第4話   「摩崖仏」さん(その1)

【臼杵の石仏さん その1】

 

 ずいぶん以前、訪問いたしましたとき

 古園石仏さまの頭部は

 まだ壊れたままでした

 

 最近のお写真を 拝見いたしますと

 ちゃんと お体に戻っています

 本当に よかったですね


 平安時代後期には

 もうそこにいらっしゃったとか

 

 そんなに長く いつも

 人間たちを みつめていて

 苦しくは ならないのでしょうか


 ひとは いつも言い訳をしながら

 生きてきました

 「醜い 言い訳をするな」

 と あるむかしの上司は ぼくたち部下を

 どなりつけていました


 それも たぶん間違いじゃなかったのでしょう

 売り上げ成績が上がらなかったのだから

 (ほめられたことも ありますよ)

 でも いつも深夜に(ほとんどもう次の日)、大声で怒鳴りつけることで

 世の中は変わるのだろうか

 なんて 思ってもいましたけれど


 でも ひとは そうやって まとまってきました

 激しく叱責されることさえ

 多くは 正直に 受け入れてきたのです

 

 石仏さまは 何も言いません

 でも 人間は いっしょうけんめいに

 あなたを 彫り上げたのです

 きっと そこには 様々な出来事が

 あったに違いありません


 怒鳴り合ったり

 泣いたり

 ケガをしたり

 ころんだり

 戦争をしたり


 でも あなたは

 ほんの少し 開いた目で

 すべてを 見通そうとなさいます

 

 人間は いまだに混迷を深めるだけです

 もし あなたが 深夜に人間たちを

 本当に叱りつけたら 

 それが 証明されたなら

 どうなるのでしょうか

 世界が変わるのでしょうか?


 ぼくには いまだに確信がありません


 でも 人間は まだ拡大を続けるのでしょうか


 ぼくは そうだと 思います


 このさき 二百年くらいは

 人間は 地球の周囲で 拡大し続けるでしょう

 それから 月で

 そのあと 火星で

 たぶん あと千年は拡大するでしょう


 大きな建物を建て

 もしかしたら 新しい石仏さんも 作られるでしょう


 その後 小惑星帯の開発に取り組むのでしょう

 ここで また千年

 もしかしたら 金星や水星にも

 取り組むかもしれないですよね


 問題はその先です


 でもその頃には もう 木星や土星の

 周囲の開発も 可能になるかもしれません

 

 次は天王星や海王星の周辺を


 そうして 開発競争は カイパーベルトにも 達するでしょう


 誰かが 先に手を着けたら

 必ず 誰かが 追いかけるでしょう


 一万年か二万年くらい先には 太陽系の中で

 もう 人間の行く先がなくなるかもしれません


 次は 他の恒星系に 進出したくなるでしょう

 でも、ここまでくると お金儲けには

 支障が出るかもしれませんね

 時間が 人間には 折り合わなくなるから

 

 とはいえ 革命的な 移動方法が

 見つかっているかもしれません


 臼杵の石仏さまたちは そのころも

 見守っていて くださるのでしょうか


 ぼくは そうだと 思います


 そうして 人の苦悩は

 いつまでも果てしなく 続くのです

 

 ほんとうに そうなると思いますか?


 でもその「とき」は 必ず 来るのです


 やがて 太陽は 滅亡します


 その ずっと先 宇宙も 存在の意味が なくなるでしょう


 人は ようやく 苦悩から 解放です


 石仏さんの おしごとも 終了です



 あらら そこまで 心配していたら


 今夜もまた 寝られそうにありませんけれど








 








 


 

 

 

 




 






 


 


  

 

 







 

 

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