

「ぷっ、あははは!こんなすべること普通ないよね!」と2人同時に笑った。

 いわゆる滑り笑いと言うやつだ。


 

 しばらくの間、くだらない話をしながらそれぞれ食べた。

 学校の話、癖のある教員の話、流行りのバラエティー番組の話など。本当にくだらない話だった。

 だがそのくだらない話がすっごく楽しくて、うちら3人にはとても重要な事のように感じられた。

 青春というのはこういうものなのだろう。

「いやぁうまかった。腹一杯になったな。」と山ちゃんが言うと

「本当美味しかったね。」と菜美が言った。

「あっ。もうそろそろ花火の打ち上げ時間になるな。移動しようぜ。」机の上を片付け、携帯電話で時間を確認して俺が言った。


 3人で近くの河原に移動すると花火が上がり始めた。人は確かに多かったが、ぎゅうぎゅうという程でもなかった。

 空には赤、青、黄色、オレンジ、ピンク、本当にたくさんの色の花火があがった。

「……綺麗。」空を見上げながら菜美が言った。

 少し暗い中で浴衣姿の菜美が花火を見上げる姿はとても絵になっていたし可愛かった。

 山ちゃんもきっと目を奪われているに違いない。

「悪い。ちょっとトイレ行ってくるわ。」山ちゃんと段取りしていた通り、俺は2人が2人きりになれるよう計らった。

「もうすぐラストの特大スターマインらしいから急ぎなよ。」と、菜美が言った。

「おう!急ぐわ。」と俺。

「人混み凄いから迷子になるなよ。」と山ちゃんが言った。


 俺は花火が終わるまで時間ができたので、菜美が見ていた雑貨の屋台に足を運んだ。

 色とりどりの小物はどれも女子が好きそうなものばかりで、菜美によく似合いそうだった。

「これ好きそうだなぁ……」ポツリ独り言を言いながら赤いかんざしを手にとって見ていた。

「もうすぐ閉店だし、まけてやるよ。500円でどうだい?かなり安くしてるよ。」

 商売上手だなぁ。まぁでも500円ならプレゼントするのもされるのも気を遣わない値段だと思った。

「じゃあこれください。」

 お金を払い、待っていると気を利かせてくれたのか可愛らしい袋にラッピングしてくれた。

「まいどー。」


 まだ時間があったので、この地域特有の名産物であるぽっぽ焼きを、夜食にでもしようと思い、買う事にした。人気があるので少し並んだ。

 ぽっぽ焼きとは薄力粉に黒砂糖と水、炭酸、ミョウバンを加え、専用の焼き器で焼き上げる蒸しパンのようなお菓子である。

 茶褐色で細長いのも特徴で、もちもちとした食感と黒砂糖の素朴な風味を味わう事ができ、この地域では子供から大人までみんなが大好きな祭りの定番だ。



 並んでいると空に特大スターマインが上がった。連続して夜空に輝くそれは、言葉に出来ないくらい綺麗で時間が経つのを忘れた。

 花火が終わるのと同時にぽっぽ焼きを買えた。

 ゆっくり2人のいた場所に向かった。

 その場所に戻ると何やら真面目な顔で山ちゃんが菜美に話しをしていた。

 話し終わるのを見計らって声を掛けた。

「悪い。遅くなった。トイレ一つしかなくてさぁ。でも特大スターマインはこっちに向かいながら見れたからとりあえずセーフ。」と嘘をついた。

「お、おう、遅かったな。凄い綺麗だったよな……」

 山ちゃんの様子が少しおかしい。2人きりで緊張でもしたのか。

「ホント遅過ぎだよ!あまりに遅いから大でもしてるなって山ちゃんと話してたとこだよ。」と、笑いながら菜美が言った。だが菜美も少しだけ様子がおかしかった。

 というのにも根拠があった。菜美が耳を触りながら話していたからだ。昔から菜美は動揺すると耳を触りながら話す癖があった。まだその癖はなおっていないらしい。


「まぁ楽しめたからいいって事で。それじゃあ花火も終わった事だし、帰りましょうか。」俺の合図で駅に向かった。


 駅に着くと、

「じゃあ俺こっちだから。」と山ちゃんが1番線のホームを指差して言った。

「うちらはこっちだからじゃあまた明日。」と俺が3番線を指差して答えた。

「じゃあね。」俺の後に菜美も続けた。


 そして解散した。

 やけに口数が少ない菜美が気になっていたが、考え事をしていそうだったのでそっとしておいた。





 地元の駅に到着した2人は家に向かって歩き始めた。

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