第一話 聖剣祭

 そこで目が覚めた。視界に映るのはさっきと違って見慣れた自分の家だ。


 何かの夢を見ていた。何だったか覚えていないが、どこか懐かしい気持ちだけが残っていた。


「チヒロ! チヒロいるか!!」


 扉を叩く音によって、一気に現実へと引き戻された。


 まったく……誰だよこんな朝早くから。


 寝起きの思い体を引きずって、さほど遠くない扉にたどり着き、カギを開く。


「なんだよ……」


 そこに居たのは、この村に住む友人のユーリだった。


「おはよう、チヒロ! もう陽は昇ってるぜ!」

「オレ寝起きなんだけど……頭に響く」

「さっさと行くぞ! 聖剣祭の準備に若者が走り回らなくてどうすんだ!」


 ハイテンションのユーリの声が寝起きの頭にガンガンと響く。正直まだ寝ていたいぐらいなんだが。

 ユーリはオレに構わずズカズカと家に入り込み、勝手にタンスの中を漁る。そして、勝手知ったるとばかりに作業用のラフな衣服を引っ張り出した。


「チヒロぉ。早くしねぇと親父に怒られんだろぉ。あと、お茶」


 引っ張り出した衣服をその辺に放り投げて、自らはイスに座った。ユーリの座る木製のイスはカタカタと音を奏でる。そろそろイスの脚を整えなければ。


「お前マジで図々しいな」


 望み通り茶を出して、自分の用意を始める。冷たい水で洗顔をすると、ようやく目がシャキッとする。何を思ってかニヤニヤとこっちを見るユーリを気持ち悪く思いながらも衣服を着替えた。


「お前あいっ変わらずほっそいなー」

「うるさい。男の裸見て何が楽しいんだよ変態」

「ハァ!? お前の裸とか微塵も興味ねぇわ! やっぱ俺様の体はカッコイイよなって思ってたんだよ。お前のヒョロヒョロの体と違ってな」

「お前マーサからキモイって言われてたぞ」


 マーサ。ユーリの焦がれる人で、村一番の美少女だ。


「うそっ!? マジッ!?」

「ウソだよ」


 朝から騒がれた代償もこれぐらいでいいだろう。これ以上遅くなると本当に大人たちに怒られかねない。

 また騒ぎ出したユーリの声を聞き流しながら、村の広場へと向かった。

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