赤い天の川
桜 導仮
赤い天の川
私は彼の事を思い浮かべながら機を織り続ける。
明後日が楽しみだ。
一年ぶりに彼に会えるのだ。
当日は町へ買い物にでも行こうか。
明後日が楽しみだ。
俺は彼女との約束を思い浮かべながら牛の体を洗う。
とうとう明日になった。
窓から外を覗く。
雨が降っていた。
私は川を渡れるか不安になった。
そうだ、今の内に明日の準備をしておこう。
部屋は片付けておこう。
明日雨じゃ無かったら。
雨が振っている。
外で牛が気持ち良さそうに雨を浴びている。
約束は明日だ。
当日だと言うのに外は雨だ。
溜息を付く。
「あいつの所なんて行かなくてよかった」
お父様が言う。
「何でそんな事言うのですか!」
ついつい声を荒げてしまう。
しかしお父様は何も言わず視線を逸らすだけだ。
「私達はあれから変わりました!」
お父様は私を憐れむ様に見た。そして、
「変わってしまったんだよ」
そう言った。
私は顔が熱くなるのが分かった。
「お父様なんて知らない!」
私は叫び、外に駆け出す。
「織姫!」
お父様の声が聞こえるが私は無視して走る。
何が何でも彼の下に行ってみせる。
生憎の雨になってしまった。
出掛けるならば、やはり晴れの方が良かった。
俺は傘を差し外に出る。
彼女に会いに行くのだ。
私は走った。
彼に会うため。
気が付けば天の川の前に立っていた。
目の前は雨で勢いのついた川。
私は歯を食いしばる。
彼に会う為なら。
私は目を瞑り川に踏み込む。
足元に感触。
川がそんな浅いはずも無い。
私は目を開ける。足元には鵲がいた。
「あなた……」
私が声を掛けると鵲はこちらを見る。
気が付けばその鵲に連なる様に他の鵲達が並んでいた。
「ありがとう」
私はそれだけ言い、鵲の橋を渡った。
待ち合わせ場所に付く。
雨だからかまだ来ていない。
俺は空を見上げる。
待ち遠しい。
鵲の橋を渡りきると、いつもの待ち合わせ場所近くだった。
ここからなら。
私が走り出そうとすると一匹の鵲が目の前に立ちはだかる。口には一本の傘を咥えていた。
「本当に何から何までありがとうね」
傘を受け取り、走る。
「彦星!」
彼女の声が聞こえた。
「彦星!」
いつもの待ち合わせ場所に着いた私は叫ぶ。
何も確認せずに。
目の前にはくちづけをする二人。
声に驚いたのか、私の方を向く。
「あ……」
と、呟いたのは彦星。そして彦星の腕の中にいるのは私の知らない女。
「ひこ……ぼし?」
私はもう一度彼の名前を呼ぶ。
その言葉に反応して二人は離れる。
「織姫、これはね、ここで転びそうになった彼女を俺が受け止めてただけなんだよ。な?」
と彦星は隣の女に同意を求める。彼女は頷いた。
「受け止めただけでくちづけまでするの?」
彼の顔が強張る。女の方は下を向いている。
「私の事なんてどうでも良くなったの?」
「ああそうだよ」
彼は苛立って言った。
「大体なんだよ一年に一回しか会えないって」
彦星は隣の女を引き寄せる。
「だから俺はいつでも会えるこいつを選んだ。それだけだ」
私は手に持った傘に力を入れる。
「そう言う訳だからお前はさっさと帰れよ」
振り返り立ち去ろうとする彦星。
私は彼の首元を掴み、思いっ切り引く。
女の力とは言え、奇襲だった為か彼は倒れる。
「何しや――」
私は開いた彼の口に傘の先端を向け、軽く押し込む。
「私はずっと貴方の事を思っていたんですよ」
少し押し込む。
「ずっとずっと」
奥に。
「だから死んで下さい」
全体重を傘に掛ける。
目を見開く彼の喉に突き刺さる。
辺りを雨音が包む。
彼だったものから傘を引き抜く。
「次は」
貴女。と言おうとした時、
「ありがとうございます!」
そう言われ抱き着かれた。
意味が分からなかった。
彼女は私の胸で泣き続けている。
「あ、あの」
突然の事に上手く喋れない。
「この人いつも自分に都合のいい時だけ私を呼び出して、それで色々酷い事されて。私死のうとも思ったんです」
彼女は語りだす。
「そこに織姫様が来て下さって」
あ、と彼女は離れる。
「申し訳御座いませんでした!」
頭を下げる。
「私、織姫様になんて事を」
彼女のそんな様子を見てたら落ち着いてきた。
「貴女も大変だったのね」
「いえ、織姫様に比べたら私なんて」
「そんな事無いわよ」
私は死体に目をやる。
「もうこいつもいないから好きな様にしなさい」
「はい」
そこで一つ思い付く。
「ねえ、貴女さえ良ければ私の所に来ない?」
「え、でも」
「家族の事なら大丈夫。一緒に住めるようにするから」
「私の様な者が良いんですか」
「私がどうにかする」
「よ、よろしくお願いします!」
彼女は元気良く言った。
「そしたら、親御さんに言って来なさい。後々迎えに行きますから」
「はい!」
そう言って彼女は走り去っていった。
さて。
私は死体を一蹴り。
そのまま蹴り続け天の川付近まで。
思いっ切り蹴飛ばす。
ドボン。
と、音がして死体は底に消えてった。
死体から流れた血で川の一部は赤く染まる。
さあ彼女を探しに行こう。
私の物を取った奴は私の物にするのだ。
赤い天の川 桜 導仮 @touka319
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