第27話 どう見てもデートですねこれは
試着して鏡で見てもしっくりくる。俺の好みに一番近いものかもしれない。
群青色の布地に月と笹、そして蛍が描かれている。
「うんうん、似合ってる似合ってる。さすがわたしだな」
「今回ばっかりは俺が悪いですね。疑ってしまってすみません。自分でも似合ってるなって思いますもん」
「そうだろうそうだろう。わたしはやるときはやる女なんだ」
「それは重々承知してます。これからどうしましょう、集合時間まであと一時間半くらいありますけど」
「それはもう遊ぶしかないだろう。ついてこい、スイ!」
「イエス、マム」
勇み足の先輩についていきながら商店街を歩く。
にしても、さっきはドキドキしたな。腕をくまれたのもそうだけど、チャラ男を撃退するためとはいえ先輩からイイ男って言ってもらえたのは役得だ。
さっきも、というか今も若干ドキドキしている。朱音先輩によく似合っている、赤い布地に色とりどりの牡丹があしらわれた浴衣、小気味の良い音をならす下駄。うなじからのぞくなめらかな肌に自然と目が吸い込まれていく。
「何をしているスイ、早くしないと置いていくぞ! まずはゲーセンだ!」
ゲーセンではリズムゲーから格ゲーとひととおり遊んで、最後にエアホッケーをすることに。
これは割と身体を動かすため浴衣がはだけやすい。もちろん先輩も例にもれることなく。
「先輩、胸元が危険なことになってます!」
浴衣に包まれていてもなお主張をやめない胸が大層危険なことになっていた。
「む、す、すまない、すぐに直そう」
「っしゃ! 一点ゲット!」
「あ、ずるいぞスイ!」
ゲーセンのあとは楽器店をのぞいた。先輩はおもむろに店員さんにこれ試奏させてもらえませんかと頼むと、手にしたギブソンのファイヤーバードで超絶ギターテクをぶちかました。知らない曲だったが思わず聴き入ってしまうほどで、店内が一斉に静まった。先輩の演奏が終わったあと、バンドマンたちが殺到し、自分のバンドに勧誘しだす。先輩はそのすべてを断り、試奏するだけして店をあとにした。
先輩ギターめちゃくちゃうまいですねと言うと、からから笑いながら、前にも言っただろう、神の指先だと、とドヤ顔でのたまった。なるほど、あの指さばきでサクを悶絶させたのか、と妙に納得してしまった。
そうやっていろんな場所を回っていたらもう集合時間ギリギリの時間になってしまった。
急ぎ足で駅まで戻る途中、朱音先輩が俺に話しかけてきた。
「どうだスイ、サクとは仲直りできそうか?」
「どうでしょう。一応プレゼントは買ってきたんですけど」
「それは良い判断だ。ないよりある方がよっぽどいい。でも大事なのはそこじゃない。スイ、君はまだサクに怒られた理由がわからない。そうだろう?」
「……先輩は何でもわかるんですね」
「当然だろう。ギルドマスター兼スマホ部部長のこのわたしだぞ。メンバーのことなら何でもわかる。君たちが何に悩んでいるのかも、その解決方法も知っている」
「なら教えてくださいよ」
「そういうことは自分で気づくことが大事なんだ。悩め少年。だけど今回は少しだけアドバイスしてやろう。何に怒っているのかわからなくても仲直り自体はすることができるはずだ。ヒント。サクはめったに怒らない。以上だ」
「ちょっと情報量が少なすぎるような」
「甘えるんじゃない。ま、きっとスイなら大丈夫さ。なにせこのわたしが選んだ男なんだから」
きゅっと、唐突に手をつながれる。チラッと振り返った先輩のいたずらっぽい表情に心臓がドクンとはねる。
「な、なんでいきなり手を!」
「スイが遅いからだっ!」
そのまま先輩に手を引っ張られながら小走りで集合場所へ向かい、集合時間五分前に到着した。
「先輩のせいで無駄な体力使いました」
「そんな赤くなった顔で言われてもな」
「これは走って熱くなったせいです!」
「ふふ、そういうことにしておこう。もうすぐサクがくるし、スイは心の準備でもしておけ。わたしは気楽に楽しませてもらうからな~」
「はぁ、ときどき先輩のその飄々とした性格がうらやましくなりますよ」
朱音先輩に言われなくても心の準備はしている。
俺は緊張しながら、サクが到着するのを待った。
そして集合時間の一七時ジャストに、サクが現れた。
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