タテヨコアワセテ
時岡 空
Chapter 1 イントロダクション
「〈
「……参りました」
目の前で、静かに頭を下げられた。
「決まったあああああ! 今年の『バトルモンスターズ』世界大会優勝は、何と初の女性プレイヤー!
マイクマンの高らかな実況。スポットライト。紙吹雪。観客の人達の鳴り止まない歓声と拍手。その全てが、私に向けられていた。
「横井さん、おめでとう!」
舞台袖からトロフィーが運ばれる。席を立ち、大会主催者から受け取ったそれは、信じられなさと相まって、ずっしりと重かった。
「さあ横田さん、感想を!」
「えっと……何か実感持てないですけど、とりあえず嬉しいです」
月並みな感想でも、世界の舞台では名言になる。拍手喝采が私を包んだ。――私・横井瑠奈はその日から、その名を検索すれば出てくるようになった。
バトルモンスターズ。世界で最も売れていると言われるカードゲームである。年に1度行われるその世界大会で、私は優勝を勝ち取った。現役女子高生でありながら。
とは言っても、若さを誇りたい訳ではない。カードゲームなんて、女子高生のすることではない。そんな風潮がある中で優勝したこと、いやそれ以前に、優勝するほどにやりこんでいること。それ自体が問題なのだ。ほんの少し、身内でたしなむ程度にやっている人なら、女子高生という縛りをつけてもたくさんいるだろう。だが私のように、いわゆる「ガチ勢」になり出すと、話は別だ。
それに……私は、女子としては致命的なほど女子力がない。
サバサバした性格で、料理もできず、裁縫もできない。家ではジャージ、スカートよりもパンツ派。髪は長いと鬱陶しいのでショートにした。部屋の整理も、いよいよゴミ屋敷と化す直前にしかしない。女子として失格だ。だがそんな私でも、恋をしている。
「おはよう、横井さん」
靴箱でたまたま会った私に、穏やかな声で挨拶する彼・
「昨日の、ライブ配信で見たよ。おめでとう」
実は彼もバトルモンスターズをやっているのだが、彼は世間で言うところの「カジュアル勢」。大会等にはたまにしか参加せず、それも大抵小規模の大会だ。そんな彼でも、世界大会の模様は生中継で見ていたらしい。
「あっ、見てくれてたの? ありがとー」
恋している相手だからといって、私は特に応対が変になるタイプではない。だからこそ、私の心に気づいてくれない。それが悩みでもあった。
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