ウッドデッキで朝食を

カゲトモ

1ページ


 眠たい眼を擦りながらマグカップに入ったコーヒーを啜る。まだ少し暗い窓の外を眺めてはひとつ深い息を吐く。

「起きてくるのかな・・・」

 木材を贅沢に使ったロッジの二階へ上がる階段を見つめる。二階では彼が一人で寝ているはずだ。私も一時間と少し前までそこに横になっていた。

 ここは海岸近くの一棟貸しのロッジ。彼と一泊二日の旅行に来ている。流行のグランピングとか言う奴だ。一度テレビで見て、私が行ってみたいと言っていた所へ彼が記念日に連れて来てくれた。とても綺麗な所で、サービスも行き届いていて文句の付けどころがない。でもそのなかで一つ残念なのは、今の季節が冬だと言うこと。海の近くなのに泳ぐことが出来ないから。それでも、彼と一緒に自然の中で楽しむことは新鮮で面白かった。

 ハンモックに上手く乗れなかったり、青空の下で昼寝するのが好きだったり、意外に星に詳しかったり、急にキャンプファイヤーで知らない曲(キャンプファイヤーでは定番の曲らしい)を口ずさみだしたり、マシュマロが苦手だったり。私の知らない彼の新しい一面を見ることが出来た。可愛くてちょっと鈍くさくて、優しくて。彼の事をもっと好きになれた。

 そして今朝は朝陽を見ようと約束をした。サンドイッチを作って、コーヒーを入れて。ロッジのウッドデッキで朝食をしようと。

 キッチンにラップを掛けておいてあるサンドイッチに視線を向ける。自分で言うのも何だが、結構美味しそうに作れた。コーヒーだって豆から挽いてじっくりとドリップした。

「はぁ・・・」

 けれど、彼は今だに降りて来ない。

 それなら私が起こせばいい。そうかもしれない。でも、それは無理だ。

 だって、だって・・・

「きっと怒ってるんだ」

 はぁ、とまたため息を吐く。今朝目が覚めてから何度目のため息だろう。

 なぜ彼は怒っているのか、それは昨日の寝る前に原因があった。それは・・・私が執拗に虫を怖がったからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る