第20話 ランキング結果

 なんとも微妙な空気が漂う中、先輩が気を取り直すようにのどをならすと、スマホを持った右手とタブレットを持った左手をかかげて交差させる。


「スイ、サク、今日はよく集まってくれた。考えてみると、わたしたちのギルドは惜しいところまでは何度も到達した。しかし、結局ランキング入りを達成したことはなかった。ギルドメンバー同士の結束が深まった今こそ、本気でとりにいこうではないか! 近代機器研究部合宿in春藤家、開始!」

「「お~!」」


 先輩のかけ声とともに、俺たちは一斉にダンジョンに潜りはじめた。つまり、全力で画面をポチりはじめた。

 左右の手を使い、ひたすらタップ。

 スタミナがなくなれば、ためておいたスタミナ回復アイテムを消費して回復。

 夕ご飯の時間まではよかった。二つ同時に操作するのもこれはこれで楽しかったし、ポチりながらもちょくちょく雑談する余裕もあった。

 夕ご飯は俺も加わり三人でカレーを作った。やたら辛くしたがる朱音先輩とやたら甘くしたがるサクを説き伏せてその中間ぐらいの味にするのは大変だったが、苦労の甲斐あって二人が納得するようなカレーが作れてよかった。


 ブレイクタイムをはさんだのち、再びサクの部屋に戻ってポチポチポチポチ。

 合宿のプログラムとしては、日付をこえてもダンジョンに潜り続け、イベント終了の早朝五時までやり続けるというもの。ポチるだけとはいえ過酷なスケジュールだ。

 栄養ドリンクを飲みながら休憩しつつ、眠気と戦う。

 当然三人とも口数が少なくなっていき、深夜二時くらいにはもう誰もしゃべらなくなった。

 誰もが死んだ魚のような目をしながら指を動かし続けている。


「……もう、ダ、メ」


 あ、サクが死んだ。机につっぷして幸せそうな寝息をたてている。

 深夜四時。立派な最期だった。なんせこの中で一番ボス討伐数が多いのだから。

 現在時刻時点の俺たちのランキング順位は、九十八位。これを維持することができれば目標達成だ。

 だがサクが倒れた今、このままこの順位に留まれるのだろうか。

 終了時刻まであと一時間。他のギルドも追い上げをかけてくるだろう。

 と、そこで目にクマをつくった先輩が、のろのろとサクの机に近づいていく。そして、死してなおスマホとタブレットを離さなかったサクの両手から、それらをするっと抜いた。


「先輩、何を」

「こう、するんだよ」


 サクに毛布をかけてあげたあと、先輩は長くしなやかな両手の親指と小指を限界まで広げながら、四つの画面をタップしはじめた。

 へっ、無茶しやがって。こんなの見せられて燃えないやつがいるかよ! と深夜テンション状態でつぶやき、さらにスピードを上げる。

 四時半。九十九位。四時五十九分。百位。

 俺も先輩も眠気を感じさせない動きで最後の瞬間のまでポチり続け、そして。


 ランキング順位、百位。目標達成。


 やった。やったぞ。ついにやった。

 俺と朱音先輩は音もなく立ち上がり、固く握手を交わすと、そのままカーペットに倒れ込んだ。

 俺は疲れと眠気のあまり、一言も発せなかった。

 今は達成感よりも、やっと寝られるという喜びの方が大きい。

 襲いくる睡魔に身をまかせようとしたところで、頭の下に何かが差し込まれる。それはとても柔らかくて、温かかった。

 先輩が枕でも差し入れてくれたのだろうか。だとしたらありがたい。

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