ニセモノ勇者は良識派
裏山ユアン
第1話 転生
「おい、類斗。パン買ってこいよ。やきそばパンな」
賑わう教室。前まで静かに授業していたなんて嘘みたいに みんな好きな事をする。クラスメイトが半数減った教室で、ブレザーの背の高いクラスの男子に声をかけられたのは 僕、阿部類斗。
「わかったよ。他のみんなの分も買ってくるね」
いつものお使い。はやく買わないと 売り切れてしまうと思い、壁が少し汚れた白亜の学校。その廊下を早歩きでかける。
目指すは 売店だ。これが僕の日課だ。
「ありがとな。類斗 やっぱお前有能だわ」
「よっ。学校の良識人」
「お前を嫌ってる奴はいねーよ。たぶんな」
パンを無事に人数分買い終え、パンを頼んだ男子生徒達に僕は褒められる。
「そんな持ち上げないでよ。恥ずかしいじゃないか」
嬉しいけど、照れてしまう。人の役に立つ事が楽しい。僕の居場所は ここなんだな。
しばらくして キンコーンカンコーンと チャイムがなる。もう直ぐ授業が始まるな。
僕は自分の席に座り、授業の準備をした。
先生や生徒に挨拶をし、僕は帰路を急ぐ。いつもの黄昏時、いつもの道。リュックをからう僕の隣で 自転車が横切る。この細道を抜ければ車が行き交う大通りだ。
コンビニ、書店、小さな裁縫店、ファミレスなどが並ぶ大通り。大小様々な車両が 互い違いに忙しく動く。歩行者用信号の色が変わるのを待つ僕。となりには歳場のいかない小学生の女の子グループ。女の子達はクラスメイトのだれがかっこいいかと話題に夢中だ。
しかし、そんないつもの日常に不穏な影が。それは 歩行者信号が青に変わった直後だった。
なんと、一台の大型トラックが歩行者専用道路につっこんできたのだ。しかも運悪く 女子グループを目掛けてっ !
「きゃああああっー !」
悲鳴が聞こえる。それから僕は、僕は、
覚えているのは 全身の激痛と、骨がおれる嫌な音だった。
***
次に意識を覚醒した時に真っ先に目に入ったのは この世の者とは思えないほどの眉目秀麗な青年の姿形だった。
彼は青のマントを羽織り、青系統で揃えた服を着、頑丈かつ軽そうな胸あてをしていた。足は少し汚れたズボンの上にすね当てをし、使いなれた風のブーツを履いてる。右手には刀身が光り輝く剣、左手には紋章が特徴的な 金縁の盾を装備している。
漆黒のような艶のある髪とマントをはためかせ、海のような深い深い青の瞳を僕に向けている。僕を見る その眼は睨みつけているようにも、不快に思ってるようにも見えた。
「驚いたな。これも魔王の策略か」
静かにつぶやくその声は芯が通っていて、聴き心地が良い。
え、魔王ってなんのこと? 彼はもしかして勇者だったりするのかな。
「ドッペルゲンガー種か。しかし、色は違えど 俺がもう一人いるのは気色が悪い。魔物ならば倒させてもらおう! 」
彼は剣をこちらに振り上げた。え、ええっ!?
「ドッペルゲンガーってまさか、ぼ……」
しかし、言葉を出す前に 勇者の剣が僕を襲う。首を刎ね飛ばさんとばかりに 鋭い勢いで。
空気が冷える。視界がまわる。
どうやら間一髪 無意識に横転がりで避けたみたいだ。
「っあぶなああっ!! 」
水しぶきが上がる。隣は水たまりなようで、避けた際に 僕の今の姿がちらっと見えた。彼と同じ顔で 赤マントと 銀の髪、赤目だった。
しかし、よく確認する間も無く 次の攻撃がくる。
怖い、怖いっ! 避けねばやられるっ!!
「ひいっ! 」
水しぶきが、泥が僕を汚す。勇者の剣も汚す。
僕は闇雲に彼の 縦斬り横切り、乱れ斬り、避ける。
彼にはどんな姿の自分が写ってるのだろう。勇者とは 程遠いかな。
「ちょこまかと逃足だけは 速いな」
イライラとした口調で彼は喋る。でも気にしたらダメ。今は逃げないと、逃げて生き延びるんだ。
「ライト! はやくきてちょうだい! 」
誰かが 名前を呼ぶ。女の子の声。その声に勇者の彼は 反応する。舌打ちしながら。
「……わかった、今行く」
ライト、そう呼ばれた勇者の足音が聞こえる。同じ足音の僕を遠ざかる。僕も彼から遠ざかる。
助かったみたいだ。良かった……。
でも、僕は これからどうすればいいのだろう。
ニセモノ勇者は良識派 裏山ユアン @yuann
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