キラメキスポーツ・オンライン

大福介山

第1話 動かせ身体、脈動せよ命

ミックスドリアリティは、現実空間と仮想空間を融合させ、現実と仮想的がリアルタイムで影響しあう「複合現実」を構築する技術。よりリアリティのある仮想空間を実現するMミックスドRリアリティ技術は、人工知能と医療・リハビリと結びつくことで更なる飛躍を遂げた。


 街中には人工知能を搭載したドローンが飛び交い、MR技術を取り入れた電子機器が生活の一部となった。人々は病予防と利便性のためナノボット・マイクロチップを体内に埋め込み、電子機器やセキュリティと繋がることは、今や人々にとって日常と変わらない。障害を持つ人々はその身に最新式の強化ギプスや義肢を装着し、もはや健常者すら遥かに超える能力を開花させている。


 中でも、MRと相性が良くエクストリーム選手やパラスポーツ選手からも絶大な支持を得ており、スポーツリハビリ医療でも大いに貢献しているのが、キラメキスポーツ・オンライン。通称キラスポ、略称KSО。


 エクストリームスポーツを取り入れたこのMRMMOは、競技に合わせた専用のスポーツギア・スポーツビークルを用いて電脳空間や現実世界でタイムスコアを競い合い、華麗なキラメキアクションを決めてキラメキポイントを獲得し、プレーヤーが煌めくことが最大の特徴。


 スケートボーディング・フリースタイルモトクロス・BMX・ドラッグレース・エアレース・アグレッシブインラインスケート……。極端なスポーツは過激に楽しく、プロを目指す高度な選手も参加して一般プレーヤーと入り乱れ、激しく煌めきながら熱中させている。


――――……――――……――――……――――……――――……――――……


「よっしゃあ、煌めくぜ!」


 今日も一人、キラスポプレーヤーの少年が、競技フィールド内で見事なボードテクニックを決めて、人々を魅了させていた。


 彼の名はアッシュ。灰色の髪色が特徴。

 エクストリームスポーツの中でもスケートボーディングを得意とし、スポーツギアは浮遊移動が出来るエアボード。アッシュは高速で移動した後、跳躍して宙を一回転しながら加速降下。壁に接近すると足首を動かしてボードを方向転換。コースの真ん中でブレーキを掛けて綺麗に停止させた。


『エェクセレェントォォキラメキ~ィ!! 超~イケてるぅ~!!』


 ボードアクションを終えると、フィールド全体に妙にテンションの高いアナウンスが流れた。

 同時にアッシュの周りを煌びやかなエフェクトが飛び交い、光り輝く星マークが表示される。


 しかし、実際は両目耳部分に嵌めた、アイイヤーマウントディスプレイ越しの出来事。

 広大なリハビリスポーツステーションに赴き、現実空間と仮想空間を融合されたリアルタイムで影響しあう「複合現実」を構築した空間で行われており、よりリアリティのある仮想空間を実現している。

 ステーション内の何もない空間に、実際に存在する実物大のボードや、アトラクションなどを置き、大きさや見た目などの視覚情報をMRで得ることにより、より詳細な情報を収集することが可能な3Dホログラムのようなものだ。


「へへっ、どうだシューティー?」

「かっ~、見事だよお~!」


 先程から自分のボードアクションを眺めている陽気そうなプレーヤー、シューティーに向かってVサインを送る。彼は、リアルでもアッシュの友人であり、ここ最近になってキラスポにも興味を抱いて始めた初心者プレーヤーだ。


「俺もストリートではスケボーやってたけどよお、こっちはゲームん中だからすげえ動きが出来んのな?」

「すげえだろ? こうやって華麗で過激なアクションを決めて、キラメキポイントを稼ぐんだよ」


 アッシュは、今のアクションで自分が稼いだキラメキポイントを電子スクリーン表示させる。


「今のお手本で1000ポイント。どれだけ他のプレーヤーを楽しませれるかも鍵だ」

「ワッツ!? お手本でも1000行っちゃうのかよぉ!? アッハ~ン、俺も煌めくぜぇ!!」


 アッシュに触発され、シューティーも自分のエアボードを掲げて声高らかにはしゃぎ出す。


「ああそんでよ。俺始めたばっかだから、ちょっとレクチャーしてくれよお!」

「よっしゃ、いいぜ!」


 景気良くハイタッチを交すアッシュとシューティー。

 その後は自らお手本を見せながら、シューティーに手解き。彼が早くこの世界でコツを掴めるように練習に突き合った。そうして一時間が経過する頃には、陽気な少年シューティーはすっかり紅色のボードを乗りこなせるようになっていた。


