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「っ」
私は持っていたマグカップを勢いよくテーブルに置くと、走るようにして階段へと向かった。彼を起こして謝るのだ。そして二人で朝陽を見ながら朝食を食べる! その為にここに来たのだから! 小さなことで壊したくない!
階段を一段昇る。
「たっ!!」
と、そこでドンッと身体にかなりの衝撃! と、それから背中に回される力強い手。
「っぶな。なにやってんの。こんなに早くから」
頭上から降る優しい声。パッと顔を上げると、まだ半分寝ているような彼の顔が視界に入った。
「え、あ、そ、の・・・」
咄嗟に声が出て来なくて、変な言葉になる。きっと私の今の顔はとても間抜けなのだろう。彼が小さく笑った。
「一緒に朝陽見るんでしょ?」
抱き締めるようにして彼が言う。
「えっ?」
「ごめんね、思っていたより早く起きられなかった。目覚まし掛けておいたのに」
「えっえっ?」
「ご飯、もう作ってくれたの? 手伝えなくてごめんね、ありが」
「お、怒ってないの?」
私はいつもと変わらない彼の態度に言葉を遮ってまで訊いてしまった。彼はきょとんとすると、不思議そうに首をかしげた。
「怒ることあったっけ?」
心底不思議そうに言うから、私が昨日のG事件を口にすると、納得したように一つ頷いて言った。
「そんなこと、もういいじゃん。それよりもほら、早く行かないと朝陽が昇っちゃう」
それから私の手を引いて、用意してあったサンドイッチとコーヒーのボトルを持ってウッドデッキへ出た。設置してあるソファーに二人で腰かける。
「わぁ・・・」
腰かけると丁度朝陽が地平線から顔を出した。ボワァッと辺りが一気に明るくなる。
「綺麗」
「だね」
今まで見たどの朝陽よりも輝いていて、美しくて、神々しくて。見惚れてしまって呼吸さえ忘れてしまう。
「え。わ、わわわ! 凄い! 凄い見て! ほら!」
さらにその朝陽には赤と黄色の虹が掛かった。こんな景色、見たことがない。
「初めて見た! めっちゃ綺麗! ね! 凄いね!!」
興奮して彼の手を取ってブンブンと振った。彼は眉尻を下げて笑うと、私の肩を抱き寄せた。
「うん。凄いね。こんなの俺も見たの初めて。今日一緒に見られて本当に良かった」
ウィンドブレーカー越しに彼の体温を感じる。じんわりと温かくなった。身も心も。
「また来ようね」
「うん」
握った手から彼の体温が流れ込んでくる。この手を一生、私は離さないでおこうと、そう思った。
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