第6話   「摩崖仏」さん(その3) 

【熊野摩崖仏さん】


 あなたに お目にかかるには 

 すこし 厳しい道が あります

 鬼さんが 一夜で 築いたと言う 石段です


 臼杵の石仏さんとは違い

 あなたは まさに 見上げる 荘厳なお姿です


 あなたに お目にかかったころ

 両親は まだ健在でした

 そうして 来るべき

 今の自分を 想像していたように 思います


 でも それは あなたにしてみれば

 昨日のような ことでありましょう


 人間は あまりに はかなすぎて

 いっしょうけんめいに 岩肌を 削るのです

 時を超えて 存在できる

 あなたがたを 生み出すのです

 あなたがたの お姿そのものが

 はかない 人間の いのちの時間なのです

 

 それは 絵も 音楽も 物語も みな同じです

 もし 人が

 ほぼ一瞬で 建物を建て 岩を削り 山を削り

 

 自分を含めて すべてを 消し去り


 相手や周囲の意図を理解し

 会話し

 本も 読めるようになり

 摩崖仏さんをも 作り出せるようになったとき


 おそらく 最後に残るのは 音楽だけです


 それさえ 時間に変えてしまうように なったとき

 人間は 何になるのでしょう


 そこは まだ なぞです

 でも もし その時が来ても

 あなたは きっと 変わらないのですけれど


 人と自然が 消さない限りは

 



 







 


 



 


 

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