「よ~し、俺も結構イケるようになったんじゃね~のアッシュ?」


「ああ、それぐらい出来れば大丈夫だな」


「しっかしまあ、キラスポってよお、ファンギャラの剣や銃とか、艦ドバZの砲撃と違って、このスポーツギアやスポーツビークルで戦うようなもんなんだな」


「ああ。この世界は、このスポーツギア一つで何処までも行けるんだ……」


 アッシュはボードの側面に設けられているグリップを握り、そのままボードの先端を真っすぐ空に掲げ、満ち足りた笑みを浮かべて得意げに言う。愛用のボードはグレーアッシュがかったブルー。丸みを帯びた形状で性能は標準。基本を使いこなすポリシーで改造の類はしていない。名は「ブルードラセナ」。


「そういやよお、俺のボードはレッドドラセナって名前だけど。お前のブルードラセナの色違いか?」


「同系統のギアじゃないか? 俺のは標準性能だけど、お前のは若干スピードが速くて先が少し尖ってるしブースターが大きいだろ?」


「あ確かにぃ……って、お前の方がプレイ長いのにまだ標準、初期装備ってことお!?」


「基本を使いこなすのがポリシーだし」


「アッハ~ン、そういうこと」


 お互いに他愛の無い会話を繰り広げている中、ふとキラスポフィールド内の空が赤く染まり、時刻が夕方になっている事に気が付く。もう夕ご飯の時間である。季節は夏休みに入ったばかり。まだ現実世界の空は赤いだろう。


「そろそろ帰るか」

「んだな、かえろ~!!」


 2人ともログアウトをしようとしたが、突如急激な揺れが発生。まさか地震かと思った瞬間、さらに五感に響くような激しい衝撃が襲い掛かる。思わず頭を押さえて身悶える。やがて脳を直接揺さぶられるような気持ちの悪い感覚。意識が刈り取られそうな激痛と衝撃が身体全体に走る。


 アッシュとシューティーだけに起こったことではなかった。


 キラメキスポーツ・オンラインの全プレーヤーに、この現象は襲い掛かっていた。


 ログインしている者。


 ログインしていない者問わずに。


 やがて、KSОプレーヤー達の身体は粒子に包まれ、何処かへと転送されていった……。


――――……――――……――――……――――……――――……――――……


「一体何が起こったんだ……!?」


 ワールドインフィニティ・オンラインを運営・管理するGFF社では不測の事態が発生していた。


 突如、サーバー全体が原因不明のエラーを起こし、WワールドIインフィニティOオンラインに付属しているMRMMOにまでサーバーエラーが起こり始めた。現場のスタッフは必死に原因を探ろうとした。この巨大電脳世界が開発されてから10年以上、あの天才エンジニア御門みかど御守みかみが作りだした、AIが管理する完璧な世界にこの様な事態が起こったこと等無かった。


「緊急メンテナンスを実行するんだ!」


「駄目です! こちらの操作を一向に受け付けません!」


「こちらもです。まるで言うことを聞きません!」


「なんだと!? まさか……サイバーテロか!?」


 もしや、新たなサイバーテロの可能性がスタッフ達の脳裏に過る。フクオカシティを中心として世界のイニシアチブを握った日本のことを快く思わないところは世界中に存在する。


 しかし、彼らの予想をはるかに超える事態へと発展した。


 WIOの膨大なマスターデータを保有する施設内の巨大コンピューター群と、各MRMMOに連なるコンピューターから一斉に激しい電流が放出。やがて火花を散らして範囲を拡大し、代表が避難を指示した時には既に手遅れだった。


 激しいエネルギー爆発が部屋全体を通り抜けた。その場にいたスタッフ達はデスクやホワイトボードなどが盾になり、辛うじて壁や地面に叩きつけられて怪我を負う程度で済んだ。


 だが、爆発で発生した膨大なエネルギー波はGFF社の窓という窓を突き破り、一斉に社外へ放出された。


 エネルギー波は徐々に拡大しながらフクオカシティへ降り注ぎ、日本全土を越えて地球上へと拡大していった。


 爆発中心源と繋がっていた8つのMRMMOは、ネットワークサーバーと現実、外と内両方からエネルギー波の直撃を受け、連鎖反応を起こして同様のエネルギー波を発生。


 各ゲームへログインしていたプレーヤー達は、何が起こったか理解できないまま、内側と外側から強大なエネルギー波を浴びる羽目になり、ログインしていなかったプレーヤーや大勢の人々もその直撃は避けられず、その身に浴びた。




 その日、全てが変わった。


 現実的という概念と言葉に構築された常識は、未知の開花により覆された。


 人々の平和を謳歌する日々はひっくり返り、まるで幻であったかの如く、何もかも音を立てて崩れ落ちた。


 後に、この未曾有の事件は、電脳実態化ネットワークリアライズと名付けられた。


 MRMMOが、電脳世界が人類の敵対者として牙を向いた瞬間だった……。

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