言葉の箱

cocolove

名もない花

私はコンクリートという

硬い石を押し上げて咲いた

名もない花


"I have no name"


毎朝忙しない人間の

足音を聞きながら

誰の気にも留められず

時には踏まれそうになって

冷や汗を流しながら


それでも太陽の光りを浴びようと

必死に毎日両手を

伸ばして生きています


名もない自分を不思議に思うことも

悲しく思ったこともない

ただの花だった


ある日いつもなら

明るいはずの時間に

空が急に闇に支配され

眩しいほどの光と音が

地上めがけて落ちてきた


コンクリートはビリビリ震え

私の体は恐怖で震えた


雨が激しく降り出し

私が寒さで震え出したとき


誰かが私の所まで

走ってくるのが見えた


体が濡れることも気に留めず

あなたは私の所まで走って来ると

にっこり私に微笑みかけて

持っていた傘を広げ

私のそばに置いて去って行く


私はただ呆然とあなたを見送った

私に気付いている人がいたなんて

私を心配してくれる人がいたなんて

嬉しくて踊り出したい気分だよ


次に太陽が顔を出す頃に

あなたはまた走ってやってきた

傘をたたみながら私に問い掛ける


"お前の名前は何だろうね?"

少し項垂れて私は呟く


"I have no name"


私は名もない花

去っていくあなたの

背中を見つめながら私は願う


意味のこもった漢字(もじ)はいらない

たった一つの音だけでいいから


あの人が私を呼びたいときに

あの人が私を呼べるように


あの人が私を呼んだときに

私が一番に気付けるように

私に名前をちょうだい


"I have no name"


例えあの人と

もう会うことが出来なくても

いつかあの人が私を思い出す時に


たくさん私を思い出せるように

深く私を思い出すように


私に名前をちょうだい


次の日


私の元にあなたが現れて

地面に膝をつき

私に小さく囁いた


"僕が君に名前を

つけてもいいかな?"


こんなに幸せな花は

きっとどこを探しても私だけ

私はあなただけに両手を広げる

あなただけの花になる

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