綺麗な消え方はできません。
純
第0話 12月18日 桜木南こども学園・宇月拓海
高く。たかく。もっと遠くへ。ここではないどこかへ。
何度も足を曲げ、勢いをつける。角度が限界になるまで振り切った瞬間、宇月拓海はブランコから飛び降りた。砂場にピタリと着地する。今までで一番遠くまで飛べたことを確認すると、拓海は小さくガッツポーズをした。握りしめた拳から鉄臭い匂いがする。
「サンタクロースにお願いするもの、決めたか」
「うん」
スケッチブックにクレヨンで絵を描いていた宇月雪音は笑顔で答えた。五歳になったばかりの雪音は最近お絵描きに夢中だ。ほっておくと一日中絵を描いていることもある。
「お兄ちゃん、これっ」
「なんだそれ」
「魔法のステッキ」
拓海が覗き込むと、ハートと星と花がたくさんついたステッキの絵が描かれていた。雪音自身のつもりなのか、小さな女の子がそのステッキを振っている。
「これ振ったらね、ママがお空から帰ってくるの。そしたらパパもすぐに戻ってくるよね」
雪音の無邪気な言葉を聞いて、拓海はぎこちない笑顔を浮かべた。
「うん……そうだな。ちゃんとお願いしとけよ」
雪音は何も知らない。だからこんなことを言えるんだ。
拓海は羨ましかった。雪音のように小さければ、こんなに苦しい思いをしなくてもすんだのだろうか。
「お手紙書いとく。お兄ちゃん手伝って」
「わかった」
雪音は跳ねるように走りながら、ご機嫌な様子で学園の方へ走っていく。
今年はサンタクロースは来ないかもしれない。その一言がずっと言えなかった。うまく説明できる自信がなかったからだ。
だから、先延ばしにしていた。雪音が本当のことに気づくまで。できればこのままずっと、雪音が真実を知らないままいられたらいいのに。それが今年のサンタクロースにお願いしたい拓海の願い事になりそうだった。
便箋と封筒を持った雪音が走ってくる。だが拓海の元にたどり着く前に、胸を押さえてその場に倒れこんだ。慌てて拓海が駆け寄る。
「……雪音!」
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