第23話 めり~くりすます
君の声がする まだ僕を呼んでいる
二人だけの秘密の場所 In my dream
君の声がする まだ僕を呼んでいる
振り返る僕 約束の明日に君を描く
「詩人だね。抽象的な詞だな」
アフロマンはノートを僕に戻した。
詞が完成し、スタジオで曲を録音をした。
弾き語りでの一発録りだったけれど、割と良い感じにとれた。
歌にかけたリバーブとギターの部屋鳴り、その二つの空気感が良い具合に曲の雰囲気を高めた。
「お前の詞ってそんな感じだよな。なんていうの、言葉を並べるっていうか、置いてくって感じだな。詞だけ見るとなんだこりゃってなるんだけど、曲を聴きながら見ると雰囲気が出るよな。あぁ、意味わかんねえけど、こんな感じかって」
「意味わかんねえけどって、それじゃ、ちょっと悲しくなるんですけど。書いた方としては」
「気にすんな。アーティストとは理解されがたいもんだからよ」
アフロマンは缶コーヒーを振り、プルリングを起こした。
「これであとは二十六を待つだけか。ばっちりスタンバっとくからよ。俺の方も準備はOKだからよ」
準備はOK…?
なぜ…、そんなに顔をくしゃくしゃにして微笑む……。
一体なにを企んでいるというのか……。
アフロマンの笑顔に僕は不安になった。
「すごく嬉しいんですけど、あの、…あまり強引なことは」
「大丈夫だって。そんな心配そうな顔すんなよ。変なことはしねえよ、大丈夫だ。約束するって」
十人十色。人はそれぞれにそれぞれの考え方がある。
そしてそれは、変なこと、にしても同じだ。
僕が変と思うことでも、アフロマンからしてみれば、ナイスサポート! となってしまうこともある。
不安で仕方なかったけれどもう時間がない。
ここまで来てしまったらどうしようもない……。
もう、どうにでもなれ…、だ。
「はあ…。それじゃ、よろしくお願いします」
僕はスタジオの中に戻り、ギターを手に一人歌い続けた。
去年も一昨年もそうだった。だから、今年もそんな感じなんだろうと思っていた。
うん。
そして、やっぱりそんな感じだった。
クリスマスだからといって、特にこれといった出来事は何もなかった。
ケーキとチキンとピザを食べまくっただけだった。
いつか、クリスマスは自分にとって特別な一日になったりするんだろうか。
恋人と二人で過ごすホワイトクリスマス。洒落たレストランを予約して、プレゼントを交換し合って、そしてキスを交わしたりなんかして。
僕はそんなことを考えながら、雪を被った寒々としたベンチの写真を眺め、初めて誰かのために作った曲を聴いていた。
スタジオで曲を録音した翌日、二つ上の従兄弟からデジカメを借り、赤レンガ倉庫へと向かった。
そしていつものベンチを撮影した。
僕らが何度も腰を下ろし、そして夢の中でも話しをし続けたこのベンチ。
世羅へのプレゼントCDのジャケットにするには、ここ以外考えられなかった。
雪を被った寒々とした姿だったけれど、それはまあ、…それで良しとすることにした。
パソコンに取りこみ、サイズを合わせ、裏面に日付と歌詞を入れ、それを光沢紙に印刷するとそれなりに良い感じの見栄えになった。
準備は万全だった。出来ることはやった。
後は世羅のために一生物の思い出になるようなそんな瞬間を歌い上げるだけだ。
CDを止め、僕は十七度目のクリスマスに別れを告げた。
「メリ~クリスマ~~~スっ!」
黒髭危機一髪みたいだった……。
世羅はドラム缶から真っ直ぐに飛び出した。
そして、着地するとドラム缶を漁船に向けて思い切り蹴った。
ドゴォォォオン!
バアアァァァァッン!
