僕と彼女が同類なわけがない!

 驚かせる発言はというのはもちろん、僕がなぜか入ることとなる『青春部』の部長が奥寺おくでら朱音あかねであるということ。そして何より、一ヶ月ほど悩まされていたストーカーの犯人が自ら名乗り出たことだった。

 他にもなぜ僕が……という疑問が心の中に残っていたが、今はストーカーの犯人が奥寺朱音であるということに、頭が機能しなくなった。

 やがて脳内は暴走し始め、ストーカーが彼女であることに少しばかり幸福感を覚え出そうとしていた。今すぐにその考えを脳内から抹消し、奥寺朱音が部活のーー『青春部』の部長であることや僕の入部理由、ストーキング経緯を本人に直接問うた。


「あの……一つずつ質問しても?」

「うん! 構わないよ!」


 なぜ彼女は僕を見て笑っているのかは不明だが、協力的なのはありがたい。


「まず一つ目。僕が『青春部』に入らなければいけない理由は?」

「うーん……理由は沢山あるけど、一番はやっぱり私と君が同類だから」


 理解出来ない、の一言だ。僕と奥寺朱音が同類? それは全くもって違う。漫画やラノベで例えるなら、モブの中のモブとメインヒロイン並みだ。人気投票なんかすればランキング外とランキングトップだ。それほどまでに違うのにどこか同類なのだろうか……。


「じ、じゃあ二つ目。奥寺さんが部長だって言うなら、『青春部』の活動内容を教えてください」

「それか……決まってない」

「はい?」

「決まってないの。だって昨日、幸田さちた先生に相談したら、創設してもいいって言うから詳しい内容は決まってない。てかね、まだ『青春部』は学校に認められてないんだ」

「つまり、今は人数集め?」

「そう! 太刀花くん、アッタマ良い!」


 なんかものすごくバカにされた気がするが……。幸田先生の顔を見るとこういう性格だから、という顔をされた。

 噂に聞いていた奥寺朱音のイメージが徐々に崩れていた。噂では冷淡で同性からも交際を申し込まれるほど大人びてカッコイイ、と言われていたはずなのだけど……今は真逆な子供らしいという感じだ。

 本性と呼べばいいのかは分からないが、誰も知らない彼女のことを知れたことに、本来なら喜ぶべきなのだろう。しかしながら今の僕にそんな想いは微塵んも湧かなかった。


「まだ聞きたいことがあるけど、これで最後……。僕の後を付けていた理由ってのは何なの?」

「……」


 これまでとは打って変わって、奥寺さんは黙り込んだ。

 質問してはいけないことだった、と謝罪し黙秘権を渡そうとすると、


「太刀花くんは何も悪くない。私がいけないの……。だからその入部届は破り捨てちゃっていいよ。『青春部』はやっぱり創設ーー」

「奥寺、創設を止めるのはなしだ。それと、太刀花。お前にはこの部に入ってもらわないと困る。だからそれに署名しろ」


 今まで黙って存在感をなくしていた幸田先生が唐突に発言した。


「幸田先生! これ以上私の私情に彼を巻き込むのは……」

「報告するのが遅れたが、色々と根回しして『青春部』の活動内容をある程度、私の方で決めさせてもらった。だから今更なかったことにすると、謝罪をしに行かないとならない。その苦労を考えてくれ」

「しかし……」

「じゃあこうしよう。お前たちはこのままでは進級が出来たとしても、卒業が出来ない。何か心当たりはないか……?」


「「……あ」」


 幸田先生の言葉に二人揃って反応してしまった。

 その反応を見た幸田先生はニヤリと何か企みを含んだ笑みを浮かべ、


「決まりだな」


 と、『青春部』創設が決定してしまった。

 完全な教師が生徒に普通はしてはいけない脅しによって……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る