第16話 ソシャゲ合宿開幕
翌日、翌々日と経つにつれやっとブレファン熱が戻ってきて、部室でのダンジョン潜りが再開された。悪夢のR祭りから今までの部室での過ごし方と言えば、先輩はパソコン、スマホいじり、サクと俺は遅れていた人物相関図の更新やネット、リアル友達とのスケジュール調整、というもの。これはこれで必要な期間だったのかもしれない。
ようやく部活動のある生活にも慣れ、友達維持活動と両立できるようになってきた七月のはじめ。
久しぶりに、先輩のスラリと長い片足がテーブルの上に置かれた。
「合宿をしよう!」
ミーンミンミンミン。
気の早い蝉たちの鳴き声が聞こえてくる。
俺とサクは先輩の方を見向きもせず、友達手帳の編集を行っている。
「無視か! シカトか! 反抗期なのか!」
「ちゃんと聞いてますから早く具体的なこと話してください」
「おねえちゃん、そろそろクーラーつけようよ。熱くて溶けそう」
もう先輩に対する扱いも慣れてきたものだ。
「この雑な感じ……それもまたイイ! 合宿と言っても一泊二日、うちでひたすらブレファンやるだけなんだがな」
窓を閉め、クーラーの電源を入れながら先輩をそう言った。
「それってスイがうちに泊まるってこと!?」
サクが友達手帳から顔を上げ、目を丸くしながら驚いて聞き返す。
「その通り! 両親が海外旅行に行く今週だからこそできる。問題なかろう?」
「問題ありまくりだよ! だいたいどこに寝てもらうの!?」
「もちろんサクの部屋だが。合宿だからみんなで寝食をともにしないとな。わたしもサクの部屋で寝るぞ」
「もちろん、じゃ、な~い! 私そんなの初耳なんですけど! てかなんでおねえちゃんの部屋じゃないの!?」
「それはそうだろう。五分前に思いついたんだから。わたしの部屋じゃないのは、物理的に不可能だからだ。足の踏み場がなくてなぁ」
「……はぁ、もうおねえちゃんと話すの疲れた。ちょっと休憩」
「なんだ、体力のないやつだな」
「そういう問題じゃないと思う……」
今から合宿のことを考えているのか子どものようにワクワクしている先輩と、そんな先輩に振り回されてHPが真っ赤っかになっているサクと、完全に取り残された俺。
結局俺はどうなるんでしょうか。春藤家にお呼ばれしてしまうのでしょうか。
だとしたら色々と手を回しておかなければ。家族には友達の家に泊まるってことにして、土曜日にとあるグループと一緒に行く予定だった映画をキャンセルし、春藤家の場所を事前に把握しておき、一人で行けるようにしておかないと。朱音先輩やサクと家に向かっているところなんて目撃されたら今までの努力がおじゃんだ。
サクが休憩を終えたのち、俺も合宿の打ち合わせに参加して合宿の計画を決める。まあほとんど朱音先輩が決めたんだけど。
詳細はこうだ。
土曜日の昼十二時、俺が春藤家に到着。そこからは休憩をはさみつつひたすらブレイドファンタジア。
今回の合宿には達成すべき目標がある。
それは、ブレファン内イベントのランキング報酬を手に入れることである。
イベント内容は、ダンジョンに潜ってザコモンスターをポチポチして倒していき、百階、二百階という節目のときに現れるボスモンスターを倒し、その合計数を競うというものだ。
つまり、スタミナ続く限り、時間ある限りダンジョンに潜り、ポチり続ける、というものだ。
そして、上位へ行けば行くほど報酬が豪華になる。十位までに入ればSSR、百位以内ならSR、みたいに。
この一年間、俺、サク、朱音先輩は同じギルドにいて、何度かランキング入りを目指したが、一度たりとも達成したことはなかった。
この部活動に入り、ブレファンで遊ぶことが習慣化したため、装備品が充実し、レベルが上がってスタミナ上限が上がり、より多くダンジョンに潜れるようになった。
リアルで話し合えるのも大きなメリットだ。