……。
………。
まさに、…惨劇だった。
漁船に当たったドラム缶は激しい音と共に爆発し、その勢いで漁船も高く炎を上げ炎上した。
「良かった、今日真樹君が夢を見てくれて。メリクリ、真樹君」
世羅は頬に手を添えにっこりと微笑んだ。
そして炎を背にこちらへとゆっくり歩いて来た。
「…メリクリ」
隣に腰を下ろした世羅に僕は言った。
「えっ! なにこれ? すごい燃えてるよ!」
「……そうだね」
「もう、なんでこんなに」世羅はそうぶつくさと文句を言いながら立ち上がり、スローインをするかのように頭の後ろに両手を回した。
「やあああぁぁっ!」
大声と共に世羅は手を振り下ろした。
ゴオォォォッ、と風を切る音が聞こえ、そしてバンっと拍手を百倍大きくした音が鳴り、…漁船は炎と共に消えた。
…。
……。
「おっけ~~~っ!」
世羅は漁船の消えた海へと向けて人差し指を指した。
「改めて、メリークリスマス」
「メリークリスマス……」
「今日は何をしてたの?」
「家でケーキとチキンとピザを食べただけ」
「良いじゃない。どれも好きよ、私」
「世羅の食べた物と比べたら、ジャンクフードって感じだけどね」
「私はそっちの方が好きだな。家族でゆっくり過ごしながらケーキとか食べて」
「俺はもうそんなクリスマスに慣れちゃってるからね。またか、って感じ」
「私もまたかって感じ」
世羅が笑ったから僕も一応笑ってみた。
クリスマスのクオリティーは全然違っていても、お互いに過ごし慣れたクリスマスには変わりないってことみたい…だから。
「そして、とうとう残り一日になっちゃいました」
人差し指の動きに合わせ、世羅は体を左右に揺らした。
「だね」
「だねって、もっと他になにかないの? 世羅行かないでくれとか、寂しくて生きていけないとか」
「寂しい、行かないで」
!?
世羅の拳が頬をかすめた。
ドンっ!
音がした方を見ると、自動販売機が大きくへこんでいた。
衝撃波……か?
さすが……、夢。
「気持ちがこもってないなあ」
もう一度言おうかと思ったけれどやめた。
今度は僕が自動販売機のようになってしまいそうな気がした。
僕は笑って誤魔化した。
「明日、二時で大丈夫だよね、ここで」
「うん、よろしくね。ここで過ごす最後の日プラス私の十七歳の誕生日のお祝い」顔の前でピースをし、世羅は言った。
「忘れられない一日にしてやる…ぜ」
「えっ?」
「…………」
「うん? なに?」
しまった…。
慣れない冗談なんて言うんじゃなかった…。
恥ずかしい…。
消えてしまいたいくらい恥ずかしい。
「あっ、いや…。頑張るよ。俺なりに、一生懸命……」
「忘れられない一日とか言わなかった?」
「それはいいやっ! まあ、楽しみにしてて! うん」
「なに? なんか慌ててない? 真樹君」
はわああぁぁ。
そんなこと言わないでくれ。そんなこと言われると余計パニクってしまう。
「慌ててなんかないって。全然普通だけど?」
「なんか変…」
マジマジと見つめてくる世羅の視線に耐えられず、僕は顔を背けた。
「なんでそっち向くの?」
……!?
「ねえ?」
世羅は僕の前にしゃがんで言った。
「なんでもないって。そっちこそ、なんでそんなに……」
「なんでって、怪しいから真樹君が」
「怪しくないって」
「怪しいって、ほら、また目をそらす」
「本当になんでも――――」
景色がぎゅっとねじれた。
「あぁ、もう! それじゃ――真樹君明日――――」
セピア色に染まった空に浮かぶ海を見ながら、僕は喜んで言った。
「明日!」
「もう―――――」
溜息と共に目を開いた。
そしてベッドから起き上がり部屋中に響くマイ・アイアン・ラングを止め、思いっきり伸びをした。
時は進む。
そして僕らも進む。
その日は必ずやって来る。
そしてやって来た。
世羅の誕生日、そして世羅との別れの日。
十二月二十六日が。
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