最初は俺もサクも合宿に乗り気ではなかったが、今こそランキング入りを目指すべきだと説かれ、徐々にやる気になっていった。
サクはもともとソシャゲー、というかネットゲーマーで、ネット友達を作るために様々なゲームをしているため、ことゲームについては熱くなりやすいそうだ。
かくいう俺も友達作りのために多くの娯楽にふれてきたが、自ら進んで遊ぼうと思ったのはこのブレイドファンタジアだけ。こだわりというか、思い入れが他のものとは段違いだ。
友達維持活動もあるし、そこまで本気にはなれないな、と思っていたが、やはりどこかくすぶっていたのだと実感する。
先輩の命令には逆らえないから仕方なくブレファン漬けの合宿に参加するしかない、という状況がくすぶっていた心に火をつけた。
すっかり朱音先輩にたきつけられた俺たちは瞳の中に炎をたぎらせ、合宿がんばるぞ! めざせランキング入り! えいえいおー! とかやりだしてしまう始末。
いつも不承不承先輩の思いつきにつき合っていた俺たちが今回はやる気に満ちあふれていたため、朱音先輩はご満悦だ。
だが実際問題、ランキング入りできるかどうかはかなり微妙なライン。三人とも微課金プレイヤーとしてはそこそこ強いはず。ただし、いかんせんギルドメンバーが少なすぎる。フルメンバーが十人だから、あと七人メンバーを増やすことができる。
臨時でメンバーを増やしましょうと朱音先輩に提言したが、それについては秘策があるから増やす必要はないと言われた。その秘策とやらは当日話してくれるらしい。
合宿の話が決まったのは水曜日だったため、木曜日と金曜日にやらなければいけないことを大方片づけた。
そして、土曜日。俺は万全の状態で春藤家を訪れた。
そこは住宅街の一角にあり、豪邸というほどではないが、道中で見てきた中でも一番大きな一軒家だった。
ブレファンに向けての勢いだけでここまで来たが、そういえば女の子の家に行くことなど生まれてはじめてだということに気づき、にわかに緊張しだす。
落ち着け。女の子といっても朱音先輩とサクだぞ? 何を緊張する必要がある。部室でいつも一緒に過ごしてるんだし、場所が変わるだけじゃないか。
若干指先を震わせながらインターフォンを押す。
『は~い。どちらさまですか……ってスイ!? もう来たんですか!? ちょっと待っててください!』
声から察するにでたのはサクだな。ドアモニターで俺の姿を確認するなり慌てていたが、まだ準備が整っていなかったのだろうか。ちょっと早く来すぎちゃったかな。
五分くらい待ったところでサクが玄関から姿を現した。
淡い、ピンクや白系統のトップス。随所に細かなフリルがあしらわれている。下はベージュのキュロットスカート。
「よ、ようこそ春藤家へ。おねえちゃんも中で待ってます。どうぞ中へ」
普段とは違うもじもじした、恥じらっているようにも見えるサクに、女の子らしい服装も相まって不覚にも少しドキドキしてしまった。
「お、おじゃまします」
俺はやや挙動不審になりながら家の中に入る。
壁紙は白で、掃除の行き届いた清潔感のある家だ。
「まずはリビングで昼食をとりましょう。もうご飯の準備はできているのですぐ食べられますよ」
「もしかしてサクの手作りだったり?」
つい出来心でそう聞いてしまった。不躾だったかな。
「そ、そうです。おねえちゃんと一品ずつ作りました。味の方は期待しないでくださいね」
もしかしたら、と思ったが本当に作ってくれていたとは。お弁当を自分で作ってる二人のことだから、食べられないくらい不味いものはでてこないはずだ。にしても朱音先輩とサク、二人の手作り料理を同時に食べられるなんて、嬉しいやら気恥ずかしいやら。
サクに案内されるままリビングへ。
ドアを開けて入った瞬間、パーン! とクラッカーのけたたましい音が鳴り響いた。
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